Archive for the ‘コラム 刑事事件・刑事裁判’ Category

弁護士ドラマでよく見る刑事事件~「保釈」について

2024-03-01

「保釈」とは

皆さん、こんにちは。弁護士の石川です。

当事務所の「推し」は、自己破産、交通事故、顧問業務(顧問弁護士)だと言いながら、刑事事件に関するブログを書き始めて、早や2か月、6回目となりました。

前回のブログでは、「勾留」という手続についてお話ししました。

逮捕後、10日間(場合によってプラス10日間)、警察署や拘置所で捕まったままとなり、公判請求された場合には、基本的には、裁判が終わるまで捕まったままとなる被告人勾留という手続が始まるということをご説明いたしました。

上記の「基本的には、」というのは、「保釈」されなければ、という意味で使っています。

今回は、この「保釈」という手続についてお話しましょう。

先ほどもお話ししたように、逮捕、(被疑者)勾留という流れから、公判請求されてしまうと、裁判が終わるまで、警察署や拘置所で捕まったままとなる状態が続きます。

しかし、「裁判が終わるまで」には、少なくとも1か月(肌感覚で言えば、むしろ通常2ヶ月弱)はかかります。

そのような場合に、裁判手続は続くものの、裁判所に一定額のお金を納めることによって、一時的に拘置所や警察署から出てくることを認めてもらう手続があります。

これが「保釈」です。

保釈保証金は戻ってきます

保釈を認めてもらうためには、裁判所に一定額のお金を納める必要があります。

裁判所に納める、このお金のことを「保釈保証金」といいます。

保釈保証金を用意することができない場合、そもそも保釈は不可能です。

他方で、保釈保証金は、被告人が、きちんと裁判所に出頭して、判決まで刑事裁判手続を受ければ、その判決が有罪でも無罪でも、執行猶予付きでも、実刑(刑務所行き)でも、保釈保証金は全額返還されます。

裁判をきちんと受けさえすれば、裁判所に納めた保釈保証金は戻ってくるのです。

つまり、保釈保証金というのは、刑事裁判手続が終了する前に被告人を一旦釈放するけれど、被告人に裁判にきちんと出てもらうための「担保」としてのお金なのです。

裁判所に納める保釈保証金はいくら必要?

それでは、裁判所には、いくらくらいの保釈保証金を納める必要があるのでしょうか。

こちらも、弁護士石川の感覚的な話で申し訳ないのですが、初めて公判請求された万引事案や、初めての覚せい剤の自己使用事案など、ほぼ確実に執行猶予が見込まれるような事案である場合、静岡地方裁判所(本庁)では、概ね150~180万円程度を納めることが多いと思います。

保釈保証金の最低ラインは、このあたりです。

私が弁護士になったばかりの14年前には、同じような事案でも、もう少し高かった記憶があるのですが(170~200万円程度)、不景気な時代が続いているせいか、保釈保証金の金額も下がったのでしょうか。

当該ケースにおいて保釈保証金がいくらになるのか、ということは、裁判官が事件毎に判断して決定します。

先ほどもお話したように、保釈保証金は、その人にきちんと刑事裁判を受けてもらうための担保の目的があります。

そのため、どの程度のお金が担保としてふさわしいのか、ということは、その人(被告人毎)、その事件毎に異なります。

一般的な傾向としては、実刑(刑務所行き)が見込まれるようなケースでは、そうでないケースと比べて、保釈保証金の金額は高くなると言われています(実刑判決をおそれて裁判から逃げてしまうおそれがあるため、という理屈です)。

ちなみに、2019年の年末、保釈中に国外へ逃亡したカルロスゴーン氏の保釈保証金は、合計15億円でした。

カルロスゴーン氏が国外逃亡したため、同氏が納めた15億円は全額没収となりました。

保釈保証金を貸してくれるところもあります

さて、このブログの最初の方で、保釈保証金が用意できなければ、そもそも保釈はできません、という話をしました。

保釈保証金があれば、いつでも誰でも保釈が認められるというものではありませんが、そもそもお金が用意できないと、保釈される見込みはありません。

保釈保証金は、先ほどもお話ししたように、最低でも150万円を超える金額が想定されます。

そのようなお金を用意すること自体が難しいという場合も多いと思われます。

そのような場合、保釈保証金専用のお金を貸してくれる機関に借入れをお願いするということも考えられます。

弁護士の思想信条的に、そういった機関からお金を借りることはしないという人もいますが、私の場合は、被告人やご家族が希望されるのであれば、そういった機関からお金を借りるということについて特に抵抗はありません。

