Archive for the ‘コラム 司法修習’ Category

司法修習のお話~その17 恐怖の二回試験2

2024-09-30

弁護士になるための最終関門「二回試験」~大失敗した検察科目

皆さん、こんにちは。弁護士の石川です。

前回のブログから、弁護士になるために、最後に合格しなければならない通称「二回試験」(にかいしけん)についてお話をしています。

前回お話ししたとおり、私の場合、検察→刑事裁判→・・・・という順番で二回試験を受けたのですが、初っ端の検察で大失敗しました。

詳しい内容は守秘義務に触れる可能性があるので言及できませんが、この年、修習生が起案した回答は、基本的には3つの罪名に分かれており、それぞれ3分の1ずつくらいの割合だったと聞いたことがあります。

罪名Aが正解で、B、Cの順番に評価が良いのですが、私が書いたのはCでした。

よもや検察起案でAが正解なわけがないという勝手な思い込みと、これ書いとけば落ちないだろ、という打算的な考えで、罪名Cを書きました。

しかし、完全にやっちまいましたね。

同じ静岡修習の検察官志望の修習生も、やっちまったようで、かなりしんどそうな顔をしていました。

試験終了の日に、何故かその修習生と飲みに行くことになり、お互いに、検察で何を書いたのか、という話をしたのですが、その修習生が書いた起案はBだったと記憶しています。

お互いにきっと大丈夫だよ!という根拠のない励まし合いをした飲み会でした。

弁護士の場合、二回試験は受かりさえすれば良いのです。

しかし、検察官志望者や裁判官志望者は、「一定の優秀な成績」で合格しなければいけないそうで、弁護士志望以上に、プレッシャーがかかっていたのでしょう。

ただ、その修習生も、めでたく二回試験に合格し、検察官になりました。

検察科目に続く刑事裁判科目でも大失敗

初日の検察で大失敗し、次の科目は刑事裁判でした。

私は、刑事裁判の起案をものすごく得意としており、所要時間の半分にも満たない時間で模範答案となったこともありました。

そのため、刑事裁判科目には自信がありました。

ところが、私が得意としていたのは、起案の本体の方で、小問に関する勉強はほとんどしていなかったのです。

当時、小問で最低ラインに達しないとそれだけで不合格というような話を聞いていたのですが、検察に続いて、刑事裁判科目の小問でも大失敗しました。

しかも、大問の方も、人生で初めて刑事裁判科目で○○を書こうかと迷った問題でした。

自分自身に、○○を書いたら絶対ダメ!と言い続け、●●前提の起案を作成しました。

9割5分以上が合格する二回試験の刑事裁判で、受験生に○○起案を求めることはあり得ないという打算的思考がまたもや働いたのですが、おそらくこれは正しかったでしょう。

このようなわけで、検察、刑事裁判と2科目連続で大失敗。

もうダメなんじゃないかと思いましたが、「あきらめたら そこで試合終了ですよ」の精神で、何とかその後の試験も完走しました。

でも、残りの3科目のことは、全然覚えていません。

検察と刑事裁判の内容が本当にショックだったのでしょう。

そして、検察と刑事裁判のトラウマは、その後も長く尾を引くことになります(詳しくは次回のブログで!)。

本当にあった恐い話~解答用紙を綴れず不合格

「綴れず不合格」と聞いても、二回試験に縁が無い人にとっては、全くちんぷんかんぷんでしょう。

そもそも「二回試験」というのは、厚さ1センチくらいの問題文(もはや薄い本です)を渡されて、朝9時ころから夕方4時ころまで、それに対する解答をひたすら作成するという試験です。

そして、「綴れず」というのは、解答を記載する用紙に関するお話です。

解答用紙は、横罫線付きのA4用紙で(確かA3・1枚にA4・2ページが印刷されていたと思うのですが)、用紙の左端に、ファイルに綴じるような2つの穴が空いています。

これが1人あたり何十枚も配布されます。

「何十枚」というのは、1枚1枚×何十枚という意味です。

解答用紙は、1枚1枚バラバラの状態で渡されるのです。

受験生は、この解答用紙に解答を書いていくのですが、最後に、自分が書いた解答用紙の束をそろえて、用紙に空いた2つの穴に黒いひもを通して束ねて綴るのです。

そして、制限時間内に解答用紙の束を適切な方法で綴れないと、それだけで不合格になります。

「綴れなかったら、そこで試合終了ですよ」状態になります。

えっ!?って思いません?

