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個人事業主の自己破産申立てについて
個人事業主の自己破産申立ては原則として20万円以上の予納金が必要となります
皆様、こんにちは。静岡で弁護士をしております石川アトムです。
当事務所では、自己破産の申立てを注力分野の一つとしております。
今回は、個人事業主が自己破産を申し立てる場合の留意点などについてお話をします。
前回までのブログで、自己破産手続には、3つの種類があるということ、手続の種類によって、破産手続に要する費用が変わってくることについてお話ししました。
静岡地方裁判所で個人事業主が自己破産の申立てをする場合、原則として、当該申立ては、「管財事件」として処理されます。
また、過去2年以内に個人事業を営んでいた方が自己破産申立てをする場合も「管財事件」として処理されます。
以下、過去2年以内に個人事業をしていた方と現在個人事業をしている方を合わせて「個人事業主等」と言います。
個人事業主等が破産をする場合には、原則として、裁判所に対して少なくとも20万円の予納金を納める必要があります。
この点が、個人事業主が自己破産を申し立てようとする場合の最も重要な点と言っても良いかもしれません。
何しろ予納金が用意できないと、破産手続が進みません。
このお金を用意できる目処が立っているかどうか、個人事業主の自己破産申立てにおいては、この点が極めて重要です。
個人事業主が自己破産をする場合に必要な資料~確定申告書の写し
個人事業主以外の方が自己破産をする場合に必要となる資料については、以前別のシリーズでお話ししました(個人が自己破産をする場合の必要書類については、こちらの記事をご参照ください)。
このブログでは、個人事業主が自己破産する場合に、個人事業主以外の方が自己破産する場合に必要となる書類にプラスして必要となる書類について説明します。
静岡地方裁判所において個人事業主が自己破産を申し立てる場合、直近2年分の確定申告の資料を提出する必要があります。
個人事業主は、その名のとおり、事業をしている人です。
破産手続の中では、事業に関連する設備、備品、在庫商品や原材料など、現金化して債権者に分配する財産が無いかどうかの確認を行う必要があります。
このため、直近2年分の確定申告の資料が必要となります。
個人事業主が破産をする際に特に説明をする必要がある事項~「減価償却費の計算」
確定申告の資料の中でも、個人事業主の自己破産申立てにあたり、私が特に重要と考えているのが、「減価償却費の計算」の箇所です。
「減価償却費の計算」には、事業で使用している(あるいは、使用していた)様々な資産が計上されます。
帳簿上計上されているものの、実際には既に廃棄してしまったもの、資金繰りに困って売却してしまったもの、計上されているものの換価価値の無いものなど様々な物があると思います。
それらの計上資産について、一つずつ、現存しているのかいないのか、現存していないとすれば、なぜ現存していないのかを裁判所に対して説明する必要があります。
資産を売却したのだとすれば、いつ誰に売却したのか、廃棄したのだとすれば、いつ廃棄したのか、それらの資料は現存するのかを確認していく必要があります。
また、資産が現存している場合、その資産を現時点で売却した場合、どれくらいの価値が見込まれるのか、という見積りを取得する必要もあるかもしれません。
個人事業主等が自己破産をする場合には、破産を申し立てるにあたり、これらの事項について説明をし、資料を用意しておく必要があります。
これらの説明がない状態で申立てをしたとしても、書類を裁判所に出した時点で、裁判所から説明を求められ、その回答をしなければ手続が進まないと思われます。
また、仮に裁判所から求められなくても、破産管財人からお尋ねがあることは必定であると思われます。
通帳の入出金記録も重要
個人事業主等の場合、事業を営んだことのない個人に比べて、通帳の入出金記録は膨大なものとなることが多いと思います。
個人事業主等の自己破産申立てでは、現金化して分けられる財産があるのか無いのか、回収未了の売掛金が無いかどうかを明らかにすべく、通帳の入出金履歴について、これはどういった出金、これはどういった入金という説明をする必要性も、個人事業主以外の方の破産申立ての場合と比べて高いと言えます。
静岡市を拠点に活動する弁護士。実務に入り16年目。
中心的な取扱分野は、会社個人を問わず自己破産申立事件。
裁判所の選任により年に数件の破産管財人も担当している。
また、会社の顧問弁護士として会社からの相談を受けることも多い(静岡県外(首都圏)にも複数の顧問先会社がある)。
趣味は旅行、英会話、競馬。
個人の自己破産手続に関する破産手続の種類のお話 その3 ~手続の振り分け等について
自己破産はどの種類の手続になるかによって必要な費用が変わります
皆様、こんにちは。静岡で弁護士をしております石川アトムです。
当事務所では、自己破産の申立てを注力分野の一つとしております。
これまでのブログで、個人の方が自己破産をした場合の破産手続には、3つの種類があるということ、手続の種類によって、自己破産をするために必要な金額が変わってくるということをお話ししました。
前回までのブログをまとめますと、自己破産を申し立てる場合、裁判所に対して、官報公告費用や、所定の印紙代、郵便切手代を納める必要がありますが(概ね2万円程度です)、破産手続において破産管財人が選任される場合には(「管財事件」の場合には)、これらの費用に加えて、破産管財人のための費用を納める必要があります。
管財事件のうち、破産開始決定後、概ね3か月程度後にある1回目の債権者集会までに、財産の処分が完了すると見込まれる場合には少額管財事件となり、20万円の予納金を納める必要があります。
それ以外の、財産の換価に更に時間を要すると見込まれる事件の場合には、「通常管財事件」となり、さらに高額な予納金を納める必要が出てきます(感覚的には50~80万円ほどです)。
「同時廃止」事件と「管財事件」の振り分けについて
破産管財人が選任されない「同時廃止」事件と、上記2つの「管財事件」とは、どのように選別されるのでしょうか。
静岡地方裁判所に自己破産を申し立てる場合、次のようなケースでは、破産手続を「同時廃止」で進めることはできないとされています(「少額管財事件」か「通常管財事件」になります)。
①過去2年以内に個人事業を営まれていた方
②会社の代表取締役、取締役で、会社も同時に破産を申し立てる場合
③免責不許可事由がある方
④33万円以上の現金を有している場合、現金以外で1つあたり20万円を超える財産を有している場合、または、保有する財産が99万円を超える場合
※ 不動産をお持ちの方の場合、その不動産が明らかに経済的価値のない場合(たとえば、売却困難な山林、原野、農地)、または、不動産に抵当権が設定されており、同抵当権の被担保債務が売却価格を相当程度上回ると考えられる場合でない限り、原則として「管財事件」となります。