しかし、いくつかの注意点があります。

近時は、そういったところからお金を借りる場合でも、保釈保証金の全額を貸してくれるということは無いようです。

想定される保釈保証金の1割から2割程度は、自分たちで用意する必要があります。

これも、私が弁護士になりたての頃と状況が変わったのではないかと思います(昔は全額貸してくれたこともありました)。

また、お金を借りる場合には一定の手数料を支払う必要があります。

150~180万円の保釈保証金という場合でも、先にお話した1割から2割の頭金と、手数料を合わせると、20~30万円程度の現金は必要となります。

このようなお金も用意することが難しいという場合には、残念ながら保釈は諦めなければなりません。

弁護士ドラマでよく見る刑事事件~「勾留」手続について

2024-02-20

「勾留」とは?

皆さん、こんにちは。弁護士の石川アトムです。

ここ最近は、刑事事件についてのブログを書いていますが、今回は「勾留」という手続に関するお話です。

何か罪を犯したのではないかと疑われている人が逮捕された場合、多くのケースでは、逮捕から72時間以内に、裁判官によって「勾留」という決定が下されます。

ここでいう「勾留」というのは、その人を10日間捕えたままの状態にします、という決定のことです。

このように、一旦逮捕されてしまうと、逮捕から最長72時間、勾留決定から(勾留決定の日を入れて)10日間、警察署や拘置所で捕まったままの状態になってしまうことが多くあります。

