Archive for the ‘コラム 司法修習’ Category

司法修習のお話~その11 静岡での検察修習2

2024-04-21

私たちの指導担当検察官

皆さん、こんにちは。弁護士の石川です。

前回は、実務修習の中の検察修習についてお話をしました。今回は、検察修習の2回目です。

私たちが検察修習を受けたときには、学習塾の教室のような、全ての席に座れば最大30人ほどが入れるような部屋があり、その部屋に、修習生6人と指導担当検察官が対面で座るような感じでした。

私たちを指導してくれた担当検察官は、一旦会社にお勤めされた後、司法試験に合格されて検察官になった方でした。

私自身、検察修習というか、検察官、検察庁には、バリバリの体育会系のイメージがあり、修習開始前は、すごく恐いところというイメージがあったのですが、指導担当検察官は、いつもニコニコ朗らかな方で、安心して修習を受けることができました。

前回のブログで、検察官と被疑者、被告人が対立当事者にあるというお話をしましたが、被疑者、被告人とともに、弁護人(弁護士)も、検察官との関係では対立当事者です。

そのため、弁護士になって以降は、なかなか検察庁にお邪魔する、特に、検察官に個人的に会いに、検察庁内に立ち入るということは無いのですが(0ではありません)、お目にかかる機会があれば、また指導担当検察官にお会いしたいなぁと思っています。

弁護士になっても使える「簿記3級」

さて、指導担当検察官に関する思い出をもう一つご紹介します。

静岡修習は4班制で、各裁判修習、弁護修習、検察修習を班ごとに廻っていきます(詳しくは、こちらの記事をご覧ください)。

あまり記憶が定かでないのですが、確か、私たちの班が検察修習を受ける前の時点で、静岡の修習生全員を対象にした検察修習の事前案内か、指導担当検察官との懇談会というものがあったように思います。

その際、「修習期間中に何をやったら良いでしょうか。」という質問をした修習生がいて、その質問に対するご回答だったと思いますが、「簿記3級を取りなさい。」というのが、担当検察官のお答えでした。

検察官として、会社の不正が絡むような事件を扱う際、決算書や帳簿類を見るのに、簿記の知識があると大変役に立つ、のみならず、弁護士の業務を行ううえでも大変役立つであろう、というお話であったように記憶しています。

その後、私は、簿記3級を取ろうと思って、テキストを買ってみたのですが、最初の数ページで早くも挫折してしまいました。

しかしながら、簿記を持っているというのは、やはり弁護士にとっても有用であると思われます。

特に、会社の破産事件では、会社の決算書や帳簿類を見る機会が多く、その際、簿記の資格は非常に役立つと思います。

もう一度簿記3級にチャレンジしてみるという気概は今は無いのですが、もしこのブログを読んでいる奇特な修習生がいらっしゃるとすれば、私も、私の指導担当検察官と同様に、修習中に時間があれば(法律の勉強をしてもなお余裕があれば)、簿記の勉強をされることをお勧めします。

検事正のお話~「共感する力」

検察修習中、当時の検事正(地方検察庁のトップ)と修習生がお話をさせていただく機会がありました。

本ブログの冒頭、私にとって、検察修習はバリバリの体育会系で、恐いイメージがあったというお話をしたのですが、私が修習を受けていた当時の検事正は、お日様のような、ポカポカとした温かい人柄の方で、修習生はみんな検事正のことが好きであったと思います。

キリッとした次席検事と、温かな検事正と、僭越ながら、あのときの静岡地方検察庁の検事正、次席検事は、非常に良いコンビであったと思っています。

修習生との懇談の場で、検事正は、検察官と被疑者、被告人は対立する立場にあるけれど、被疑者、被告人の立場になって考えてみる、共感する力が大事である、というお話をされました。

私の検察修習の中で、このお話は大変印象に残りました。

「共感」というワードは、検事正に限ったことではなく、刑事裁判官からも聞いたことがありました。

私が弁護士となって数年後、小学生を対象とした刑事裁判の傍聴ツアーに、弁護士会側の担当者として同行したことがありました。

この際、同見学を担当していた刑事裁判官も、もし自分が被告人の立場であったら、どういう行動をしたであろうか、どう思ったであろうかということを考えて判決を下しています、というお話をされていました。

弁護士という仕事は、基本的には、依頼者である個人や会社から相談や依頼を受け、依頼者の立場に立って、仕事を進めていきます。

その意味では、弁護士業務において、依頼者に共感する力が求められる場面は多いと思います。

しかし、弁護士だけではなく、被疑者、被告人と対立する立場にある検察官や、双方の主張を聞いて判断を下す立場にある裁判官においても、被疑者、被告人の立場に立って考えてみる、という視点をお持ちであるということはとても新鮮に感じられました。

司法修習のお話~その10 静岡での検察修習1

2024-04-10

検察修習と弁護修習との共通点

皆さん、こんにちは。弁護士の石川です。

今回は、最後の実務修習、検察修習での思い出を紹介します。

刑事裁判や民事裁判など、裁判所での修習と、検察修習との大きな違いの一つは、修習生と当事者との距離だと思います。

より具体的に言えば、被疑者や被告人と、修習生との距離ということです。

これは、弁護修習における依頼者と修習生との距離にも類似する事柄だと思います。

刑事裁判修習や民事裁判修習では、基本的には、弁護士や検察官が主張する内容を前提に、裁判所としてどのような判断をするかということを勉強します。

これに対して、検察修習では、当事者=被疑者から、問題とされている事象に関する事実を聞き取り、聞きとった事実がどのような罪に該当するか、ということを検討します。

また、検察修習では、該当すると考えられる犯罪について、裁判になったときに、その事実を証明できるだけの証拠が揃っているかどうかについても検討します。

弁護修習でも、依頼者や相談者から、問題となっている事項について事実を聞き取り、それが法的にどのような効果を持つ事実であるのかを検討します。

また、裁判になった際、聞きとった事実を証明できる証拠があるかどうか、ということについても検討します。

このように、検察修習と弁護修習は、裁判修習のように、用意された事実を前提として結論を検討するのではなく、自ら当事者から事実を聞き取り、事実を明らかにしていくという性格が強い修習であると言えます。

検察修習と弁護修習の相違点1~対立当事者からの聞き取り

しかしながら、検察修習と弁護修習とでは、修習生と当事者との関係に大きな違いがあります。

弁護修習で事実関係を明らかにするために聞き取りを行う場合、多くの場面で、聞き取りを行う対象者は依頼者であったり、相談者であったりします。

つまり、大抵の場合、聞き取り相手は、弁護士(あるいは修習生)に対して友好的です。

しかし、検察修習の場合、検察官側が聴取しなければならない対象者の多くは、被疑者、被告人であり、いわば対立当事者であるわけです。

そして、被疑者、被告人は、何らかの罪を犯したと疑われて取調べを受ける立場にあります。

被疑者、被告人は、通常、自らが発言する内容によっては、自らに不利益が及ぶ可能性があることを認識しています。

そのため、被疑者、被告人においては、自分を守るために、自分に不利益と思われることを進んで話をするということは、あまり期待できません。

このことは弁護人の立場からすれば、当然のことで、自分が弁護人として、被疑者等と面会する場面で、被疑者にとって不利益になるようなことについて進んで話すよう勧めることはあまりありません(ただし、比較的軽微な事案で、記憶にあることを全て話した方が勾留を延長されずに釈放される可能性が高いと思われる場合には、被疑者に対して、記憶にあるとおり取調官に話をするよう勧めることもあります)。