⑤申立書や申立書添付の財産目録には記載されていないものの、相当の価値がある財産があると疑われる場合も「管財事件」となることがあります。
たとえば、預貯金口座の通帳等から、継続的に多額の保険料が引き落とされているものの、当該保険について、申立書等に記載がない場合は⑤に該当すると考えられます。
同様に、預貯金等の取引履歴から、株取引、Fx、仮想通貨の取引がされており、相当程度の資産が存在することが疑われる場合も⑤に該当すると考えられます。
破産手続の目的が、破産者の財産を現金化して分配するものであるということは本ブログシリーズの1回目に申し上げました。
先に挙げた①、②、⑤の場合に破産管財人が選任されるのは、破産者の財産の中に現金化して債権者に分けられるものが無いかどうか、中立公正な破産管財人という立場の者がチェックをする必要があるという趣旨によるものと思われます。
また、③については、免責不許可事由があったとしても、破産管財人が調査を行い、裁量的に免責を認めるべき事情があるのであれば、免責が許可される可能性があるため、破産管財人にその調査をさせる趣旨によるものと思われます。
④については、保有財産の状況からして、破産手続費用を支払うことができないとは言えないということで、同時廃止にはならず、管財事件として取り扱うという趣旨であると思われます。
「管財事件」として申し立てるべきものを「同時廃止」事件として申し立ててしまった場合
「管財事件」として申し立てることが相当である破産事件を、「同時廃止」事件として申し立ててしまった場合、基本的に裁判所は、当該事件を「同時廃止」事件としては扱わないと考えられます。
申立後、裁判所から、当該事件は「管財事件」として扱うことが相当であるため、追加で予納金を準備するように指導され、予納金の確保ができない限り手続は進められないということになるでしょう。
このような場合、申立人(破産者)は予期せぬ出費を強いられることになり、手続の進行としても、当初から「管財事件」を想定して準備がされていた場合と比べ、遅延することが予想されます。
そのような事態に陥らないよう、当該事件が「管財事件」として処理されるべきものであるのか、「同時廃止」事件として処理されるべきものであるのかの見極めは重要であると言えます。
静岡市を拠点に活動する弁護士。実務に入り16年目。
中心的な取扱分野は、会社個人を問わず自己破産申立事件。
裁判所の選任により年に数件の破産管財人も担当している。
また、会社の顧問弁護士として会社からの相談を受けることも多い(静岡県外(首都圏)にも複数の顧問先会社がある)。
趣味は旅行、英会話、競馬。
個人の自己破産手続に関する破産手続の種類のお話 その2 ~「管財事件」について
破産事件における「管財事件」とは
皆様、こんにちは。静岡で弁護士をしております石川アトムです。
当事務所では、自己破産の申し立てを注力分野の一つとしております。
前回のブログでは、個人の方が自己破産をした場合の破産手続には3つの種類があるということ、及び、その一つである「同時廃止」手続についてお話ししました。
今回は、残りの2つの手続についてお話をします。
まずは、「管財事件」のご説明です。
破産手続における「管財事件」では、裁判所が、破産管財人という役割の人を選任します。
破産管財人は、弁護士が選任されることが通例で、破産の申立てを依頼した弁護士とは別の弁護士が選ばれます。
前回のブログで、破産手続とは、破産者の財産を現金化して債権者に平等に分配する手続であると申し上げました。
破産管財人は、この「破産者の財産を現金化して債権者に平等に分配する手続」を取り仕切る者です。
先ほどお話ししましたように、破産管財人には、基本的には弁護士が選任されます(少なくとも私は弁護士でない者が破産管財人に選任された事例を知りません)。
破産管財人として選任された弁護士に、無料で、財産の現金化、分配手続をしてもらうわけにはいきません。
そのため、破産管財人が選ばれる破産手続(「管財事件」)においては、申立人(破産者)は裁判所に対して、破産管財人に仕事をしてもらうための費用(破産管財人の報酬)を納めなければなりません。
このように、破産管財人が選任される破産手続(「管財事件」)では、そうでない手続(「同時廃止」)と異なり、破産手続に必要となる費用が増えることになります。
破産事件における「少額管財事件」(「小規模管財事件」)とは
破産手続には3種類の手続があり、その一つが「同時廃止」手続でした。
残りの2つは「管財事件」ですが、「管財事件」は、「通常管財事件」と「少額管財事件」に区分されます。
この3つの手続のいずれにおいても、破産を申し立てる際には、官報公告費用や、所定の印紙代、郵便切手代を納める必要があります(概ね2万円程度です。「官報」に関するご説明はこちらをご覧ください)。
他方で、先ほどお話ししましたように、破産管財人が選任される事件では、上記の費用に加えて、裁判所に予納金を納める必要があります。
「少額管財事件」の何が「少額」かと言いますと、裁判所に納める予納金が「少額」なのです。
ただし、その予納金は、社会一般の「少額」という感覚からは解離していると思われ、静岡地方裁判所の場合、20万円程度は納める必要があります。
それでも、「通常管財事件」では、静岡地方裁判所の場合、80万円程度の予納金を納める必要がありますので、「通常管財事件」と比べれば、確かに「少額」ではあります。
「少額管財事件」となるか、「通常管財事件」となるかの区分けは、破産管財人がどれほどの業務を行わなければならないか、ということがポイントです。
先ほど、少額管財事件であれば、裁判所に納める費用は20万円となり、通常管財事件の場合は、それよりも相当高額であること、それらの費用は、破産管財人の報酬金の趣旨を含むものであるとお話ししました。
つまり、破産管財人の業務が多くなることが見込まれる場合には、それなりの費用を納めなければならず、通常管財事件となります。
逆に、破産管財人の業務が少なくて済むことが見込まれるのであれば、比較的低額な予納金で済む「少額管財事件」として扱われる、ということになります。
より具体的には、少額管財事件として扱われるためには、1回目の債権者集会(破産手続の開始決定日から概ね3か月後に開かれます)までに、破産者の全ての財産について、現金化が終了しているか、明らかに売れないだろうということで破産財団から放棄されるか、自由財産の拡張によって破産者が引き続き保有することが認められるか、いずれかの処分が見込まれることが必要です。
このように、破産事件の内容として、比較的小規模である事件を「少額管財事件」として扱うため、「少額管財事件」は、「小規模管財事件」とも呼ばれています。
少額管財事件の予納金はいつまでに用意しておく必要があるか?