この「勾留」は、1回だけ延長することが可能です。

延長されると、さらに10日間捕まったままの状態になってしまう可能性があります。

被疑者勾留の最終日に決定される「処分」

さて、「勾留」の最終日(多くの場合は、勾留決定後10日目の日)、検察官は、その人(以下便宜上「Aさん」といいます)をどのような手続にかけるのかを決めます。

処分の内容は、以下の5つが考えられます。

1つ目は「不起訴(ふきそ)」です。

「起訴(きそ)」というのは、裁判にかけるという意味ですが、不起訴処分になった場合、文字通り裁判には掛けられません。

前科もつかず、不起訴処分になった日に釈放されます。

想定される5つの処分の中では、Aさんにとって最も軽い処分と言えます。

2つ目は「略式裁判(りゃくしき さいばん)」です。

「略式請求(りゃくしき せいきゅう)」と言うこともあります。

「略式裁判」というのは、ざっくり言うと、書類だけの裁判を行って罰金刑に処せられる処分を言います。

テレビのニュースで見るような、公開の法廷で、Aさんが出頭して、ということもありません。

罰金刑も有罪判決ですので前科がつきます。

しかし、略式裁判になった時点で、ひとまず釈放となります。

刑務所に入るということもありません。

3つ目は「公判請求(こうはん せいきゅう)」(正式裁判)です。

正式裁判というのは、法律用語ではなく、弁護士石川が勝手に使っている用語です。

「略式裁判」が書類だけの裁判であるのに対し、「正式裁判」は、テレビのニュースで見るような公開の法廷で、Aさんが出頭して行われる裁判のことです。

後にも述べますが、公判請求されると、「保釈」等の手続を取らない限り、留置場や拘置場から出てくることはできません。

裁判が終わるまで身柄が拘束された状態が続くということです。

4つ目は「処分保留」です。

処分保留というのは、文字通り、勾留の最終日には、上記の1~3のどの処分にするか決められなかったという場合です。

「処分保留」となった場合も釈放されます。

ただ、次に述べる「再逮捕」以外の「処分保留」は、最終的に「不起訴処分」となることが多いように思います。

検察庁では、勾留最終日の「処分」を決定するためには、何段階かの決裁を必要としています。

他方で、検察官は、法律上、勾留期間(10日間+追加の10日間)が満了するまでには、Aさんを起訴するか、釈放するかを決めなければなりません。

想像しますに、不起訴処分を予定しているが、決裁が間に合わなかったという場合に、「処分保留」が利用されているのではないでしょうか。

5つ目は「再逮捕」です。

たとえば、Aさんが、オレオレ詐欺の出し子(ATMなどでお金を出してくる役割の人)を複数件やっていたとします。

Aさんは、Bさんという被害者を騙したということで逮捕され、勾留されました。

Aさんは、容疑を否認していますが、警察や検察が捜査を進めていくうちに、Aさんは、Bさんからだけでなく、Cさん、Dさんからもお金を騙した取っていたということが明らかになりました。

Aさんは、勾留の最終日を迎え、Bさんに関する事件について「処分保留」として留置場から一歩出ました。

「証拠が不十分で起訴できなかったのだろうか。」

Aさんはそう思いました。

しかし、次の瞬間、警察官が「Cさんに対する詐欺容疑で逮捕する。」と言い、Aさんは、「再逮捕」されてしまいました。

実際の場面を見たことが無いので、どこまで本当か分かりませんが、再逮捕の場合、留置場から一歩出て、Aさんを形式的に釈放したうえで、その場で別の案件で逮捕するという話を聞いたことがあります。

