司法修習のお話~その7 番外編 民事事件と刑事事件の区別について

本当は静岡での民事裁判修習について書こうと思っていたのですが・・・

これまで、弁護士になるために必要な司法修習の中で、刑事裁判修習、弁護修習の思い出について紹介してきました。

今回は、3つ目の実務修習である民事裁判修習について書こうと思っていました。

しかし、ふと、本ブログをお読みいただいている方は、民事裁判、刑事裁判あるいは、民事事件、刑事事件という言葉をどのように受け取られているのだろうか、と考えてみました。

弁護士は、民事裁判、刑事裁判、民事事件、刑事事件という言葉を当たり前に使います。

しかし、民事裁判、刑事裁判、あるいは、民事事件、刑事事件という言葉は、本ブログをお読みいただいている方には、馴染みが薄い用語かもしれません。

私の妻(会社員)も、民事事件と刑事事件の区別は付いていないと思われます。

そこで、今回のブログでは、民事裁判修習の思い出をご紹介する前に、そもそも民事事件、刑事事件ってどう違うのでしょうか、というところをお話ししたいと思います。

民事事件って何ですか?

たとえば、個人や会社などが、別の個人や会社などに対して、お金を請求する場面をイメージしてみましょう。

お金の名目は、慰謝料、迷惑料、貸したお金、残業代などなど、何でも構いません。

もう少し具体的に申し上げれば、以下のような場面が想定できるでしょう。

  • 交通事故で生じた被害について加害者に賠償を求める
  • 配偶者の浮気相手(不貞相手)に慰謝料の支払いを求める
  • 貸したお金を友だちから返してもらう
  • 取引先に商品の売買代金の支払ってもらう
  • 残業代を会社に請求する

誰かが誰かにお金を請求する。

これは「民事」のお話です。

次に、個人や会社などが、別の個人や会社に対して、お金ではなく、物の引渡しを請求する場面をイメージしてみましょう。

引渡しを求める物は、インターネットで注文した商品かもしれません。

友人同士で貸し借りをしたマンガ本かもしれません。

時には、大家さんから賃借人に対して、大家さんが貸していたマンションの一室を明け渡せという請求がされることもあるでしょう。

少し観念的な「引渡し」になってしまいますが、不動産の名義を私によこせ、という場面もあるでしょう。

このように、個人間、会社間、あるいは、そのミックスで、物をくれるよう請求したり、されたりすること、これも「民事」のお話です。

「民事事件」とは、ものすごくざっくり言えば、誰かが誰かにお金や物を請求する、そういう事件のことです。

「家事事件」もざっくり言えば「民事事件」

家族間の問題はどうでしょうか。

家族間の問題にも様々なものがあります。

離婚、親権、養育費、相続(遺産分割)、遺言などなど。

これらの事件も、刑事か民事かという二択であれば、民事に含まれるでしょう(「刑事」、「民事」に加えて、「家事」という分野を想定すれば、それが最も適切だとは思いますが)。

刑事事件って何ですか?

これまで、こういったものが「民事事件」ですよ、というご紹介をしてきました。

それでは、「刑事事件」とは、どのようなものでしょうか。

刑事事件の特徴の一つ目は、その当事者が、「国」対「個人」であることです。

個人の代わりに、「国」対「会社」という場合もあります。

ここでいう「国」は、検察官であり、「個人」あるいは「会社」は被告人です。

刑事裁判の中では、①被告人とされた者が罪を犯したのかどうか、つまり有罪か無罪かということ、それから、②被告人が罪を犯したと認められる場合には、被告人にどのような刑罰を科するのが妥当であるのか、という点が審理されます。

刑事裁判にも、「被害者参加」という制度が存在しますが、刑事裁判では、基本的には、加害者が被害者に対してお金を支払うべきかどうか、支払うとしていくら支払うべきか、といったことは審理されません。

刑事裁判で審理されるのは、被告人とされた者が有罪か無罪か、有罪である場合には、どのような刑罰が適当であるかという点に限られています。

刑事事件と民事事件がクロスする場面

刑事事件と民事事件がクロスする場合もあります。

典型的な場面は、交通事故です。

交通事故を起こした者は、被告人として刑事裁判を受ける場合があります。

そして、当該交通事故について有罪判決を受ければ、刑事罰を科される可能性があります。

これは、「刑事事件」のお話です。

他方で、交通事故を起こした者は、被害者に生じた被害を弁償する責任を負っています。

被害者は、交通事故の加害者に対して、被害の賠償を求めることができます。

こちらは、「民事事件」のお話です。

一口に、交通事故といっても、「刑事事件」の場面と「民事事件」の場面の両面が存在します。

さらに、交通事故の刑事裁判の中でも、加害者が被害者に対して、被害を弁済した事実が取り上げられることがあります。

加害者が被害者に対して被害弁償を行ったという事実は、当該刑事裁判において、加害者に対して有利な事情として斟酌されるからです(いわゆる「情状酌量」です)。

しかし、加害者が判決のときまでに被害者に生じた被害を100パーセント弁償したからといって、加害者の刑が必ず軽くなったり、あるいは、大幅に軽くなったりするとは限りません。

なぜなら、刑事裁判の量刑は、被害がどの程度弁償されたかという事情のみで決められるものではないからです。

また、加害者が判決のときまでに被害者に生じた被害を全く弁償せず、たとえば、懲役3年という実刑判決(社会内で更正する機会を与えられず、刑務所に行くという内容の判決)を受けたとしても、そのことによって、加害者が被害者に対して、被害を弁償する義務を免れるということもありません。

加害者が有罪判決を受けた場合、加害者に対する刑罰がどのような内容であったとしても、加害者は被害者に対して交通事故により生じた損害を賠償する義務があります。

刑事事件と民事事件とは、別の問題だからです。

このように、民事事件と刑事事件とはクロスすることもあるのですが、それぞれ全く別の事件として扱われることが通常です。

交通事故の例で言えば、刑事事件において被告人の弁護をする弁護士と、民事事件(損害賠償請求事件)で加害者側の代理人になる弁護士が異なる、ということもそれほど珍しいことではないと思われます。

民事事件と刑事事件の区別、ざっくりですが、お分かりいただけましたでしょうか。。。

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