裁判所への予納金(少額管財事件の場合には20万円)は、基本的には裁判所に破産を申し立てる時までに用意しておく必要があります。
理屈上は、裁判所が破産手続の開始決定を出し、破産管財人が選任され、同人に予納金を振り込む時までに、ということにはなりますが、申立時に用意ができておらず、かつ、その目処も立っていないということになりますと、破産手続を進められません。
そのため、私としては、保険の解約返戻金が、申立日の数日後に入金されることが確実であるなどというような例外的ケースを除き、原則的に申立時までに予納金を用意しておく必要があると考えています。
静岡市を拠点に活動する弁護士。実務に入り16年目。
中心的な取扱分野は、会社個人を問わず自己破産申立事件。
裁判所の選任により年に数件の破産管財人も担当している。
また、会社の顧問弁護士として会社からの相談を受けることも多い(静岡県外(首都圏)にも複数の顧問先会社がある)。
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個人の自己破産手続に関する破産手続の種類のお話 その1 ~「同時廃止」手続について
破産手続には大きく分けて3つの種類があります
皆様、こんにちは。静岡で弁護士をしております石川アトムです。
当事務所では、自己破産の申し立てを注力分野の一つとしております。
今回から3回にわたり、個人の方が自己破産をした場合の手続の種類についてお話ししたいと思います。
自己破産をした場合、裁判所が破産手続の開始決定を行い、破産手続が進行していくことになりますが、破産手続の種類は1つだけではありません。
大きく分けると3つの種類があると言えます。
そして、どの種類の破産手続になるかによって、破産手続に必要となる費用が増えたり、破産手続が始まってから終わるまでの期間が長かったり、短かったりします。
そのため、自己破産を申し立てるにあたって、申立人の破産手続が、3種類ある破産手続の中のどの種類に当たるのかを見通すことは大変重要です。
同時廃止手続
手続の1つ目は、「同時廃止」と呼ばれる手続です。
通常、裁判所に自己破産を申し立てた場合、裁判所は、申立ての際に提出された書類について審査をします。
そして、提出された書類の内容から、裁判所が破産手続を開始しても問題がないと考えた場合、裁判所は、破産手続の開始決定を出します。
本来、破産手続とは、裁判所による管理監督の下、破産者(申立人)の財産を現金化し、債権者に平等に分配する手続を言います。
破産手続が開始されたものの、債権者に分けられるほどの財産が存在しない(正確には、債権者に財産を分けるための手続を進められるだけの財産が存在しない)ということになりますと、裁判所は、破産手続を「廃止」(終了)させます。
「同時廃止」の自己破産事件とは、破産手続を進められるだけの財産が破産者に存在しないことが明らかであるため、破産手続を開始すると同時に、破産手続を「廃止」する(終了させる)というものです。
破産手続が始まった瞬間に終わるというイメージです。
個人の方の場合、お金が無いので破産をする、ということが通常だと思います。
私がこれまでに個人の方からご依頼をいただいた自己破産申立事件の9割近くは「同時廃止」手続です。
個人の借金を0にする手続は「免責手続」といいます
ところで、個人の方が自己破産を申し立てる目的は、借金を0にすることですが、借金を0にすること自体は、理屈上、破産手続とは別の「免責手続」という手続により行われます。
そのため、破産手続が、上記のように開始と同時に廃止された場合(「同時廃止」手続)であっても、破産手続に引き続いて、破産者の借金を0にするかどうかという「免責手続」が続きます。
同時廃止手続の場合、理屈上、破産手続は、手続の開始と同時に終わってしまうのですが、その後に行われる「免責手続」を経て、晴れて借金は0になるということになります。
静岡地方裁判所における「同時廃止」手続の場合、開始決定後おおむね2か月から2か月半ほどで、免責を許可するかどうかを決める日が設定されます。
コロナ前は、その設定された日に、裁判所に赴き、裁判官から、申立書に記載された事実に間違いはないか、破産に至った原因についてどう思っているか、反省すべき点はないか、今後の生活についてどう考えているか、二度と破産しないようにするためにはどのような点に気を付けなければならないか、などの質問があり、破産者が質問に回答するという手続を経ることが通常でした。
しかし、コロナ後は、少なくとも私の知る限り、静岡地方裁判所においては、同時廃止の手続で、破産者が裁判所に赴くということは無く、上記のような問答の代わりに、破産に至ったことに関する反省文を提出し、免責の可否について裁判所の判断を待つ、という運用になっています。
「同時廃止」手続の特徴
「同時廃止」手続は、3種類ある破産手続の中で、もっともシンプルで、通常、破産手続が開始されてから免責許可が降りるまでの期間が短いものです。
このため、破産を申し立てる人にとっても、最も負担の少ない手続と言えます。
「同時廃止」とならない破産手続のことを「管財事件」と呼びますが、「管財事件」となった場合の破産手続や、どのような場合に「管財事件」となるのかということにつきましては、次回以降のブログにてご説明いたします。
当事務所では、自己破産事件を注力分野の一つとしております。
個人の自己破産、会社の自己破産を問わず、借入れ、負債の整理を検討されている方は、是非一度当事務所にご相談ください。
静岡市を拠点に活動する弁護士。実務に入り16年目。
中心的な取扱分野は、会社個人を問わず自己破産申立事件。
裁判所の選任により年に数件の破産管財人も担当している。
また、会社の顧問弁護士として会社からの相談を受けることも多い(静岡県外(首都圏)にも複数の顧問先会社がある)。
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財産分与、婚姻費用、養育費に関連する情報開示命令