再逮捕されてしまうと、72時間+10日間(+追加の10日間)が、また1から始まります。

言ってしまえば、「ふりだしに戻る」状態です。

ただし、別の案件があれば、必ず再逮捕されるかというと、そうでもないようです。

再逮捕するかしないのか、どのような振り分けがあるのか、もちろん証拠の有無も影響するのでしょうが、弁護士としては非常に気になるところです。

「公判請求」後の勾留

公判請求されてしまった場合、その人は、刑事裁判にかけられることになります。

これまで、勾留は、10日間(1回だけ10日間延長可能)捕まったままの状態にする決定だとお話ししてきました。

この場合の「勾留」は、被疑者段階での「勾留」手続です。

被疑者は、公判請求されると、「被告人」という呼び名に変わります。

そして、「(被疑者)勾留」も「(被告人)勾留」という手続に切り替わります。

「(被告人)勾留」では、「保釈」等の手続を取らない限り、基本的に、裁判が終わるまで捕まったままの状態が続きます。

静岡(本庁)では、公判請求されてから判決が出るまで、どれほどスムーズに手続が進んだとしても、1月以上はかかります。

そのため、公判請求されてしまうと、「保釈」等の手続を取らない限り、その時点からさらに1月以上、捕まったままの状態が続いてしまうことになります。

次回は、公判請求された場合に、判決が出る前に一時的に釈放してもらう、「保釈」という手続についてお話しします。

弁護士ドラマでよく見る刑事事件~当番弁護士制度

2024-02-09

当番弁護士制度とは

皆さん、こんにちは。弁護士の石川アトムです。

早いもので、2024年も1か月と10日が過ぎようとしています。

2024年の冒頭3回は、弁護士が扱う刑事事件、特に「被疑者国選」という制度にスポットを当ててお話をしました。

今回は、同じ刑事事件なのですが、「当番弁護士」という制度についてお話をしたいと思います。

「当番弁護士」というのは、逮捕されてしまったとき、誰でも無料で1回相談をすることができる弁護士あるいは、そのような制度のことを言います。

逮捕されたとき、「『当番弁護士』を呼んでください」と言えば、その人が留置されている警察署の留置場や、拘置所で弁護士と面会をすることができます。

「当番弁護士」は、「1回だけ相談をすることができる」という点がポイントです。

基本的に、「当番弁護士」で面会した弁護士は、その面会限りの弁護人であり、そのままずっとその事件を担当するわけではありません。

稀に、英語は話せるけれど日本語は話せないという外国人の方が逮捕され、面会に出向くことがあります。

私がそのような人から当番弁護士の要請を受けた場合、最初の自己紹介で、自分=「当番弁護士」のことを「one-time lawyer」だと説明します。

「当番弁護士」というより「一回だけ弁護士」と言った方が、制度の実質を表しているように思うのですが、日本語ではあまりかっこよくありませんね。

当番弁護士が活用される場面

犯罪の嫌疑を掛けられて逮捕された人は、多くの場合、逮捕→勾留(10日間捕まったままになるという決定)という流れを辿ります。

2つ前の記事でお話ししたように、国選弁護人を選任することができるのは、勾留された時点からです。

そのため、逮捕から勾留決定が出るまでの間、国選弁護人を付けることはできません。

逮捕から勾留の請求がされるまでには最長72時間ありますが、この間に当番弁護士が要請されるケースが多いと思います。

つまり、多くの人にとって、当番弁護士は、国選弁護人が選任されるまでの「つなぎ」の役割を果たすことになります。

他方で、私選の弁護士を選任したいけれど、知っている人がいないので、「当番弁護士」を呼んでみたという場合も無いわけではありません。

その場合には、当番弁護士は「つなぎ」ではなく、実際に事件を担当する第一歩として、その人と面会をすることになるでしょう。

当番弁護士として行う活動

当番弁護士の要請があった場合、弁護士は、その人が捕まっている警察署や拘置所に赴き、面会をします。

私の場合ですが、以前の記事でお話しした2つの質問をした後、今後の流れについて話をします。

①いつ勾留決定がされる見通しであるのか、②正式な裁判にかけられそうか、罰金または不起訴で釈放されそうか(いつ出られそうか)、③正式な裁判に掛けられた場合、判決が出されるのはいつころか、といったことについてお話をします。

勾留決定がされたら国選弁護人を付けることができること、自分はこの面会限りの弁護人であって、国選弁護人は自分とは違う弁護士が就くであろうことについても説明をします。

当番弁護士が呼ばれるタイミングによっては、当番弁護士で面会をした人の国選弁護人に選任されたり、特殊な事情があれば、弁護士の方から裁判所に対して、当番弁護士として面会した人の国選弁護人に選任してくれるよう要望を出したりすることもあります。

しかし、基本的には、当番弁護士として警察署等に出向く場合、1回だけ面会をして終了となることが多いと思います。

継続的に事件を担当するわけではないため、当番弁護士として行うことができることは、上記のような説明や警察や検察からの取調べに対応する場合のアドバイスに限られることが多いと思います。

国選弁護人が行うような「示談」交渉まで当番弁護士の立場として行うことは、まず無いでしょう。

家族や会社への連絡

私が、当番弁護士として面会に行った際、誰か連絡を取って欲しい人はいますか、ということをよく聞きます。

大抵の場合、本人は、心構えや事前の準備などなく突然逮捕されてしまうものですから、ご家族であったり、交際相手であったり、会社であったり、自分が今どこにいるのか伝えて欲しい、会いに来てもらいたい、会社に仕事に行けないと伝えて欲しいと希望される方が多いと思います。

ただし、勾留されずに(逮捕から72時間以内に)釈放される可能性があると思われる場合には、会社に連絡をするかどうかは本人とよく相談する必要があります。

会社に行けないということになると、当然、会社としては、どうしてだという話になります。

また、身寄りの無い方の場合には、弁護士が会社に連絡を入れざるを得ません。

弁護士から連絡が入れば、会社を休む理由を言わなくても、察しのいい人はその人が逮捕されたことに気が付いてしまうでしょう。

また、弁護士と名乗らず連絡をすると、後に、あの電話は何だったんだということになります。

逮捕されたことが新聞に載るかどうかはケースバイケースであり、新聞に載らないこともあります。

逮捕されたことが知られてしまうと、その人の評価、名誉に関わります。

そのため、勾留されずに(逮捕から72時間以内に)釈放される可能性があると思われる場合には、会社に連絡するのは、勾留された後、国選弁護人が付いてからという選択肢もあるのではないでしょうか、というお話を差し上げることもあります。