検察修習と弁護修習の相違点2~「決裁」の制度

また、弁護修習と検察修習との大きな違いのその2として、検察修習においては、というよりも、検察庁においては、「決裁」の制度があります。

被疑者を取調べ、こういう罪名で公判請求をしよう(刑事裁判にかけよう)と判断した場合、あるいは、今回の罪については、不起訴で良いだろうと判断をした場合、いずれの処分にする場合でも、役職のある検察官(通常は、地方検察庁のNo.2にあたる次席検事になるのでしょうか)の決裁を仰ぐ必要があります。

決裁官とは、なぜそのような処分が妥当であるのか、ということや、公判になった場合に立証ができるのか、その証拠としてはどのようなものがあるか、ということについて問答を行います。

決裁官が、処分内容が妥当でないと判断したり、処分についての根拠が不十分であると判断したり、証拠が不十分であると判断したりした場合、決裁が通らず、もう一度検討するということになります。

ちょうど法務省のウェブサイトに、次席検事による決裁に関するページがありましたので、リンクを貼らせていただきます。

もちろん弁護修習でも、指導担当の弁護士と打合せをしたり、議論をしたりしますが、「決裁」という明確な形をもって、「OK」、「ダメ」という判断が下される点が、検察修習の特色でもあると思います。

当時の次席検事は、大声を出すとか、怒鳴るとか、そういうタイプの人では全く無かったのですが、「決裁」の際はかなり緊張しました。

数年前、某事件の関係で、テレビを通して、当時の次席のお顔を拝見し、決裁のときのことが懐かしく思い起こされました。

司法修習のお話~その9 静岡での民事裁判修習

2024-04-01

弁護士の仕事を裁判所から見る修習

皆さん、こんにちは。弁護士の石川です。

昨秋連載(?)していた司法修習の思い出ブログですが、途中で止まってしまっていたので、最後まで書き上げたいと思います。

最後にご紹介したのは、民事裁判修習に関するお話でした。

さて、私にとって、民事裁判修習は、刑事裁判、弁護修習に続く、3つ目の実務修習でした。

弁護修習では、お二人の指導担当弁護士の先生に付いて、色々な事件を見せていただきました。

現在の私と同じく、お二人の指導担当弁護士も、業務の大半(9割以上)は、民事事件でした

(民事事件と刑事事件の違いについては、こちらのブログをご参照ください)。

弁護士の仕事の多くが裁判所で行われるものかというと、決してそうではありません。

裁判所を使わずに解決できる事件もそれなりに多いのです。

しかし、どうしても裁判所外の話合いで解決ができなれければ、最終的には、裁判手続を利用して決着をつけるしかありません。

指導担当弁護士の言葉を借りれば、「裁判所を利用させていただく。」ということになります。

本来、裁判修習は、裁判官のお仕事を勉強させていただくものだとは思うのですが、弁護士志望であった私にとって、民事裁判修習は、弁護士の仕事を裁判所の視点から見ることができる修習であり、大変勉強になりました。

特に、裁判手続中に行われる和解勧試に同席させていただくことが何回かあり、裁判官が、どのようなことを双方当事者に言って、互譲を引き出し、和解を成立させようとするのか、その過程を見ることができ、参考になりました。

裁判官へのリクルート

先ほど、当時の私は弁護士志望であったというお話をしましたが、厳密には、民事裁判修習に入った時点で、弁護士8.5、裁判官1.5くらいの割合で弁護士志望でした。

司法試験に合格した人は、裁判官、検察官、弁護士のどれかになることができます(うちの妻にこの話をしたら、イーブイだねと言われました。でも、今って、イーブイの進化は3種類じゃないんですね!!)。

司法修習が始まる前までは、裁判官になるということは全く考えていませんでした。

しかし、1つ目の実務修習である刑事裁判修習の間に、事実認定の面白さに目覚め、少しだけ裁判官志望という気持ちが芽生えてきました。

ただし、依然として弁護士志望の気持ちの方が圧倒的に強く、司法修習後は弁護士になるということはほとんど決めていたのですが、民事裁判修習を見てから、最終的に、弁護士になるか、裁判官になるかを決めようと考えていました。

しかし結局は、調理済みの2つの料理について、どちらが美味しいかを判断するよりも、相手方よりも美味い料理を作ったと認めさせる方が面白そうだ、という気持ちが一層強くなってしまい、民事裁判の終了時点で、裁判官ではなく、弁護士になることを決めました。

裁判教官からは、サシでお酒を酌み交わす機会をいただき、「君には大きな幹のように育ってもらいたい。」とお誘いいただいたり、静岡修習でありながら、東京地方裁判所の医療部の裁判官の皆様と懇談をさせていただく機会をいただいたりするなど、裁判官への勧誘をいただいておりました。

また、「裁判官になったら、留学できるよ。」というお話もあったのですが、高所恐怖症もあり、当時の私はあまり飛行機が好きではなかったのです。

海外旅行が大好きになったのは、修習から5、6年ほど後の事務所旅行(台湾)からでした。

しかし、仮に、その5、6年後に、勧誘を受けていたとしても、裁判官になるということはなかったと思います。

私の中で、司法試験を目指そうと思った動機は、静岡で弁護士になるためであり、元々自分が、ある組織の一員として働くということに向いていない人間だろうと思っていたためです。

そして、民事裁判修習を経た結果、実際の仕事の中身としても、弁護士の方が面白そうだと確信してしまったのです。

現在、弁護士になって14年ほどになりますが、この選択は正しかったと思っています。

結婚生活を漢字一文字で表すと・・・忍耐の「忍」!!

民事裁判修習中も裁判官との飲み会がありました。

当時の裁判所は、まだまだその辺りの規制が緩かったと思うのですが(多分今はダメだと思いますが)、裁判官との飲み会は、裁判所の裁判官室で行われました。

その席上、非常に記憶に残っているトピックがあります。

裁判官は、基本的に3年で転勤となり、全国規模で異動があります。

おそらく、単身赴任をして地方に行くか、東京から新幹線で通うかという話の延長線上だったのではないかと思うのですが、男性裁判官の一人が、結婚生活を漢字一文字で例えると、みたいな話を始めたのです。

当時、静岡地方裁判所の民事部に、男性裁判官は5、6人いたと思うのですが、皆さん異口同音に、「忍耐の『忍』!!」とおっしゃっていました。

世間的には地位の高い裁判官も、家庭では色々大変なんだろうと、25歳になったばかりの若輩にとって、非常に印象的な会話でした。

司法修習のお話~その8 番外編② 弁護士による事件の見通しについて

2023-10-02

民事裁判修習で最も勉強になったこと~裁判官も判断に迷う

民事裁判修習では、裁判官と一緒に裁判の場に臨んだり、裁判官室で、裁判をどのように進めていくのが良いか裁判官と協議をしたり、判決を出すとしたらどのような内容の判決を出すかということを起案したりしました。

私が民事裁判修習中に最も勉強になったことは、裁判官も判断に迷う、ということを知ることができたことです。

人間だもの、判断に迷うことなんてあるに決まっているじゃないか!