一生懸命頑張って司法試験に合格して、その後も1年間の研修を受けて、やっと弁護士なれると思ったら、紙をひもで綴れなかっただけで不合格!?

何言ってんの?って感じだと思うのですが、本当にそれだけで不合格になるのです。

毎年ごくわずかながら解答用紙を綴れなかったがために不合格になってしまった人が実際にいたようなのです。

そのため、私たち、当時の受験生は、とにかく綴る、ということを意識していました。

綴れずに不合格になってしまうなど、悔やんでも悔やみ切れません・・・。

「本当にあった恐い話」とはこういう話を言うのだと思います。

しかし、綴れないから不合格というのは、あまりに不合理であると最高裁判所も思ったのではないでしょうか。

近年では、答案を作成する時間が終了した後に、解答用紙をひもで綴る時間が設けられたようです。

2026年から司法試験でもパソコンによる答案作成が一般的に可能となるようで、近い将来、こんな話も過去の遺物になることでしょう。

司法修習のお話~その16 恐怖の二回試験1

2024-09-21

弁護士になるために合格しなければならない「二回試験」

皆さん、こんにちは。弁護士の石川です。

司法修習シリーズのブログもいよいよ最終章です。

弁護士になるために合格しなければならない試験は何でしょう、という質問に対しては、おそらく多くの方が「司法試験!!」とお答えになるでしょう。

しかし、弁護士になるために合格しなければならない試験は、実はもう一つあります。

正式名称では「考試」(こうし)、通称「二回試験」(にかいしけん)と呼ばれる試験です。

これまで、司法修習について色々とお話をしてきました。

私の時代は、最初に、地域毎に、裁判所、検察庁、弁護士の仕事を実際の場で勉強する分野別修習があり、その後、選択修習を経て、和光での集合修習という流れでした。

そして、最後に、司法修習のラスボスとして二回試験があります。

二回試験に落ちると、弁護士になれません。

翌年にもう一度司法修習を受けられるのかというと、そうではありません。

司法修習生という身分も、二回試験の終了とともに無くなります。

つまり、二回試験に落ちてしまうと、「司法修習生」という身分を失って、翌年の同時期に行われる二回試験の合格のみを目指して、ただひたすら1年間勉強し続けるという状態に置かれます(仕事をしていなければ「無職」ということになってしまいます)。

また、不合格になった場合、内定を得ていた法律事務所から、内定取消を受けるということも考えられます。

二回試験の合格率は95%を超えます。

ほとんどの修習生が合格する試験です。

それだけに、二回試験のプレッシャーは凄まじいものがあります。

集合修習の特に後半は、全修習生(おそらく)が二回試験を目指して、必死で勉強をします。

「二回試験」の受験科目と日程

司法試験では、憲法、民法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法、行政法という6つの基本科目に加え、選択科目の合計7科目の試験に合格しなければなりません。