弁護士ドラマでよく見る刑事事件~被疑者国選2

2024-01-30

あくまで当事務所の「推し」は、自己破産、交通事故、顧問業務(顧問弁護士)なのですが

皆さん、こんにちは。弁護士の石川アトムです。

早いもので、2024年も、もう1月経ってしまいますね。

今回も前回の記事に引き続き、弁護士が取り扱う刑事事件についてお話をしたいと思います。

あくまで弁護士石川の「推し」は、自己破産事件、交通事故事件、顧問業務(顧問弁護士業務)なのですが、当法律事務所の新しい事務員さんに、弁護士の業務内容を理解してもらうという目的もあり、刑事事件について書いています(実際、昨日、事務員さんが当ブログを読んでいました!)。

今回は、「被疑者国選」を受任した弁護士の活動内容からお話ししたいと思います。

弁護人としての活動~被害者へのお詫び

弁護士が被疑者国選事件を受任すると、担当となる被疑者が勾留されている期間中、弁護人として活動をすることになります(「被疑者」に関するご説明は、こちらの記事をご覧ください)。

国選、私選に限らず言えることですが、弁護人が行う業務として、分かりやすいものとしては、被害者へのお詫びや被害弁償が挙げられます。

たとえば、Aさんが万引きをしてお店の商品を盗んでしまったという事件を担当するとします。

通常、弁護士は、警察や検察を通じて、お店の連絡先、担当者の名前を教えてもらいます。

そして、弁護士は、お店に電話を掛け、まず謝罪をし、その後、Aさんが盗んでしまったものの金額を弁償させていただきたい旨を伝えます。

ただし、Aさんやその親族、友人らが、弁償できるだけのお金を持っていない場合には、そもそも弁償のお話をすること自体ができません。

被害弁償の提案を受けたお店の対応は様々です。

多数の店舗を出店している大きなスーパーなどでは、会社の統一的な方針として、「万引きは絶対許さない。だから被害弁償には一切応じない。」ということがあります。

そうなると、弁護士としては、電話でお詫びをするだけで、被害店への対応は終了となってしまうことが多いでしょう。

他方で、被害弁償に応じていただけるお店もあります。

電話での謝罪の際に、被害弁償に応じていただけるということになれば、お店に伺う日時を調整します。

そして、弁護士が、Aさんや、その親族等の関係者から、Aさんが万引きした商品に相当するお金を預かり、あるいは、お金を用意してくれる親族等を伴って、被害店舗に赴きます。

そして、被害店舗で万引きに関して、改めてお詫びをするとともに、被害弁償をさせていただきます。

電話でのお詫びの際、電話口での被害者側の雰囲気によっては、被害弁償によりAさんを許していただけるかどうかの意向を確認します。

許していただけるということであれば、その内容を含んだ示談書を作成して、被害弁償の当日に持参します。

電話で示談の話をすることがはばかられるような雰囲気の場合、私の場合、まずは、被害弁償をさせていただきます。

そして、弁償金をお受け取りいただいた後、その場の雰囲気を見て、示談の話をすることがあります。

このような場合には、事前に、最終的に示談まではできないかもしれないけれど、示談の成立前に弁償金を支払うことについて、被疑者や関係者から承諾を得ておきます。

以上は、万引きに関するケースですが、事件によっては、交通事故の被害者のご自宅へお詫びに伺う、下着泥棒の被害者のご自宅にお詫びに伺う、ということもあり得ます。

このように、被害者がいる犯罪の場合、被害者へのお詫びと被害弁償は、弁護人として行う主な業務内容の一つです。

弁護人としての活動~取調べに対するアドバイス等

弁護人としての活動のうち、大きなものの一つが、警察署や拘置所で捕まっている人と面会をし、必要なアドバイスをするというものです。

私が弁護人として、警察署などで被疑者と最初に面会する際、誰に対しても、毎回必ず同じことを伺います。

1つ目は、捕まった理由とされている事実(その人がやったと疑いを掛けられている事実=「被疑事実」といいます)について、間違いないかどうか、ということです。

特に、被疑事実に誤りがあるという場合(いわゆる「否認事件」の場合)には、裁判において当該事実の存否を争うことが予想されます。

被疑者は、警察署や検察庁の取調べの中で、被疑者が供述した内容をまとめた書類(「供述調書」といいます)に署名押印することを求められます。

被疑者が供述調書に署名押印すると、裁判になったときにその内容をひっくり返すことは極めて困難です。

また、近時は、被疑者に対する取調べの内容が録音録画されていることもあります。

そのため、被疑者が、警察や検察に対して何を話すのか、何を話さないのか、ということは、後の裁判の場面で大きな意味を持ってきます。

被疑者から、被疑事実について、どこがどのように間違っているのかを確認し、間違っている部分について、警察や検察に話をするのかしないのかという方針を決め、必要なアドバイスをすることは弁護人の重要な職務の一つです。