という感覚は、我々弁護士と、裁判実務に携わっていない一般の方と、どちらの方がしっくりくる感覚でしょうか。

裁判官の仕事の一つに、判決を書くということがあります。

裁判官は、ある事件に関して、最終的に、白か黒か、という判断を迫られることがあります。

判決文に裁判官の迷いが見られることは基本的にはありません。

しかし、内心では、判断に迷うことも少なくないのではないかと、私は思っています。

日本の裁判では、三審制が採られています。

地方裁判所の判決に対して不服があれば、高等裁判所の判断を仰ぐことができます。

数は多くはありませんが、地方裁判所の判断が高等裁判所でひっくり返ることもあります。

裁判官の判断は「絶対」ではないのです。

弁護士は「絶対勝てます!」と言ってはいけない

本ブログを閲覧されていらっしゃる方の中に、弁護士に相談をした経験がある方はいらっしゃいますでしょうか。

何か歯切れの悪い弁護士だったなぁ、という感想をお持ちかもしれません。

実は、弁護士は、「絶対勝てます!」などとは言ってはいけないのです。

弁護士には、守らなければいけない職務上のルールがあります。

そのルールの一つとして、依頼者に有利な結果を保証してはいけない、ということになっているからです。

しかし、私は、そのようなルールが無かったとしても、そもそも弁護士にとって、相談者や依頼者から話を聞いた段階で、結論を100パーセント見通せる事件というものは無いと思っています。

最初の相談の時から、「絶対勝てます!」などということは、言えないはずなのです。

弁護士が事件の結論を100パーセント見通すことができない事情

弁護士が事件の結論を100パーセント見通すことができない理由はいくつかあります。

理由の第1は、一方当事者の話しか聞いていないことです。

弁護士は、相談者の味方、依頼者の味方です。

通常、相談者、依頼者にとって最も利益になるような方向で助言をしたり、事件を進めたりします。

しかし、一方当事者の話しか聞けていない状態では、事件の見通しにも自ずから限界があります。

弁護士が事件の結論を100パーセント見通すことが難しい理由の第2は、「立証責任」というものがあるからです。

「立証責任」というのは、民事裁判において、「ある事実が存在する」ということを証明する責任のことです。

語弊を恐れず、非常にざっくり言えば、そのような事実があったと主張したい人が、そのような事実があったことを証明しなければなりません。

前回のブログでお話ししたように、民事裁判では、多くの場合、お金を請求するか、物の引渡しを請求します。

たとえば、配偶者と不貞行為を行った相手方に対して、慰謝料を請求するケースを考えてみましょう。

原告の配偶者も被告も不貞関係を否定している場合、原告は、被告と原告の配偶者が不貞関係にあったことを証明しなければなりません。

もっとも簡単な証明方法は、原告の配偶者と被告がラブホテルに入っていく様子を完璧に撮影した写真や動画でしょう。

次に考えられるのは、原告の配偶者と被告が、LINEで肉体関係があることを示すようなメッセージのやり取りをしている画面をスクリーンショットで撮影したものでしょうか。

しかし、これらの証拠が全く無いとした場合、その他の証拠により、どれだけ不貞行為の事実を証明できるのか、ということについては非常に予測が難しいと言えます。

ある事実があったかどうか、それを証明できる証拠として何があるのか。

これらのことは、事件の見通しを判断するうえで非常に重要ですが、同時に、予測が非常に難しい問題とも言えます。

弁護士が事件を100パーセント見通すことが難しい理由の第3は、同じ事件は2つとない、ということです。

たとえば、交通事故に基づく損害賠償請求事件を想定してみましょう。

交通事故に基づく損害賠償事件は、毎年全国で何百件、もしかすると、何千件と訴訟提起されています。

交通事故の場合は、相当数の裁判例の積み重ねがあります。

裁判例の積み重ねにより、ある程度確実性の高い見通しを持つことが可能であることもあります。

たとえば、交差点で、青信号で直進した自動二輪車と、対向車線を青信号で右折した自動車というようなケースでは、原則的な過失割合は○:○と定まっています。

双方の運転手において、例外的な落ち度がなければ、このような見通しの確実性は高いと言えます。

「原則的な」と書いたのは、この趣旨です。

しかし、交通事故の態様は、上記のような典型的なものばかりではありません。

たとえば、高速道路の料金所手前の合流車線で同一方向の車両同士が接触した、というようなイレギュラーな事故も当然存在します。

この場合には、直ちに「原則的な過失割合は○:○」とは分かりません。

このような場合、私はまず裁判例を検索します。

私が使っている裁判例の検索システムでは、「交通事故」「料金所」といった検索ワードで裁判例を検索すると110件の裁判例がヒットします。

これを全て閲覧して、類似事案が無いかどうかを探します。

裁判実務においては、類似事件の裁判例があるかどうかということは、訴訟を進めるうえでとても重要だと思います。

その判決が、最高裁判決なのか、高等裁判所の判決なのか、地方裁判所の判決なのかによって、効力というか、迫力というか、大分変わってくると思いますが、あまり前例がないような事件では、地方裁判所レベルの判決でも、裁判例が見つかると大変心強いものです。

他方で、裁判例が見つかっても、相談者や依頼者にとって、不利に働く可能性が高い場合があります。

また、そもそも同一態様の事故に関する裁判例を見つけることができない場合もあります。

そのような場合には、似たような事故の過失割合を転用できないかを考えます。

高速道路の料金所手前の合流車線で同一方向の車両同士が接触した、というケースで言えば、同一方向へ進む2つの車両のうちの一方が、進路変更して他方車両側に入ってきたと評価できないかといったことを検討します。

しかし、当然のことながら、このような検討を経た結果については、結論は絶対こうなります、などとは言えません。

「絶対勝てます!」などという弁護士にはご注意ください

このように、弁護士において、相談や依頼の際、ある程度の見通しを立てることはできますが、100パーセント結論を見通せる事件というものはありません。

「絶対勝てます!」などとは、言えないはずなのです。

裁判官が判断をする段階では、一方当事者の話しか聞いていないので、事件の見通しに限界があるという状況にはありません。

それでも、裁判官は判断に迷うようです。

もちろん事案によりけりですが、個人的には、裁判官も、ある事実があったと認めるかどうか、立証責任(上記理由の第2)のところで判断に迷うことが多いのではないか、と考えています。

司法修習のお話~その7 番外編 民事事件と刑事事件の区別について

2023-09-20

本当は静岡での民事裁判修習について書こうと思っていたのですが・・・

これまで、弁護士になるために必要な司法修習の中で、刑事裁判修習、弁護修習の思い出について紹介してきました。

今回は、3つ目の実務修習である民事裁判修習について書こうと思っていました。

しかし、ふと、本ブログをお読みいただいている方は、民事裁判、刑事裁判あるいは、民事事件、刑事事件という言葉をどのように受け取られているのだろうか、と考えてみました。

弁護士は、民事裁判、刑事裁判、民事事件、刑事事件という言葉を当たり前に使います。

しかし、民事裁判、刑事裁判、あるいは、民事事件、刑事事件という言葉は、本ブログをお読みいただいている方には、馴染みが薄い用語かもしれません。

私の妻(会社員)も、民事事件と刑事事件の区別は付いていないと思われます。

そこで、今回のブログでは、民事裁判修習の思い出をご紹介する前に、そもそも民事事件、刑事事件ってどう違うのでしょうか、というところをお話ししたいと思います。

民事事件って何ですか?