相手方の財産が分からないと適切な財産分与はできません
皆様、こんにちは。静岡で弁護士をしております石川アトムです。
我が国においては、本年4月1日より、家族法に関する改正民法が施行され、その中の一つとして、財産分与、婚姻費用、養育費等に関連する情報開示命令制度が設けられました。
今回のブログでは、同制度についてご説明いたします。
財産分与は、基本的に婚姻中の夫婦が婚姻後に積み上げてきた財産を、離婚時において半分ずつに分けるという制度です。
もっとざっくり言ってしまえば、夫婦が婚姻後に取得し、現在も残っている財産を足して2で割るという制度です。
財産分与を行うためには、大前提として、夫婦それぞれがどのような財産を持っているのかを明らかにする必要があります。
しかしながら、現実には、配偶者の持っている財産が不明であったり、○○銀行の預金口座を持っているということは知っていても支店が不明であったり、具体的な預金残高が不明であったりすることがあります。
このような場合、夫婦全体の正確な財産の金額を算定することができず、本来もらえるはずの分与額よりも財産分与の金額が少なくなってしまうということが起こり得ます。
相手方の収入が分からないと適切な婚姻費用、養育費の支払いを受けられません
婚姻費用や養育費の月額を決める場面では、裁判所の公式ホームページに掲載されている婚姻費用算定表、養育費算定表に基づいて金額が決定されることが多いといえます。
そして、これらの表に基づいて婚姻費用や養育費の月額を決める場合、金額算定の基礎となるのは、当事者(夫婦、あるいは父母)の収入です。
この場面でも、相手方当事者の収入を知らない、あるいは、その収入を証明できる資料(源泉徴収票、課税証明書、給与明細など)が無いために、相手方に関して適切な収入金額を把握、証明できず、その結果、適切な婚姻費用や養育費の支払いを受けられないということが起こり得ました。
改正民法により新設された情報開示制度
令和8年4月1日施行の改正民法により、財産分与、婚姻費用、養育費に関する調停、審判、あるいは離婚訴訟において、当事者からの申立てまたは裁判所による職権に基づき、当事者に対し、収入ないし資産に関する情報を開示するよう命じることができるという制度が始まります(以下「情報開示命令」といいます)。
同命令に対し、正当な理由なく情報を開示しなかったり、虚偽の情報を開示したりした当事者は、10万円以下の過料に処せられる可能性があります。
なお、情報開示命令では、第三者についての情報を当事者に開示するよう求めることができるようです。
たとえば、養育費の支払いを求める調停において、支払義務者が再婚していたような場合、再婚相手の収入資料についても開示を求めることができると、ある種の解説書には記載があります。
しかし、当該再婚相手の同意なく同人の収入資料を提出することには抵抗があるでしょうし、当該再婚相手が資料の提出に同意しなかったような場合には、やはり本制度によっても開示はできないという結論になってしまうのではないと思います。
情報開示命令の有用性について
改正民法施行前においても、文書送付嘱託、文書提出命令といった制度によって、当事者の収入あるいは財産に関する資料の開示を求めるという方法は存在しました。
しかし、これらの制度を使って、たとえば金融機関に相手方の預金口座の残高や入出金履歴の開示を求めても、金融機関が、相手方の同意が存在しないことを理由として開示を拒否するということが通例であったように思います。
そもそも論として、紛争の相手方に財産資料等の開示を求めても開示されないので、金融機関等の第三者に、預金残高等の開示を求めていたというのが実情であったと思います。
今回の民法改正で、紛争の相手方に対して、過料の制裁をもって財産開示を迫るという制度ができましたが、過料というのは、罰金とは異なり、処せられても前科はつきません。
たとえば財産分与の場面で、相手方が知らない資産が1000万円存在したとした場合、開示すれば財産分与額が500万円増え、開示しなければ10万円の過料の制裁を受ける可能性があるとします。
そういった場面で、果たして情報開示命令によってどれほどの当事者が当該情報を開示しようという気になるのか、疑問なしとは言えませんが、このような制度ができた以上、必要な場面では活用したいと思います。
静岡市を拠点に活動する弁護士。実務に入り16年目。
中心的な取扱分野は、会社個人を問わず自己破産申立事件。
裁判所の選任により年に数件の破産管財人も担当している。
また、会社の顧問弁護士として会社からの相談を受けることも多い(静岡県外(首都圏)にも複数の顧問先会社がある)。
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「法定養育費」など養育費に関する民法改正について
「法定養育費」制度の新設
皆様、こんにちは。 静岡で弁護士をしております石川アトムです。
いよいよ明日令和8年4月1日より、家族法に関する改正民法が施行されます。
改正民法においては、「法定養育費」と呼ばれる制度が新設されました。
今回のブログでは、同制度についてご説明いたします。
まず、とても大事なことですが、法定養育費制度の適用があるのは、改正民法の施行後、つまり、令和8年4月1日以降に離婚をした父母間の子に限られます。
法定養育費は、養育費について取り決めをすることなく父母が離婚した場合に、離婚のときから引き続き子の監護を主として行う父母から、他方の父母に対して法務省令が定める金額(子1人あたり1月あたり2万円)を請求できることとした制度です。
請求の終期は、父母が協議により養育費の分担について定めをした日、養育費の分担についての審判が確定した日、子が成年(18歳)に達した日のいずれか早い日とされています。
法定養育費を請求できる者は「父母の一方であって離婚の時から引き続きその子の監護を主として行うもの」です。