「二回試験」では、民事裁判、刑事裁判、検察、民事弁護、刑事弁護の5科目の試験にすべて合格しなければなりません。

私の場合は、検察→刑事裁判・・・という順番でした。

なぜ最初の2つの順番を覚えているのかというと、最初の2つが壊滅的であった(と私が感じた)からです。

二回試験は、集合修習と同様に、和光の司法研修所で行われます。

いずみ寮に入っている修習生は、寮で朝食を済ませ、そのまま徒歩で廊下を渡って研修所に入り、試験を受けるということになります。

ハッキリした開始時刻は覚えていないのですが、おそらく午前9時かそこらだったと思います。

終了時刻もハッキリした時間は覚えていないのですが、午後4時とか、それくらいだったと思います。

集合修習に入ると、二回試験に向けて即日起案(答案練習)を何度も行いましたが、二回試験の試験時間も、基本的には即日起案と同様だったように思います。

先ほども申し上げましたように、試験科目は5つあります。

各科目を1日ごとに行います。

途中で、土日や、中日的なものがありました。

私の場合、金曜日に検察、土日を挟んで、月曜日に刑事裁判、火曜日に何かの科目、水曜日が休みで、木金と残り2科目だったのではないかと記憶しています。

恐ろしく厳格な二回試験~携帯電話は必ず預けましょう

私のこれまでの39年間の人生の中で、二回試験以上に厳しい試験はありませんでした。

司法試験ももちろん受験していますし、ロースクールに入るための入試や、大学入試、センター試験(当時)も経験しましたが、それらの試験の規律の厳格さは、二回試験の足下にも及びません。

私が司法試験を受けたのは、大阪のとある会場でした。

ある科目の終了後、私の席の斜め左方向の列の一番前に座っていた方は、係員が答案を回収中であり、自身の答案が回収されていない状態であるにもかかわらず、袋を破いて、昼食のパンを食べ始めていました。

何てゆるい試験なんだろうと思いました。

それに比べて、二回試験の厳格さたるや!

ガラケーの時代でさえ非常に厳格だったので、今はもっと厳しいと思いますが、少なくとも私の時代の二回試験では、試験会場に携帯電話を持ち込む場合、試験開始前に、携帯電話を所定の箱の中に入れて、試験監督に預けるという決まりになっていました。

しかし、いるんですよね、預けない人が。

で、鳴るんですよ、そういう人の携帯が。

おいっ!って思いましたよ。

こういうことが起きますと、試験終了後に、誰の携帯電話が鳴ったのかと、試験監督らによって「犯人」捜しが始まります。

鳴った携帯の主が特定されますと、おそらくその人は失格になります。

ですから、「やべぇ、、、オレの携帯鳴っちゃったよ。」と自分で分かっていても、「犯人」は絶対に名乗り出ません。

名乗り出たら、そこで試合終了ですよ、状態なのです。

そうすると、その部屋の受験者は、試験終了後、全員着座で待たされることになります。

私の部屋では、確か2回、つまり2日、そういった場面があったように記憶しています。

どちらか一方は、試験終了後も1時間半ほど待たされました。

5科目を同じ部屋で受けるので、2回目に携帯が鳴った人は、1回目に誰かの携帯が鳴ったとき散々待たされた経験をしていたはずなのに、どうして携帯を預けなかったのか・・・。

二回試験は本当に厳しいのです。

答案の回収が終わってないのに、パンを食べ始めちゃうとか、あり得ないんです。

二回試験中、携帯電話は絶対に預けましょう。

他の受験生に大変な迷惑がかかります。

司法修習のお話~その15 集合修習3

2024-09-12

いずみ寮での食生活

皆さん、こんにちは。弁護士の石川です。

最近あまりに忙しく、ブログの更新が後回しになってしまいました。

今回もこれまでに引き続き、集合修習のお話です。

集合修習中、多くの修習生は、いずみ寮という司法研修所の中にある寮で寝泊まりし、集合修習を受けることになります。

集合修習中の食生活について、先輩や、先行して集合修習を受けていた大規模庁所属の修習生から、ある噂を漏れ伝え聞いていました。

どうも寮内にある食堂がイマイチらしい、近所で食べられるところは高すぎる、という噂です。

もともと私は外食をするタイプではなく、お昼はレーズンパンでいい人だったので、いずみ寮に入った後も、食堂や外食を利用することは考えていませんでした。

いずみ寮に入った後も、たびたびレーズンパンを買いに、和光市駅近くのイトーヨーカドーに行っていました。

いずみ寮でのカップ麺生活

いずみ寮に入寮して2、3日したころだったと思いますが、同じロースクール出身の友だちと話す機会があり、食事の話になりました。

その友だちは、カップ麺をケース買いしていずみ寮に持ち込んできたということでした。

どういう話の流れでそうなったのかはよく覚えていませんが、私はその友だちから、彼が持ち込んだカップ麺のうち5~6個を購入することになり、私もカップ麺生活に突入しました。