たとえば、個人や会社などが、別の個人や会社などに対して、お金を請求する場面をイメージしてみましょう。

お金の名目は、慰謝料、迷惑料、貸したお金、残業代などなど、何でも構いません。

もう少し具体的に申し上げれば、以下のような場面が想定できるでしょう。

  • 交通事故で生じた被害について加害者に賠償を求める
  • 配偶者の浮気相手(不貞相手)に慰謝料の支払いを求める
  • 貸したお金を友だちから返してもらう
  • 取引先に商品の売買代金の支払ってもらう
  • 残業代を会社に請求する

誰かが誰かにお金を請求する。

これは「民事」のお話です。

次に、個人や会社などが、別の個人や会社に対して、お金ではなく、物の引渡しを請求する場面をイメージしてみましょう。

引渡しを求める物は、インターネットで注文した商品かもしれません。

友人同士で貸し借りをしたマンガ本かもしれません。

時には、大家さんから賃借人に対して、大家さんが貸していたマンションの一室を明け渡せという請求がされることもあるでしょう。

少し観念的な「引渡し」になってしまいますが、不動産の名義を私によこせ、という場面もあるでしょう。

このように、個人間、会社間、あるいは、そのミックスで、物をくれるよう請求したり、されたりすること、これも「民事」のお話です。

「民事事件」とは、ものすごくざっくり言えば、誰かが誰かにお金や物を請求する、そういう事件のことです。

「家事事件」もざっくり言えば「民事事件」

家族間の問題はどうでしょうか。

家族間の問題にも様々なものがあります。

離婚、親権、養育費、相続(遺産分割)、遺言などなど。

これらの事件も、刑事か民事かという二択であれば、民事に含まれるでしょう(「刑事」、「民事」に加えて、「家事」という分野を想定すれば、それが最も適切だとは思いますが)。

刑事事件って何ですか?

これまで、こういったものが「民事事件」ですよ、というご紹介をしてきました。

それでは、「刑事事件」とは、どのようなものでしょうか。

刑事事件の特徴の一つ目は、その当事者が、「国」対「個人」であることです。

個人の代わりに、「国」対「会社」という場合もあります。

ここでいう「国」は、検察官であり、「個人」あるいは「会社」は被告人です。

刑事裁判の中では、①被告人とされた者が罪を犯したのかどうか、つまり有罪か無罪かということ、それから、②被告人が罪を犯したと認められる場合には、被告人にどのような刑罰を科するのが妥当であるのか、という点が審理されます。

刑事裁判にも、「被害者参加」という制度が存在しますが、刑事裁判では、基本的には、加害者が被害者に対してお金を支払うべきかどうか、支払うとしていくら支払うべきか、といったことは審理されません。

刑事裁判で審理されるのは、被告人とされた者が有罪か無罪か、有罪である場合には、どのような刑罰が適当であるかという点に限られています。

刑事事件と民事事件がクロスする場面

刑事事件と民事事件がクロスする場合もあります。

典型的な場面は、交通事故です。

交通事故を起こした者は、被告人として刑事裁判を受ける場合があります。

そして、当該交通事故について有罪判決を受ければ、刑事罰を科される可能性があります。

これは、「刑事事件」のお話です。

他方で、交通事故を起こした者は、被害者に生じた被害を弁償する責任を負っています。

被害者は、交通事故の加害者に対して、被害の賠償を求めることができます。

こちらは、「民事事件」のお話です。

一口に、交通事故といっても、「刑事事件」の場面と「民事事件」の場面の両面が存在します。

さらに、交通事故の刑事裁判の中でも、加害者が被害者に対して、被害を弁済した事実が取り上げられることがあります。

加害者が被害者に対して被害弁償を行ったという事実は、当該刑事裁判において、加害者に対して有利な事情として斟酌されるからです(いわゆる「情状酌量」です)。

しかし、加害者が判決のときまでに被害者に生じた被害を100パーセント弁償したからといって、加害者の刑が必ず軽くなったり、あるいは、大幅に軽くなったりするとは限りません。

なぜなら、刑事裁判の量刑は、被害がどの程度弁償されたかという事情のみで決められるものではないからです。

また、加害者が判決のときまでに被害者に生じた被害を全く弁償せず、たとえば、懲役3年という実刑判決(社会内で更正する機会を与えられず、刑務所に行くという内容の判決)を受けたとしても、そのことによって、加害者が被害者に対して、被害を弁償する義務を免れるということもありません。

加害者が有罪判決を受けた場合、加害者に対する刑罰がどのような内容であったとしても、加害者は被害者に対して交通事故により生じた損害を賠償する義務があります。

刑事事件と民事事件とは、別の問題だからです。

このように、民事事件と刑事事件とはクロスすることもあるのですが、それぞれ全く別の事件として扱われることが通常です。

交通事故の例で言えば、刑事事件において被告人の弁護をする弁護士と、民事事件(損害賠償請求事件)で加害者側の代理人になる弁護士が異なる、ということもそれほど珍しいことではないと思われます。

民事事件と刑事事件の区別、ざっくりですが、お分かりいただけましたでしょうか。。。

司法修習のお話~その6 静岡での弁護修習②

2023-09-11

静岡は2人の指導担当弁護士がいる豪華修習地

皆さん、こんにちは。弁護士の石川です。

前回のブログでは、弁護士になるために必要な司法修習のうち、弁護修習についてお話をしました。

静岡での弁護修習は、伝統的に、修習生1名に対して、主任となる弁護士1名、副任となる弁護士1名が選ばれ、2名の弁護士から指導を受けることができます。

静岡県弁護士会に所属する身として手前味噌なのですが、これは本当に素晴らしい制度だと思います。

弁護士は、人によって仕事の仕方も違いますし、経営の仕方も違いますから、複数の弁護士の仕事ぶりを見ることができるというのは、それだけで有益なことなのです。

私も独立してから特にそうなのですが、他の事務所がどうやって経営しているのかなぁとか、他の弁護士がどのように仕事をしているのかなぁということに非常に興味を持っています。