事件によっては、弁護人となった後、定期的に警察署に赴き、被疑者と面会をして、捜査機関への対応について打合せをする必要があります。

弁護人としての活動~最終的な処分の見通し

私が、初回の面会で被疑者に尋ねる2つ目の内容は、これまで警察のお世話になったことがあるかどうかということです。

これまで警察のお世話になったことがあるかどうかによって、その事件が不起訴(前科が付かない処分)で終わるのか、罰金刑を前提とした書類だけの裁判(「略式裁判」「略式請求」といいます)で終わるのか、ニュースで見るような裁判所での正式裁判(「公判請求」ともいいます)まで行ってしまうのかが、ある程度予測できます。

特に、以前にも刑事裁判を受けたことがあり、前科がある人については、今回逮捕された事件についても厳しい処分が予想されます。

今後の刑事手続がどのようなスケジュールで進むのか、いつ警察署から出られそうなのか(あるいは、そのまま刑務所に入ることになりそうなのか)は、前科前歴の有無に大きく左右されます。

そのため私は、初回の面会で、必ず、「失礼な質問で申し訳ありませんが、これまで警察のお世話になったことはありますか。」と尋ねることにしています。

弁護士ドラマでよく見る刑事事件~被疑者国選1

2024-01-21

「容疑者」は法律用語ではありません

皆さん、こんにちは。弁護士の石川アトムです。

今回も前回の記事に引き続き、刑事事件について、弁護士ってこういう仕事をしているんだよ、という観点からお話をしたいと思います。

前回の記事では、主として、私選弁護人と国選弁護人についてお話をしました。

今回の記事では、国選弁護人に関連する「被疑者国選」という制度についてお話をします。

なお、今回の記事は、基本的に、弁護士石川が所属する静岡県弁護士会の静岡支部での取扱いを前提としたものです。

他支部、他県での取扱いは異なる場合がありますので、ご了承ください。

さて、「被疑者」国選という制度を紹介する前に、まず、「被疑者」とは何かということについてお話します。

「被疑者」というのは、警察や検察から、何か犯罪行為を行ったのではないかということで、捜査の対象となっている人のことを言います。

ただし、捜査の対象となっている人が刑事裁判にかけられると、その人は「被告人」と呼ばれることになります。

警察や検察で捜査の対象となっていて、刑事裁判になる前の人が「被疑者」、刑事裁判に掛けられた人が「被告人」ということです。

テレビのニュースなどでは、よく「容疑者」という言葉が使われますが、「容疑者」は、いわゆる法律用語ではありません。

私が聞いたところによると、マスコミが、「被疑者」と「被害者」の音が似ていて混同しやすいため、「容疑者」と「被害者」という呼び方をするようになったとかならなかったとか・・・。