ここでいう「監護」は現実的に子を監護している者をいい、その者が親権や監護権を有しているかどうかは問題とならないとされています。
子が複数おり、子が父、母のそれぞれと生活しているという場合、父母はお互いに自身が監護する子について法定養育費を請求することができます。
他方で、子が離婚直後は母と生活していたものの、後に父と暮らすようになったという場合、父は「離婚の時から引き続きその子の監護を主として行うもの」とは言えないため、母に対して法定養育費を請求することはできません(父母の協議により養育費の金額を定める必要があります)。
その一方で、母は、離婚時から子が父と暮らすようになった時点までの法定養育費(過去分)を請求することができます。
法定養育費は遡って請求することが可能です
法定養育費の支払期は、毎月末日とされています。
これまで実務上、養育費の請求権は、原則として権利者が義務者に対して請求した時点で発生するものと考えられてきました。
逆に言いますと、請求時よりも前に「発生」していた養育費を、請求時にさかのぼって請求することは認められていませんでした。
これに対して、法定養育費制度の施行後は、法定養育費の発生要件を満たせば、離婚時から請求時までは法定養育費の請求が可能となりました。
また、請求時以降の養育費は、これまでと同様に、その後に調停ないし審判等により定められた金額の養育費を請求することができます。
法定養育費を請求される側になったら?
改正民法では、法定養育費の支払義務者が、支払能力を欠くためにその支払をすることができないこと、またはその支払をすることによって生活が著しく窮迫することを証明したときは、法定養育費の全部または一部の支払いを拒むことができるとされています。
また、家庭裁判所が養育費を定める審判を行う場合、養育費の変更の審判を行う場合、法定養育費の支払義務者の支払能力を考慮して、法定養育費の支払義務の全部または一部を免除することなどが可能とされています。
なお、支払義務者が法定養育費の減免や支払猶予を求めるためには、養育費を定めることを求める(あるいは、その増減を求める)調停または審判を提起し、その中で法定養育費の減免等を主張する必要があると解されています。
養育費に関する先取特権
先取特権(「サキドリトッケン」と読みます)という制度を聞いたことがあるという方は少ないと思います。
これまでは、相手方が任意に養育費を支払わない場合、調停または審判を経た後、それらを基礎として預金口座や給与債権などを差し押さえるという手続を取る必要がありました。
つまり、養育費の未払いに関して差押えをしようとした場合、強制執行認諾文言付きの公正証書によって養育費の取り決めをした場合でなければ、差押えに先立って、まず調停を成立させるか、確定した審判を得る必要がありました。
しかし、それらの手続きには少なくとも数か月を要することが通常でした。
このように、従前、養育費の支払権利者が相手方の財産を差し押さえようとしたときには、相当な手間と期間が必要となっていたのですが、「先取特権」は、このような調停、審判手続を経ることなく、直ちに相手方の資産を差し押さえることができるという権利です。
改正民法の施行後は、法定養育費には全額先取特権が付されています。
また、当事者間で作成した合意書や念書などの内容のうち養育費に関する部分は、先取特権の対象となります。
先取特権を行使して、差押え等ができる金額は、子1人につき1月あたり8万円とされています。
このように、改正民法の施行後は、養育費の請求に関して先取特権が利用できることにより、従来よりは、養育費を現実的に回収するということが容易になるものと思われます。
静岡市を拠点に活動する弁護士。実務に入り16年目。
中心的な取扱分野は、会社個人を問わず自己破産申立事件。
裁判所の選任により年に数件の破産管財人も担当している。
また、会社の顧問弁護士として会社からの相談を受けることも多い(静岡県外(首都圏)にも複数の顧問先会社がある)。
趣味は旅行、英会話、競馬。
「面会交流」から「親子交流」へ ~その2・父母以外のものと「子」との交流
父母以外の者と「子」との交流
皆様、こんにちは。静岡で弁護士をしております石川アトムです。
我が国においては、令和8年4月1日より、家族法に関する改正民法が施行され、これまで「面会交流」と呼ばれてきた父母と子との交流(「親子交流」)についても、いくつかの改正条項が施行されることになります。
これまで「親子交流」は、(改正前民法においては「面会交流」と呼ばれていましたが)文字どおり「親子」による交流を対象としており、祖父母には、彼らと孫とが交流することを申し立てる権利がありませんでした。
改正前民法を判断の対象とした令和3年3月29日最高裁判所第一小法廷決定は、「父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として上記第三者と子との面会交流について定める審判を申し立てることはできないと解するのが相当である」として、祖母は孫との面会交流を求める審判を申し立てることはできないと判断していたのです。
今回の法改正は、この最高裁判所の判断を立法によって修正するものです。
令和8年4月から施行される改正民法においては、一定の条件がクリアできれば、祖父母等にも「子」と面会することを求めることができるようになりました。
父母以外で「子」との交流を求めることができる者の範囲
「子」との交流を求めることができる者の範囲について、改正民法は、子の直系尊属(例:祖父母)及び兄弟姉妹以外の者については、過去に当該子を監護していた者に限る、としています。
直系尊属、兄弟姉妹以外の者(例:叔父、叔母)が「子」との面会を求めようとした場合、その者は、「過去に当該子を監護していた」という要件を満たす必要があります。
「過去に当該子を監護していた」と言えるためには、「子」と同居するなど、生活の本拠が同じであり、相当程度の期間にわたる監護実績が必要と考えられています。