三島での弁護修習~「君は自転車好きか?」

私がお世話になった副任の指導担当弁護士は、静岡県三島市で事務所を開設されている弁護士でした。

弁護修習の初日に、修習開始式という、指導担当弁護士と修習生が一堂に会する顔合わせの式典があります。

修習生は、主任の弁護士と副任の弁護士に挟まれてお昼をいただきます。

お昼をいただきつつ、指定された順番で、修習生と指導担当弁護士が、それぞれ全体に向かって、一人ずつ自己紹介をしていきます。

これを書いていて思い出したのですが、私が指名されて、自己紹介をするために椅子から立ち上がったとき、主任の先生が、「頑張れ」とそっと声を掛けてくれました。

主任弁護士のお人柄については、前回のブログでも触れたところですが、このような一言をそっと掛けてくれる主任弁護士は、やっぱりすごい人だなぁと思います。

さて、今回は副任の弁護士の話なのですが、副任の先生からは、挨拶も早々に、「君は自転車好きか?」と聞かれました。

自転車と言えば、中近距離の移動手段として以外興味が無かったのですが、社会経験が乏しかった当時の私でも、「はい」と答えることができました。

開始式のときだったか、その後のことだったか、記憶が定かではありませんが、「アトムくんの副任事務所での修習獲得目標は、ロードバイクで県弁総会に参加することだ!!」ということになりました。

県弁総会とは、静岡県弁護士会が行う年に2回あるとても重要な会議のことです。

副任の先生がおっしゃった県弁総会では、例年、次年度の静岡県弁護士会の会長が選出されたり、当年の静岡県弁護士会執行部が行いたいと考えていた事項に関する会則変更や会則新設について議決をとったりします。

とにかくすごく重要な会議なのです。

そこに、自転車を漕いで、三島から向かうということになったのです。

副任の先生は、大変豪快な方でした。

ロードバイク修習

さて、県弁総会の当日、私は、ジャージを着て、三島にある副任の先生の事務所を訪れました。

副任の先生の事務所には、ロードバイクがいくつか飾ってあったのですが、その中の一つをお貸しいただきました。

ロードバイクに乗ったのは、このときが初めてでしたが、ロードバイクは通常のバイクよりも座席の部分が高いんですね。

停止したときは、両足のつま先が地面にギリギリ触れるかどうか、というぐらいになります。

漕いでいるときは良いのですが、止まるときにバランスを崩さないか心配でした。

万が一これで事故でも起こそうものなら、絶対にニュースになってしまう(「司法修習生、弁護修習中にロードバイクで事故!!」)と思い、細心の注意を払って運転しました。

ただいまGoogle mapで検索したところによると、副任の先生の事務所から、県弁総会の会場まではおよそ63キロありました。

Google map試算では、およそ4時間で着くという計算ですが、もっとかかったような気もします。

かなりの肉体疲労を覚えながら、県弁総会へ。

後にも先にも、ジャージで県弁総会に出席した修習生は私だけでしょう。

このときのことを覚えている先輩弁護士には、今でも時々、私がジャージで県弁総会に出席していたことをいじられます(笑)

無事に三島から静岡市の県弁総会会場へたどり着き、めでたし、めでたし、かと思いきや、2日目があるんですねぇ。

当時、私は、静岡市に下宿していたのですが、その下宿先から徒歩5分と離れていないところに「アトムくんの分も取ってあるから。」と、宿泊先までご用意いただきました。

2日目は、静岡市から御前崎の灯台に向かい、その後、掛川駅へ。

Google mapで検索したところによると、2日目の行程は、初日の約1.5倍、92キロもありました。

しかも、御前崎から掛川あたりは、かなりアップダウンのある道で、当時大変しんどかったのを覚えています。

副任の先生には、「アトムくんは、体力だけじゃなく、根性もあるなぁ。」とお褒めいただいたのですが、何しろ当時は24歳だったものですから。

今、同じことをやったら、果たして完走できるかどうか・・・。

むしろ、当時から相当なご年齢だった副任の先生を筆頭に、今の私よりも年が多かったであろう他のお2人の先生におかれても、よくまぁ、こんなに大変なことを好んで行ってらっしゃると感服したものです。

掛川駅まで自転車で向かい、自転車を折りたたみ、携行して新幹線へ。

2日がかりで漕いできた距離を30分少々で戻ってきたときには、何ともあっけない物悲しさを覚えました。

そんなこんなで、私にとって弁護修習時代1番の思い出は、間違いなく「ロードバイク修習」です。

司法修習のお話 ~その5 静岡での弁護修習①

2023-08-31

刑事裁判修習を終えて弁護修習へ

皆さんこんにちは。弁護士の石川です。

これまで、弁護士になるために必要な「司法修習」について何度かコラムを書いてきました。

当時私が受けていた司法修習では、「実務修習」と「集合修習」がありました。

このうち「実務修習」は、全国各地に配属されて、現役の弁護士、裁判官、検察官に指導の下、実際の事件を見ながら、研修を行うというものです(司法修習全般については、こちらのページに詳しいご説明がございます)。

静岡だけでなく、それなりの規模を有する他県でも同様だと思うのですが、一つの修習地に配属された修習生は、いくつかの班に分けられます。

以前お話しましたように、実務修習には、裁判(民事・刑事)、検察、弁護という分野がありますが、4つの分野の実務修習を受ける順番は、班によって異なっていました。

私の場合、刑事裁判→弁護→民事裁判→検察という順番でした。

前回のコラムでは、刑事裁判修習での思い出をご紹介しました(後半はほとんどレーズンパンの話でしたが)。

今回のコラムでは、弁護修習での思い出をご紹介したいと思います。

「静岡修習」での弁護修習が、「静岡市修習」あるいは「静岡支部修習」でなかったことは、別の記事でご紹介しましたが、私は2か月間、沼津市にある法律事務所と三島市にある法律事務所で、それぞれ弁護士の先生に付いて弁護修習を行いました。

弁護修習でのお昼ご飯

前回のコラムをご覧の方は、「また飯の話か!」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

修習生も弁護士と同様の守秘義務を負っており、弁護修習についても、当たり障りの無いことしか書くことができないため、何卒ご容赦ください。

私が14年前に弁護修習でお世話になった法律事務所には、当時、4人の弁護士の先生がいらっしゃいました。

事務所の創設者の大先生、私の主任担当の先生、主任担当とほぼ同期の先生、それから弁護士になられたばかりの先生という構成でした。

私も弁護士の仕事をしておりまして、最近特に実感しますのが、時間は誰にでも平等ですが、本当に貴重なものだということです。

この5分があれば、電話1本かけられる。

この10分があれば、軽い連絡文書を作成することができる。

60分あれば、短めの書面を作成できる。

時間は本当に貴重です。

指導担当の先生は、現在の私とは比べものにならないほど、ものすごくお忙しかったはずですが、よくお昼ご飯を食べに連れて行っていただきました。

沼津、三島には、美味しいものが本当にたくさんありました。

中でも、私の一番は、超有名店ですが、うなぎの桜家さんです

(桜家さんのホームページはこちらです)。

平日でも開店前から行列ができる超人気店ですが、三島に法律相談に行った際、連れて行っていただきました。

このときも開店前にお店に着き、開店と同時に(厳密には若干待って)入店したという記憶です。

当時は、ただただ美味しくてガツガツ食べてしまったのですが、もっと味わって食べれば良かったです。

4年ほど前に、人生二度目、桜家さんの鰻をいただきました。

このときは「上」をいただいたのですが、生まれて初めてうなぎでお腹がいっぱいになりました。

私が申し上げるまでもなく、非常に美味しいうなぎ屋さんですので、三島にご用事があり、時間に余裕がある方は、ぜひ桜家さんのうなぎをご賞味いただきたいと思います。

また、私が修習をさせていただいた事務所では、私が修習をしていた期間だけかもしれませんが、よく出前を取られていました。

その出前は、千楽さんという沼津でも有名な洋食屋さんでした。

(千楽さんに関する食べログさんへのリンクは、こちらです)