被疑者国選って何ですか

警察や検察で捜査の対象となっていて、刑事裁判になっていない人のことを「被疑者」と呼びます。

そうしますと、「被疑者国選」というのは、警察や検察から捜査の対象とされている人に付く、国が選んだ弁護人ということになりそうです。

しかし、捜査の対象となっている人に「被疑者国選」が選ばれるためには、もう少し別の要件も必要です。

その要件の一つが、裁判所によって「勾留」の裁判を受けていることです。

「勾留」というのは、警察署の留置場や拘置所に捕まえたままにしておく、という裁判所の決定のことです。

裁判に掛けられる前の「勾留」、つまり、被疑者段階での「勾留」の期間は、最長10日間(1回に限り10日間の延長あり)です。

たとえば、Aさんが、万引きをして逮捕されたとします。

検察官は、Aさんについて、逮捕のときから最長でも72時間以内に「勾留」の請求をするかどうかを決めなければいけません。

「勾留」の請求が裁判所によって認められると、「勾留」の決定があった日を含め、最長10日間

(1回に限り10日間の延長あり)捕まったままの状態になります。

国選弁護人を選任することができるのは、この「勾留」が認められた時点からです。

逆に言うと、私選弁護人を選任しない限り、「勾留」決定がされる前には、弁護人は付かないということです。

被疑者国選が選ばれるまでの流れ

本項目については、弁護士石川が実際の業務内容を見たわけではないため、石川の想像が入るところで、ここに書かれている内容が全て正しいかどうかは保証できません。

先ほどお話したように、検察官が「勾留」の請求を行い、裁判所が「勾留」の決定を出すと(裁判所が「勾留」の決定を出さないこともあり、その場合、被疑者はその時点で釈放されます)、「勾留」されてしまった「被疑者」は、その他の一定の要件をクリアしたうえで、国選弁護人(被疑者国選)を付けることができます。

国選弁護人の希望があると、おそらく裁判所から法テラスという機関に、被疑者の氏名、生年月日、行ったと疑われている犯罪の内容等とともに、国選弁護人の選任を希望しているという連絡が行きます。

そのような連絡を受けた法テラスは、その日に、国選弁護事件を担当することが予定されている弁護士に連絡を取り、その弁護士が国選弁護事件を受けられるかどうかの確認をします。

「国選弁護事件を担当することが予定されている弁護士」が誰なのかということについて、静岡県弁護士会の静岡支部では、1日ごとに予め担当者が定められています。

1月21日はX弁護士、1月22日はY弁護士、1月23日はZ弁護士といった具合です。

私の記憶が正しければ、少なくとも静岡支部では、法テラスから連絡を受けた弁護士は、当該被疑者との利益相反などがない限り、基本的に、被疑者国選を受けられるかという打診を受けた事件については受任しなければいけないというルールになっていたはずです。

国選弁護事件の場合、被疑者側に弁護人を選ぶ権利がないことは、前回の記事で申し上げましたが、事件を受ける弁護士の側でも、基本的に拒否権は無かったはずです。

事件の配点を受ける弁護士の側でも(少なくとも静岡では)、性犯罪の事件はやりたくないから受けないとか、遠い警察署は大変だから受けないとか、そういったことは許されなかったはずです。

弁護士ドラマでよく見る刑事事件~弁護士が実際に行う仕事の中身

2024-01-10

刑事事件は意外と少ない

新年明けましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、早速ですが、今回から数回にわたり、刑事弁護、刑事裁判についてお話ししたいと思います。