原則は「親」による申立て(他の親族による交流の申立ては例外的な場合にのみ認められる)
親以外の者が「子」との交流を求めることができるのは、「他に適当な方法がないとき」に限られています。
「他に適当な方法がないとき」とは、父母の一方が亡くなったり、行方不明になったりして、父母の間で親子交流について協議をしたり、父母の一方が親子交流の申立てをすることができないような状態にあるときに限定されていると解釈されています。
父母が健在である場合などは、原則として父母以外の第三者による申立ては認められません。
逆に、父母は、自身と子との親子交流とは別に、「子」にとっての祖父母など、他の親族と自身の子との交流を求める審判等を申し立てることは可能です。
父母のいずれか一方が亡くなっている場合など、「他に適当な方法がないとき」には、直系尊属、兄弟姉妹、その他過去に子を監護していた親族(例:叔父、叔母)は、「子」との交流を求める調停、審判を申し立てることができることになります。
父母以外の第三者に「子」との交流が認められるための要件
父母以外の第三者と「子」との交流が認められるためには、先に述べた「当該親族と子との交流についての定めをするため他に適当な方法がない」という要件以外に、当該第三者との交流が「子の利益のために特に必要があると認められるとき」という要件を満たす必要があります。
「子の利益のため特に必要があると認められる」場合とは、子と、当該親族との間に親子関係に準ずるような親密な関係性があることが必要であると解されています。
そして、そのような関係性の存在を基礎付けるための事情として、当該親族が相当程度「子」と同居して監護に関わってきたことなどについて具体的な事情が必要であると考えられています。
ただし、「子の利益のため特に必要があると認めるとき」という要件は、あくまでも父母の協議が調わない場合に裁判所が判断(審判)をする際の要件です。
当事者間で協議がまとまり、調停が成立する場面でこの要件を満たさなければならないというものではありません。
このように改正民法が施行されることによって、父母以外の親族にも一定の場合に、子との交流を求める申立てが可能となりました。
しかし、父母以外の親族が申立てをできる場合は例外的なものとされており、依然として父母以外の親族が「子」との交流を求めるハードルは高いといえます。
静岡市を拠点に活動する弁護士。実務に入り16年目。
中心的な取扱分野は、会社個人を問わず自己破産申立事件。
裁判所の選任により年に数件の破産管財人も担当している。
また、会社の顧問弁護士として会社からの相談を受けることも多い(静岡県外(首都圏)にも複数の顧問先会社がある)。
趣味は旅行、英会話、競馬。
別居中の親子の交流について ~その1・「面会交流」から「親子交流」へ
「面会交流」は、なぜ「親子交流」という名前に変わるのか
皆様、こんにちは。静岡で弁護士をしております石川アトムです。
我が国においては、令和8年4月1日より、離婚後の「共同親権」制度がスタートします。
これまで全10回にわたって「共同親権」に関するブログを掲載して参りましたが、離婚後の共同親権」制度の開始と同時に、これまで「面会交流」と呼ばれてきた別居中の父母と子との交流に関する規定についても、いくつかの改正を見ることになります。
これまで「面会交流」と呼ばれてきた制度は、今後は「親子交流」という名称で呼ばれることになると言われています。
「面会交流」は、離婚前で子と別居中、あるいは、離婚後の親子間において、(基本的には)定期的に、別居親と子が食事をしたり、出かけたりするなどして交流をする制度を言います。
親子の交流の仕方には、先に述べたような(一緒に食事をする、出かけるというような)「直接的な」交流以外にも、特に子どもが乳幼児である場合などには、直接的な交流に代えて、またはそれと並行して、写真のやり取りをするなど、「間接的な」交流が実施されることがあります。
また、近時ではビデオ通話を利用した交流なども実施されており、現在では、必ずしも親子が直接会うという「面会」のみが交流の形ではなくなっています。
このような事情を理由の一つとして、これまで「面会交流」と呼ばれてきた制度は、今後「親子交流」という呼称に変更されることになりました。
親子交流の試行的実施
改正前民法においても、実務上、親子交流(面会交流)に関する調停成立、審判前に、事実調査の一環として、試行的に親子交流が実施されていましたが、今回の民法改正により、試行的な親子交流について明文の規定が設けられました。
改正民法では、試行的な親子交流を実施する要件として、①子の心身の状態に照らして相当でないと認める事情がないこと、②事実の調査のため必要があると認めるときであること、という2つの要件が設定されています。
②の要件については、調停成立(父母間の合意形成)や審判(裁判官による判断)に必要かどうかという点から検討されますが、調停手続の中で明らかとなった親子交流に関する課題を解決したり、新たな課題を把握して父母間で共有したり、課題の解決に向けた父母の主体的な取組みを支援したりするためなど、広く事実の調査のために必要があると認められるときであれば、この要件を満たすものと考えられています。
具体的なケースとして、別居親と子との間で相当期間にわたって親子交流が実施されていない場合、お互いに相手方が親子交流における約束を守るか不安である場合などが考えられます。
なお、試行的面会交流の実施回数について明文上の制限はありません。
一つの調停、審判の手続内で複数回実施される場合もあると考えられます。
施行的な親子交流の実施方法
試行的な親子交流の実施にあたっては、裁判所は、交流の方法、日時、場所、家庭裁判所調査官やその他の者を立ち会わせるかどうかを決めることができることになっています。
交流の方法については、直接会うという方法だけではなく、ビデオ通話や電話による交流、写真や動画の送付、別居親から子への手紙の送付といった様々な方法が考えられるとされています。