主任担当の先生は上カツライス、私はカツ丼をいただいておりました。

いずれもボリューム満点!

色々なホームページを拝見しましたが、千楽さんでは、カツハヤシが有名なようですね。

最近はほとんどウェブ会議で裁判をしていますので、裁判所に行く機会自体が減っているのですが、今度沼津支部で裁判があったときには、千楽さんでカツハヤシを食べたいと思います。

弁護修習においてどのようなお昼ご飯を食べられるのか、ということは、まさに担当の弁護士先生の裁量によるところですが、私は、美味しいものを本当にたくさんいただくことができました。

司法修習前は、弁護士も裁判官も、生活ぶりはだいたい一緒なのだろうと思っていたのですが、こんなにも違うものなのか、というのを実感したのが、お昼ご飯でした。

地方の弁護士会は(今もそうだと良いのですが)、修習生を歓迎する風土があると思います。

私としては、本当にありがたくおもてなしをしていだいたと思います。

「僕にお返しをしなくていいから、後輩ができたときにおごってあげなさい。」というのは、某先輩弁護士にご馳走になったときに言われたことです。

私も後輩の弁護士や修習生に、先輩の弁護士からいただいた分を渡していきたいと思っていますが、その後輩の弁護士や修習生が、さらに後輩の弁護士や修習生にバトンを渡していただくことができれば、私にとってこれに勝る「お返し」はありません。

弁護士業界(特に、地方の)には、後輩弁護士や修習生にバトンを引き継いでいく風土が強いようにも思います。

ホッとする弁護士~主任担当弁護士の法律相談

2か月の弁護修習の中でたくさんのことを勉強させていただきましたが、真似しようと思っても真似できないなと思ったことは、主任担当弁護士の法律相談での雰囲気でした。

一般の方が弁護士と関わる機会は少ないと思います。

そのため、一回の法律相談で、相談に乗ってもらったA弁護士=スタンダードな弁護士というような受け止めをされる方も少なくないかもしれません。

ただ、弁護士も人間でして、当然のことながら、弁護士にも色々なタイプの弁護士がいます。

明るく朗らかな弁護士もいれば、威厳のあるオーラをまとった弁護士もいるでしょう。

会っただけでホッとする弁護士もいれば、相談するだけで萎縮してしまう弁護士もいるかもしれません。

よくしゃべる弁護士もいれば、寡黙な弁護士もいます。

私の主任担当だった弁護士は、明るく朗らか×会っただけでホッとするタイプだったように思います。

それは、先生のお人柄から来るもので、真似ようと思って真似できるものではありません。

また、そのような雰囲気は、多年の経験値から来る、ある種の「余裕」にも基づいているのかもしれません。

私もそんな弁護士になれたらいいな、と修習生だった当時思っていました。

司法修習のお話~その4 静岡地方裁判所での刑事裁判修習

2023-08-20

守秘義務のお話~弁護士にも司法修習生にも守秘義務があります

残暑お見舞い申し上げます。弁護士の石川です。

残暑どころか酷暑と言われる日が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

さて、これからのブログでは、いよいよ実務修習に関する思い出について書いていきたいと思います。

これからこのブログをお読みになる方は、「こんな遊びみたいなことばかりやっていたのか!」「税金返せ!」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、司法修習生には、弁護士と同様に、守秘義務があります。

司法修習時代の守秘義務は、弁護士になった今でも解除されていません。

ですので、具体的な事件の内容を書くことはできないのです。

一般に公開されているブログでは、当たり障りのない「遊びみたいなこと」しか書けないのです。

何卒ご容赦ください。

中庭にテニスコートがあった裁判所

私の司法修習が始まったのは、2009年(平成21年)12月のことでした。

始まっていきなり賞与が支給されてビックリしたことについては、以前のブログでご紹介したおりです。

さて、2009年(平成21年)12月には、静岡地方裁判所において、「世紀に一度」と言っても過言ではないビッグイベントがありました。

庁舎、つまり、裁判所の建物の建て替えです。

私たちが司法修習を始めた当初に使用していた静岡地方裁判所の庁舎は、「戦後に進駐軍が建てたもの」だったそうです。

天井は高く、年季の入った焦げ茶色の木材が使用されていた庁舎は、まさに謹厳といった雰囲気でした。

ちなみに、エレベーター(司法修習生は使用禁止)は、静岡県内で2番目の古さだったようです。

当時の静岡地方裁判所旧庁舎には、中庭にテニスコートがありました。

また、お昼休みになると、裁判所職員が、幅の広く天井の高い廊下に卓球台を引っ張り出してきて、廊下で卓球をしていたこともあったそうです。

当時の裁判官のご説明だったと思いますが、税金で建てられる裁判所にテニスコートのような「遊び」があるのはけしからん、という市民の声があったからか、あるいは、そのような批判を恐れたためか、現在の静岡地方裁判所の庁舎にテニスコートが設置されることはありませんでした。

また、現在の静岡地方裁判所の廊下では、狭すぎて卓球はできません。

おぼろげな記憶ですが、旧庁舎の廊下の幅は、4メートルくらいはあったのではないでしょうか。

テレビドラマや映画でも使われそうな、すごく雰囲気のある建物でした。

ただし、残念なことに、旧庁舎の法廷を見る機会はありませんでした。

私たちが修習を開始した当初、既にプレハブの仮法廷が建てられていたからです。

新庁舎の、つまり現在の静岡地方裁判所の法廷について、当時の裁判官は、「明るすぎて感銘力も何もあったもんじゃない。」とおっしゃっていましたが、今では誰も法廷の雰囲気に疑問を持つことは無いでしょう。