弁護士を主人公としたテレビドラマは枚挙に暇がありませんが、その多くは、刑事事件を題材としたものです。

私の中での弁護士を主人公としたテレビドラマのイメージは、

弁護士が事件現場にたびたび訪れ、自力で目撃者を探し出し、最後には真犯人が暴かれる

みたいな感じですが、現実に刑事弁護をやっている弁護士からすると、あり得ないストーリーです。

そもそも当事務所での刑事事件の取扱いは非常に少ないです。

全案件数に占める割合は、平均で言えば5%を切ると思います。

静岡でも、刑事弁護が得意という看板を出している法律事務所、弁護士もいらっしゃいますが、極めて少数派だと思います。

なお、当事務所の「売り」は、自己破産、交通事故、顧問弁護士(顧問業務)であり、刑事事件ではありません。

それでは、なぜこれからのブログで、刑事事件について書くのかと言いますと、当事務所に新しく入所された2名の事務員さんへの説明を兼ねているからです。

2名の事務員さんは、ともに法律事務所での職務経験がありません。

そこで、ブログで弁護士の仕事の内容を書いておくから読んでおいてね、ということにしました。

そのため、普段はそれほど取扱いのない、けれども、何となく弁護士のイメージとして馴染みやすい刑事事件について、これから何回かのブログで書いていくことにしたのです。

国選弁護人と私選弁護人

まずは、この2つのワードの意味からご説明いたしましょう。

2つのワードの違いは、一目瞭然、「国」と「私」です。

国で選んで付けた弁護士が国選弁護人、自分で弁護士を選んで付けた場合が私選弁護人というわけです。

私選弁護人の場合、どの弁護士を選ぶかは自由ですが、その弁護士との契約にしたがって、弁護士費用を支払う必要があります。

国選弁護人の場合、弁護士を選ぶことはできません。

静岡(静岡支部)において、どの弁護士が国選弁護人として付くのかということについては、予め定められた名簿の順番に従って、機械的に割り振られていきます。

1月1日はX弁護士、1月2日はY弁護士、1月3日はZ弁護士といった具合です。

国選弁護人が付いた事件で弁護士費用を支払う必要があるかどうかはケースバイケースです。

テレビドラマで見るような、公開の法廷で裁判を受けるケースでは、懲役○○年などという判決と同時に、国選弁護人の費用をその人に負担させるかどうかが裁判官によって決められます。

通常は、その人の財産や収入の状態を見て、国選弁護人の費用を負担させるかどうかが決められます。

国選弁護人と私選弁護人の違い

特に、これまで刑事事件に縁が無かった人が逮捕された場合などに気にすることが多いと思うのですが、国選弁護人と私選弁護人で、できる内容や権限に違いはあるのでしょうか。

結論から言えば、ありません。

刑事事件、刑事裁判に関して、私選弁護人でなければ行うことができない手続というものはありません。

それでは、国選弁護人と私選弁護人が同じ権限を持っているとして、やってくれる内容に違いはあるのでしょうか。

結論としては、基本的には無い、と思います。

「基本的には」というと歯切れが悪いのですが、まず、全般的な話、包括的な話として、私選だからしっかりやるとか、国選だからいい加減にやってもいいと思っているとか、そのような弁護士は、少なくとも国選登録をしている静岡(静岡支部)の弁護士にはいないと思います。

国選弁護人は「保釈」(また別の記事でご説明します)の手続をしてくれないから、私選弁護人を付けた方がいいとか、そういったことはありません。都市伝説です。

逮捕されてしまった人、裁判に掛けられた人の弁護や、留置場、拘置所から出るために必要と考えられる手続については、国選であっても、私選であっても、弁護人がやる内容に変わりは無いと思います。

ただし、先ほども申し上げたとおり、国選でも、私選でも、「基本的には」同じようにやるのだと思いますが、「弁護に必要な事項」や「留置場、拘置所から出るために必要と考えられる手続」以外の事項については、国選と私選で違いが出ることはあるのだろうと思います。

たとえば、これまで全く警察のお世話になったことがなかった人が、覚せい剤を使ってしまい、逮捕されてしまったという事件を想定します。

本人が覚せい剤を自発的に使ったことを認めていて、尿検査で覚せい剤が検出されているような場合、このような事件では、誰が弁護をしても、執行猶予の判決(今回のことで直ちに刑務所に行く必要はないが、判決で決められた期間の中で、新たに別の事件を起こした場合には、新しい件と今回の件(覚せい剤)の両方について刑務所に行く可能性があるという判決)が出ることがほぼ確実に予測されます。

たとえば、このような事件で、捕まっている人から、寂しいから毎日会いに来てもらいたいとか、毎日新しいマンガを差し入れしに来てもらいたい、という要望が出たとします。

国選弁護人であれば、そのような要望に100%応えることはできないと思います。

他方で、私選弁護人であれば、そのような要望にも全て応じてくれるかもしれません。

これは、刑事裁判における弁護の内容や本人の防御権とは、基本的に関係が無い事項であるからです。

私個人の感覚ですが、国選と私選の違いは、弁護の内容や本人の防御権と関係のないところで、出ることが多いのではないかと思います。

また、国選と私選で違いが大きく出るとすれば、弁護士のやる気ではなく、弁護士の力量でしょう。

逮捕された理由となる事実を否認しているような事件では、裁判で、当該犯罪行為があったかどうかが激しく争われます。

そのような場合には、刑事弁護に精通した私選弁護人を選任することが、本人の防御に大変資することになると思われます。

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