裁判所は、試行的親子交流の実施にあたり、「子の心身に有害な影響を及ぼす言動を禁止することその他適当と認める条件」を付すことができるとされています。
たとえば、父母双方に対して、他方親やその親族に対する誹謗中傷を行わない、他方親の生活状況や居所を尋ねない、子を介した伝言をしない、といった条件が考えられます。
また、別居親に対しては、子に対して自身と生活するよう誘う行為をしない、同居親に対しては、親子交流実施後にその内容等について詳細を問うような質問をしない、などという条件が考えられます。
これらの条件について違反があった場合、違反の事実は、最終的な判断において、違反者に不利益に評価される可能性があります。
なお、離婚訴訟手続に関しても、試行的な親子交流を行う規定が新設されました。
しかし、離婚訴訟においては家庭裁判所調査官が期日に立ち会うことができず、試行的親子交流に関する調整活動が困難であると思われることから、実際上、試行的親子交流の実施を希望する場合には、離婚訴訟と並行して、別途親子交流の調停を申し立てる必要があると考えられています。
離婚前別居中の親子の交流に関する規定の明文化
改正前民法においては、離婚後の面会交流についての規定は存在したものの、離婚前別居中の親子に関する面会の規定は存在しませんでした。
今回の改正では、離婚前別居中の親子に関する面会交流の規定が新設されましたが、基本的には、従前の実務の取扱いを明文化したものです。
静岡市を拠点に活動する弁護士。実務に入り16年目。
中心的な取扱分野は、会社個人を問わず自己破産申立事件。
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離婚後の「共同親権」制度10~「共同親権」と再婚相手との養子縁組
離婚後の「共同親権」下にある子を養子縁組するためには、原則として元配偶者(別居親)の承諾が必要です
皆様、こんにちは。静岡で弁護士をしております石川アトムです。
今回は離婚後の「共同親権」に関するブログの第10弾で、「共同親権」に関するブログとしては最終回となります。
来月からいよいよ離婚後の「共同親権」の制度がスタートし、18歳未満の子がいる父母が離婚する場合、父母は、離婚後も「共同親権」とするのか、父母いずれかの単独親権とするのかという選択を迫られることになります。
離婚後も子が父母双方との関わりを持ちつつ成長していくということは、子の成長にとってプラスの側面があるでしょう(もちろんDVなどの事情により、すべてのケースがそうでないことは、改正法においても想定しているところです(必要的単独親権事由))。
他方で、離婚後においても「共同親権」とすることを選択した場合、15歳未満の子を再婚相手と養子縁組させようとした場合、大きな困難を伴うことが予想されます。
ここでは例として、離婚後も「共同親権」となっており、子と同居している親を母親、別居している親を父親とし、母親が再婚するという場面を考えてみます。
「共同親権」下の子を再婚相手と養子縁組させようとした場合、子が15歳未満である場合、親権者が子に代わって養子縁組を承諾する必要があります。
このような親権者による承諾を「代諾」(だいだく)と呼びます。
改正民法施行前は、離婚後は父母いずれかの単独親権のみでしたので、離婚後に単独親権者となった母親が単独で養子縁組を代諾すれば足りました。
しかし、「共同親権」下の子(15歳未満)について、子が再婚相手と養子縁組をするためには、母親は父親と「共同」で再婚相手との養子縁組を代諾する必要があります。
つまり、再婚相手との養子縁組を成立させるためには、子の父親(元配偶者で、別居親である共同親権者)に、再婚相手と自身の子が養子縁組することに同意してもらう必要があります。
私としては、この時点で、主として感情的な問題から、養子縁組に同意してくれる元配偶者がどれだけいるのか、という懸念を有していますが、さらに深刻な問題として、次に述べるような事情があります。
離婚後「共同親権」状態で養子縁組をすると、他方親(元配偶者)は親権を失います
改正民法818条3項は、子が養子であるときの親権者を、養親及び養親の配偶者たる子の父母であると定めています。
これは、離婚後に「共同親権」の状態で養子縁組をした場合、養親となった者(再婚相手が想定される)の配偶者でない親(つまり、元配偶者ないし別居親たる親権者)は、共同親権者でなくなる=親権を失うということを意味しています。
先にお話ししたように、15歳未満の「共同親権」下の子について、再婚相手と養子縁組を行うためには、元配偶者の承諾が必要となります。
しかし、元配偶者が、再婚相手との養子縁組を承諾した場合、元配偶者は、自身が有していた共同親権を失ってしまうことになります。
このような場面で、どれほどの元配偶者が、再婚相手との養子縁組を行うことに同意してくれるのでしょうか。
養子縁組の代諾に関する親権行使者の指定は極めてハードルが高い
離婚後の「共同親権」下において、父母の意見が対立した場合の解決方法として、どちらの親が、その事柄について親権を行使するのかを裁判所に決めてもらう親権行使者の指定という制度があることは以前のブログでご説明申し上げました。
養子縁組に関する代諾についても、他方親(元配偶者)が養子縁組に同意してくれない場合、「親権行使者の指定」という手続を使うことができます。
ただし、養子縁組の代諾について「親権行使者の指定」を求める場合、その他の「親権行使者の指定」の場合よりも要件が加重されています。
一般的な「親権行使者の指定」の場合は「子の利益のため必要がある」ことが要件ですが、養子縁組の代諾に関する「親権行使者の指定」の場合は、「子の利益のため特に必要である」ことが要件とされています。
これは、子の利益のため、他方親の親権を失わせてもなお、養子縁組を成立させる必要があるのか、という観点から、別居親の親権を維持することについて子の利益の観点から問題があると言えない場合には、養子縁組の代諾に関する親権行使者を指定することは認められないと考えられているためです。