旧庁舎の法廷は、建物の雰囲気と同様、謹厳な感じだったのでしょうね。

私が行ったことがある静岡県内の裁判所で、法廷の雰囲気と言えば、沼津支部がピカイチです。

きっと静岡地方裁判所旧庁舎の法廷も、あのような雰囲気だったのではないかと推察します。

裁判官のお弁当とレーズンパンの話

私たちにとって、最初の司法修習(実務修習)は、刑事裁判修習でした。

司法修習の初日だったと思いますが、早速刑事裁判を傍聴しました。

守秘義務でも何でもなく、何の事件だったのかすっかり忘れてしまったのですが、司法修習生になると、法廷の中(=「バーの中」)に入ることができます。

「バーの中」に初めて入ったときには、大学、大学院、司法試験の合格を経て、「やっとここまで来られたか。」という感慨がひとしおでした。

さて、これもおぼろげな記憶ですが、新庁舎への引越しがあったのは、修習開始後わずか数日であったと思います。

主に新庁舎での記憶なのですが、当時、私たち司法修習生は、お昼ご飯を裁判官と一緒に食べ、世間話をしたり、事件の話をしたりしていました。

当時、裁判官たちは、毎朝、決まった宅配のお弁当屋さんにお弁当を注文していました。

お弁当には、A、B、ヘルシー、デラックスなどの区分がありましたが、高くても400数十円だったと思います。

裁判官って意外と質素なんだなぁと思いました。

裁判官は、ほぼ全員、そのお弁当屋さんにお弁当を注文し、修習生もそれに習って、同じお弁当屋さんにお弁当を注文していました。

しかし、私は、どうしてもそのお弁当屋さんのお弁当に馴染むことができませんでした。

私は、それほど食に強いこだわりを持っていませんが、好き嫌いは人より多いと思います。

私は、そのお弁当の「白米が冷たい状態で提供されること」に、どうしても耐えられなかったのです。

そのため、修習が始まって2週間ほどして、私は、そのお弁当屋さんのお弁当を注文することを止め、裁判官5人と修習生6人の中で、唯一「お弁当」を持参することになったのです。

そのお弁当は、レーズンパンでした。

より正確に言うと、Pascoの十勝バターレーズンスティックです。

こちらのパンですね。

このパンを1日3本食べていました。2日で1袋ですね。

司法修習は、原則として暦どおりに行われますので、平日5日は、裁判所でお昼を食べます。

私のお昼は、月曜日から金曜日まで、毎日レーズンパンでした。

12月の2週目も3週目も4週目も連日レーズンパンでした。

毎日同じレーズンパンばかり食べていたので、ある日裁判官が、「石川さん、これどうぞ。」と言って、スーパーで使えるレーズンパンの割引券をくれたこともありました。

司法修習終了後、晴れて弁護士となった後、他の修習生だった友だちと、当時お世話になった刑事裁判官に会いに、東京に行ったことがありました。

裁判官にお目にかかるのはほぼ1年ぶりでしたが、裁判官からは、そのときも、「レーズンパンを見ると、石川さんを思い出します。」と言われました(笑)

ちなみに、弁護士になって13年経ちますが、今でも1月に2~3回は、お昼はレーズンパンという日があります。

食の好みはなかなか変わらないものです。

司法修習のお話~その3 「静岡」での実務修習

2023-07-31

静岡修習=静岡市での修習ではなかった!という驚き

みなさん、こんにちは。弁護士の石川アトムです。

前々回のコラムでは、弁護士になるために必要な司法修習の概要についてお話ししました。

また、前回のコラムでは、実務修習地の決め方や、私が第一希望で静岡を希望し、見事静岡での修習を行うことになったことをお話ししました。

今回以降のコラムでは、私が13年前に経験した実務修習の内容や思い出などについて、お話しできる限りでお話ししていきたいと思います。

前回のコラムでもお話ししたように、私は、第一希望で静岡での実務修習を選択し、見事その希望どおり静岡に配属されることになりました。

当時の司法修習は、現在のように、「導入修習」という、司法修習の最初に、司法修習生が埼玉県にある司法研修所に集合して、様々な講義を受けるという制度がありませんでした。

そのため、司法修習が始まると同時に、いきなり全国各地での実務修習が始まるという状態でした。

ただし、静岡の場合は、司法修習が始まる1月ほど前に、実務修習についての事前説明会のようなものがありました。

私はこのとき初めて静岡地方裁判所に行きました。

私は静岡市の出身で、駿府城に面した城内中学校の卒業生です(ちなみに53回生です)。

しかし、恥ずかしながら、事前説明会のために静岡地方裁判所に向かうときまで、静岡地方裁判所が、城内中学校と駿府城のお堀を挟んで反対側にあるということを知りませんでした。

そして、事前案内の際、私が大変驚いたのは、私の弁護修習は静岡市ではなく、沼津で行われるということでした。

「実務修習」では、民事裁判、刑事裁判、弁護士、検察の4つの分野について研修を受けます。

「静岡修習」と言えば、てっきり全ての実務修習を静岡市内にある裁判所、検察庁、弁護士事務所で受けるものだと思っていたのですが、そうではないということを知ったのです。

私は、当時、静岡市で弁護士として働くことを希望しており、そのため、「静岡」を実務修習地の第一希望としました。

しかし、弁護修習は沼津の弁護士事務所で受けるということを知らされ、そのことを聞いたときは、少なからずショックを受けました。

また、私は、事前案内の時点で、既に実務修習期間中に住むための家を静岡市内で決めてしまっていました。

そのため、裁判修習や検察修習が静岡市内で行われる一方、その途中に2か月間だけある弁護修習については、沼津に住んだ方が良いのだろうかなどと思案に暮れました。

ただし、別の機会に書きたいと思いますが、沼津での司法修習は大変楽しく、指導担当の先生方はお二人とも素晴らしい先生でした。

静岡での実務修習の形態

私が司法修習を受けていた平成21年当時もそうでしたし、現在の静岡での実務修習もそうなのですが、「静岡」で実務修習を受ける修習生は、5、6人を1班として、4つの班に分けられます。

裁判修習と検察修習については、どの班も、静岡地方裁判所と静岡地方検察庁で修習を行います。

しかし、弁護修習については、4つの班のうち2つの班は、静岡地方裁判所の本庁管内にある弁護士事務所で修習を行いますが、他の2つの班は、それぞれ浜松と沼津を中心とした地域の弁護士事務所で修習を行います。

なお、関東弁護士連合会発行の「ひまわり」によると、静岡において、弁護修習を静岡本庁のみならず、浜松や沼津でも行うようになったのは、平成16年ころからということでした。

当時の司法修習生の年齢層

先ほどもお話しましたが、当時の静岡修習では、修習の開始前に事前説明会のようなものがありました。

このとき初めて、自分が配属される班が決まるとともに、他の修習生はどんな感じなのか、ということが分かりました。

当時は、現在のように「予備試験」という制度が無かったため、法科大学院(ロースクール)を卒業した年に最初に受験する司法試験に合格することが、いわゆる最短コースでした。

そうすると、当時の司法修習生のうち最も若い人というのは、24歳、25歳くらいということになります。

当時、そのような修習生は全体の3割程度を占めていました。

そして、20代後半から30代の方が5割程度、40代以上の方が2割程度というような記憶です。

近年では、静岡に配属される司法修習生の多くは、20代前半から半ばという印象です。

私が司法修習生だった時代も、24歳、25歳の司法修習生は若いと言われていましたが、今ではさらに若い司法修習生がたくさんいますので、言葉で表現することが難しい感覚なのですが、こんな若い人が司法修習生なのか!と、驚くような、少し恐ろしいような感じがします。

