司法修習のお話~その10 静岡での検察修習1

検察修習と弁護修習との共通点

皆さん、こんにちは。弁護士の石川です。

今回は、最後の実務修習、検察修習での思い出を紹介します。

刑事裁判や民事裁判など、裁判所での修習と、検察修習との大きな違いの一つは、修習生と当事者との距離だと思います。

より具体的に言えば、被疑者や被告人と、修習生との距離ということです。

これは、弁護修習における依頼者と修習生との距離にも類似する事柄だと思います。

刑事裁判修習や民事裁判修習では、基本的には、弁護士や検察官が主張する内容を前提に、裁判所としてどのような判断をするかということを勉強します。

これに対して、検察修習では、当事者=被疑者から、問題とされている事象に関する事実を聞き取り、聞きとった事実がどのような罪に該当するか、ということを検討します。

また、検察修習では、該当すると考えられる犯罪について、裁判になったときに、その事実を証明できるだけの証拠が揃っているかどうかについても検討します。

弁護修習でも、依頼者や相談者から、問題となっている事項について事実を聞き取り、それが法的にどのような効果を持つ事実であるのかを検討します。

また、裁判になった際、聞きとった事実を証明できる証拠があるかどうか、ということについても検討します。

このように、検察修習と弁護修習は、裁判修習のように、用意された事実を前提として結論を検討するのではなく、自ら当事者から事実を聞き取り、事実を明らかにしていくという性格が強い修習であると言えます。

検察修習と弁護修習の相違点1~対立当事者からの聞き取り

しかしながら、検察修習と弁護修習とでは、修習生と当事者との関係に大きな違いがあります。

弁護修習で事実関係を明らかにするために聞き取りを行う場合、多くの場面で、聞き取りを行う対象者は依頼者であったり、相談者であったりします。

つまり、大抵の場合、聞き取り相手は、弁護士(あるいは修習生)に対して友好的です。

しかし、検察修習の場合、検察官側が聴取しなければならない対象者の多くは、被疑者、被告人であり、いわば対立当事者であるわけです。

そして、被疑者、被告人は、何らかの罪を犯したと疑われて取調べを受ける立場にあります。

被疑者、被告人は、通常、自らが発言する内容によっては、自らに不利益が及ぶ可能性があることを認識しています。

そのため、被疑者、被告人においては、自分を守るために、自分に不利益と思われることを進んで話をするということは、あまり期待できません。

このことは弁護人の立場からすれば、当然のことで、自分が弁護人として、被疑者等と面会する場面で、被疑者にとって不利益になるようなことについて進んで話すよう勧めることはあまりありません(ただし、比較的軽微な事案で、記憶にあることを全て話した方が勾留を延長されずに釈放される可能性が高いと思われる場合には、被疑者に対して、記憶にあるとおり取調官に話をするよう勧めることもあります)。

検察修習と弁護修習の相違点2~「決裁」の制度

また、弁護修習と検察修習との大きな違いのその2として、検察修習においては、というよりも、検察庁においては、「決裁」の制度があります。

被疑者を取調べ、こういう罪名で公判請求をしよう(刑事裁判にかけよう)と判断した場合、あるいは、今回の罪については、不起訴で良いだろうと判断をした場合、いずれの処分にする場合でも、役職のある検察官(通常は、地方検察庁のNo.2にあたる次席検事になるのでしょうか)の決裁を仰ぐ必要があります。

決裁官とは、なぜそのような処分が妥当であるのか、ということや、公判になった場合に立証ができるのか、その証拠としてはどのようなものがあるか、ということについて問答を行います。

決裁官が、処分内容が妥当でないと判断したり、処分についての根拠が不十分であると判断したり、証拠が不十分であると判断したりした場合、決裁が通らず、もう一度検討するということになります。

ちょうど法務省のウェブサイトに、次席検事による決裁に関するページがありましたので、リンクを貼らせていただきます。

もちろん弁護修習でも、指導担当の弁護士と打合せをしたり、議論をしたりしますが、「決裁」という明確な形をもって、「OK」、「ダメ」という判断が下される点が、検察修習の特色でもあると思います。

当時の次席検事は、大声を出すとか、怒鳴るとか、そういうタイプの人では全く無かったのですが、「決裁」の際はかなり緊張しました。

数年前、某事件の関係で、テレビを通して、当時の次席のお顔を拝見し、決裁のときのことが懐かしく思い起こされました。

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