このように、養子縁組の代諾に関する「親権行使者の指定」は極めてハードルが高いといえます。
一般的に、共同親権を有している他方親(元配偶者)が自身の親権を喪失するとしてもなお、再婚相手と子との養子縁組に同意してくれるケースは僅少と思われます。
そうしますと、離婚時に「共同親権」となった場合、その後同居親が再婚して、再婚相手と子(15歳未満)とを養子縁組させることはかなり難しいのではないかと考えられます。
特にお子さんの年齢が低い場合、「共同親権」とするかどうかを決める際、この点の考慮は不可欠であろうと思います。
静岡市を拠点に活動する弁護士。実務に入り16年目。
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離婚後の「共同親権」制度9~「監護」の分掌について
監護の分掌~父母間で子に対する「監護」を分けること
皆様、こんにちは。弁護士の石川アトムです。
我が国においては、令和8年4月1日より、離婚後の「共同親権」制度がスタートします。
以前「共同親権」に関するブログを第8弾まで掲載してきましたが、今回はその第9弾となります。
第8弾のブログでは、親権の一部を構成する「監護権」についてお話をしました。
監護権は、親権の一部である子に対する「身上監護」を行う権限と言えます。
第8弾のブログでお話ししたように、「監護権」は父母のいずれか一方に帰属させることもできますが、本ブログで紹介するように、「監護権」を父母の間で分担させるということもできるようになりました。
「監護権」を分担する方法には2種類あり、期間的な分担と、事項的な分担があります。
期間的な「監護」の分掌(ぶんしょう)
期間的な監護の分掌は、父母が一定の期間ごとに子を交替交替で監護するというものです。
たとえば、奇数月は父親が子どもと暮らし、子どもの面倒を看る、偶数月は母親が子どもと暮らし、子どもの面倒を看るというような場合が考えられます。
このような期間の分掌が実現した場合、対象期間中は父母の一方が監護教育に関する日常的な行為を単独で行うことができます。他方で、対象期間後にも影響を及ぼすような重大な行為(たとえば、子どもの心身に重大な影響を及ぼす医療行為の実施など)については、対象期間中であっても他方親と共同で行う必要があります。
なお、期間の分掌を行った場合には、養育費や婚姻費用を支払う側の父母も子の監護をすることになります。そのため、期間の分掌を行うことにより、支払われるべき養育費や婚姻費用の金額が影響を受ける(金額が下がる)場合もあると考えられています。
期間的な監護の分掌の考慮要素
このような期間的な「監護」の分掌が認められるためには、父母のいずれにおいても監護能力や監護者としての適格性が認められる必要があります。さらに、現実問題として交替監護を行うことが可能かどうか、父母において緊密に、かつ、継続的に協力し合うことが可能かどうか、交替監護が子どもに大きな負担とならないかどうかといったことも検討されます。
より具体的には、父母間の住居の距離、移動時間、子の年齢、心身の状況、子の学校や習い事の状況、子の年齢、発達に応じた子の意向、父母の協力可能性、父母と子の関係性、現在の監護状況などの事情が考慮されて判断されます。
期間的な「監護」の分掌が認められるためには、父母が子の監護について緊密に協力し合える関係を安定して継続できることが不可欠です。父母間の協力のレベルは、「共同親権」が認められるレベルよりも高いものが必要となると考えられています。
事項的な「監護」の分掌
事項的な「監護」の分掌は、子の教育に関する監護は父親、子の医療に関する監護は母親、というように、一定の事項に関する「監護」を父母のいずれか一方に委ねるものです。
事項的な「監護」の分掌が行われると、当該事項については、監護権を有する親が単独で監護を実施することができ、他方親はこれを妨げてはならないと考えられます。
事項的な「監護」の分掌は、特定の事項に関する親権行使者の指定と重なる部分がありますが、一般的には、特定の事項に関する「監護」の分掌の方が、特定の事項に関する親権行使者の指定よりも広く、抽象的な内容を対象としていると思われます。
たとえば、「子の教育」に関する監護の分掌と、子の中学進学に関する親権行使者の指定では、監護の分掌の方が広い事項を対象としています。
他方で、監護の分掌が認められた場合、当該事項について分掌を認められた親の監護を、他方親は妨げてはならないと解され、分掌を認められた親に強い権限が付されることになります。
そのため、監護の分掌が申し立てられた場合、裁判所においては、当該事項全般について監護の分掌を認める必要があるのか、特定の事項に関する親権行使者の指定では足りないのか、という点を検討することになり、場合によっては、後者の申立てへの変更を促される場合もあると考えられます。
事項的な監護の分掌の考慮要素
事項的な監護の分掌が認められるかどうかについては、当該事項についての父母間における従前の役割分担の状況、父母間の協議の状況、子の年齢、発達特性、心身の状況、父母と子との関係、子の意向を総合考慮して、父母のどちらの方が子の利益にかなう監護権の行使ができるか、という観点から判断がされるようです。
事項的な監護の分掌の場合には、期間の分掌ほどの父母間における緊密な協力関係は必要とされないものの、少なくとも共同親権とする際に求められるのと同程度以上の協力関係が必要となると考えられています。
静岡市を拠点に活動する弁護士。実務に入り16年目。
中心的な取扱分野は、会社個人を問わず自己破産申立事件。
裁判所の選任により年に数件の破産管財人も担当している。
また、会社の顧問弁護士として会社からの相談を受けることも多い(静岡県外(首都圏)にも複数の顧問先会社がある)。
趣味は旅行、英会話、競馬。