司法修習と「給与」

私が司法修習生だったころ、司法修習生には、国から給与が支払われていました。

修習が始まったのは11月末ころでしたが、それから数日して、いきなり賞与が支払われました。

普通の「月給」をもらう前に「賞与」でしたので、大変驚きました。

「賞与」は、仕事上何か頑張った人がもらうものだと思っていましたので、修習開始わずか数日で賞与が支給されるなんて、司法修習ってすごい制度だなと思いました。

私が司法試験に合格したその翌々年、司法修習生に対する「給与」は廃止されてしまいました。

その後の修習生に対しては、「貸与」という形で、国が一定の金銭を修習生に貸すということになりました。

さらにその後、2017年からは、「修習給付金」という名目で、再び、司法修習生に対して一定の金銭が支払われるようになりました。

ちなみに、「修習給付金」に関する最高裁のウェブサイトはこちらです。

「修習給付金」の金額は、私たちが受け取っていた「給与」の額よりも相当低く、もちろん「賞与」もありません。

司法改革を経て、司法試験合格者の人数は増えましたが、その反動と言いますか、修習生の待遇にも大きな変化がありました。

私が司法修習生だった時代は、国のお金で勉強をさせてもらい、しかも、お給料までいただけていたのですから、大変良い時代に修習をさせてもらったと思っています。

「司法修習」のお話~その2

2023-07-21

弁護士なるために必要な「司法修習」とは~前回のおさらい

前回のブログでは、弁護士になるために必要な「司法修習」の概略についてお話ししました。

「司法修習」とは、非常にざっくり言うと、司法試験に合格した後、弁護士、裁判官、検察官になろうとする人が受けなければいけない研修のことです。

司法修習では、「集合修習」と呼ばれる研修と、「実務修習」と呼ばれる研修の両方を受ける必要があります。

「実務修習」とは、修習生が日本全国のどこかの都道府県に配属され、その都道府県で約9か月間、弁護士、裁判官、検察官のもとで、実際の裁判や事件に触れながら研鑽を積むというものです。

静岡県でも、毎年20数名の修習生を受け入れています。

それでは、実務修習の場所は、どのように決まるのでしょうか。

「実務修習」の研修場所はどのようにして決められるのか?

司法試験に合格した後、司法修習を受けることを表明した司法試験合格者に対しては、どの都道府県で修習を受けたいですか、という希望が聴取されます。

ただし、どの都道府県でも、好きなだけ書けるというわけではありません。

私が司法試験に合格した14年前の古い情報で申し訳ないのですが、当時、全国の都道府県は3つのグループに分けられていました。

不正確な点がありますが、ざっくり言えば、大都市圏、地方中核都市、その他という3つのグループです。

修習を受けようとする人は、実務修習を受けたい都道府県を7つくらいまで、優先順位を付けて、希望を出すことができました。

ただし、大都市圏と地方中核都市は、それぞれ2つまでしか書けませんでした。

つまり、1番東京、2番横浜、3番京都、4番大阪などという希望を出すことはできません。

これらの都市は大都市圏グループでしたので、4つの都市のうち、2つまでしか記載できませんでした。

私が修習生だったころには、四国を書くと、希望順位に関わらず、四国になるという、都市伝説がありました。

私の6年後輩の弁護士が、かなり下の順位で四国の某県を記載したそうですが、彼はその修習地に配属されました。

彼によると、四国の某県での修習はとても楽しかったそうで、私も私的な旅行で四国に行ったことがありますが、とても楽しかったです。

2枚目の写真は、水曜どうでしょうファンなら一度は行きたい、山田屋さんです。

第一希望はもちろん静岡

私の第1希望は、もちろん静岡でした。

静岡での就職を希望していた都合上、第2希望は、静岡に行きやすい横浜を書いたような気がします。

ちなみに、私が修習生だったころ、静岡は大都市圏グループでした。

おそらく首都圏への就職活動に有利な地であり、そのため修習生から人気があったからでしょう。

先ほど、「不正確な点がありますが、」と申し上げたのは、大都市ではないであろう静岡が、グループ分けにおいて、大都市圏グループに組み込まれていたというようなことがあったからです。

私は、見事第1希望で静岡に配属されることになりましたが、修習地は、必ずしも本人の希望が最優先に考慮されるものではないようです。

静岡を第1希望にしたのに静岡に配属されなかった修習生がいる一方、静岡は第3希望であったのに静岡に配属されたという修習生もいました。

実務修習地毎の修習生のレベルの均一化を図る目的などから、そのような配属がされているのだと思われます。

「導入修習」や「集合修習」と、実務修習地との関係

私が修習生だった約14年前、「導入修習」はありませんでした。

司法修習は、いきなり全国各地に配属される「実務修習」から始まり、実務修習が終わると、司法研修所に集まって「集合修習」を受けるというシステムでした。

集合修習では、クラスに割り振られて、各クラスでまとまって授業を受けます。

私が司法試験に合格した2009年当時、司法試験合格者は2000人を超えていました。

当時、集合修習のクラスは、1クラス70人程度で、25クラス程度あったという記憶です。

このクラス分けは、実務修習地を基準に決定されていました。

東京や大阪などの大都市圏は、一つの実務修習地で何クラスもあったのだと思います。

他方で、人数が少ない地方都市の実務修習地では、いくつかの実務修習地が合わさって、一つのクラスとなっていました。

私が配属されていたクラスは、実務修習地が、静岡、甲府、那覇という構成でした。

静岡と甲府は地理的に近いので、この2つが1つのクラスにまとめられるのは理解できるのですが、そこに那覇が入るという何とも絶妙な組み合わせでした。

那覇修習の修習生

那覇に配属されると、地理的な条件から、他の都道府県で就職活動を行うことには大きな困難を伴うことが予想されます。

那覇を希望する修習生は、このことを承知で那覇を希望するわけですが、逆に言うと、既に就職先が決まっている修習生には、就職活動上の地理的ハンディキャップは何の問題にもなりません。

おそらく現在もそうだと思いますが、那覇を希望する修習生は、既に就職先を確保している修習生がほとんどでしょう。

私の代の那覇の修習生は、非常にはっちゃけている人が多く、大人しい静岡、甲府の修習生とは、雰囲気が違いました。

この点で、静岡、甲府に那覇が加わるというクラス分けは、まさに絶妙だったのです。

先にお話ししたように、私が修習生だったときには、いきなり全国各地の「実務修習」から始まっていたので、相互に「遠征」でもしない限り、他の修習地の同じクラスの人と会うのは、司法修習の最終盤、「集合修習」が初めてということになっていました。

しかし、静岡、甲府、那覇というクラスは、和気あいあい、とても楽しいクラスで、非常に仲が良かったという記憶です。

同じクラスの修習生だった友だちと、今年熱海で再会できるのがとても待ち遠しいです。

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