私はレーズンパンだけでなく、カップ麺も好きなのですが、いずみ寮で、1日1、2個のカップ麺と近所のコンビニで買ったおにぎりを摂取する生活を始めて3日目に、おそろしく体調が悪くなりました。

カップ麺に頼る生活は危険だと思い、その後は、外食をするようになりました。

司法研修所の比較的近くに親戚の家があり、入寮していない静岡修習の仲の良い友だちがいました。

その友だちは、自動車の運転ができまして、カップ麺を食べ続けて気持ちが悪くなったという話をしたところ、その友だちが「君に足りないものを補いに行くから!!」と言って、自動車を運転して私を外食に連れて行ってくれたこともありました。

本当にありがとう!

時折外食をすることを決めた後、私が集合修習中によく行っていたお店は、和光市駅前の松屋さんでした。

牛丼並盛りの豚汁サラダセットで、野菜不足をカバーしていました。

今でも、松屋さんで食事をすると、集合修習のことを思い出します。

いずみ寮では、一度だけ食堂を利用したことがありました。

私はカレーを食べたのですが、全く普通でした。

カップ麺を食べ続けるくらいなら、もう少し食堂を利用しても良かったかもしれません。

涼宮ハルヒの憂鬱と競馬中継

私が集合修習を受けていた時代は、今のように、NetflixやらAmazonプライムやらが発達していた時代ではなく、そもそも当時私が持っていた携帯もいわゆるガラケーでした。

集合修習で生活が始まった当初、私が持ち込んでいた娯楽と言えば、「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズの小説くらいでした。

集合修習前に、先輩だったか、同期のいわゆるA班の友だちだったか、どちらか忘れてしまいましたが、和光の寮は、まるで病院のように殺風景だと聞かされていました。

確かに、ベッドと、壁に作り付けの机とホテルにあるような小さな冷蔵庫とユニットバスがあり、壁は一面真っ白(窓はあります)。

私の記憶では、当時、寮の部屋には涼宮ハルヒの特典ポスターを貼っていたように記憶していたのですが、どうやら「東のエデン」のポスターを貼っていたようでした。

自分自身の傾向として、授業の時間以外の時間も、何日も部屋に閉じこもっているというのは、精神衛生上良くないだろうと思い、集合修習のときには、頻繁に外出をするようにしていました。

和光市駅までは、研修所の近くからバスが出ており、和光市駅から東武東上線に乗って池袋に出掛けたこともありました。

池袋の街中で、同じロースクールの修習生とすれ違ったときは、お互いとても驚きました。

また、同じく研修所の近くから、成増へ向かうバスも出ており、成増の方が和光市駅前より賑わっている感じがして、そちらに遊びに行くことも多かったです。

成増駅の近くには、TSUTAYAがありまして、時々「涼宮ハルヒの憂鬱」のDVDを借りて見るのが集合修習中のストレス解消方法でした(↓こちらのコップはSOS団のものですね笑)。

また、私は、毎週日曜日の午後3時から1階のテレビで競馬中継を見ており、これも密かなストレス解消法でした。

知らない同期には、あいつ何なんだ、と思われていたかもしれません。

ちなみに、二回試験が終わった後の最初の日曜日、私は東京競馬場でジャパンカップを見に行きました。

この後の回に、二回試験の話を書きますが、二回試験は、二度と受けたくない試験です。

当時の集合修習は2か月弱あり、最初の1月はかなり順調だったのですが、2週目の起案の民事弁護で、あまり良くない成績が付いてしまい、そこから二回試験を終えるまではかなり精神的に大変でした。

これから二回試験を受けられる皆様は、心身の調子を整えて、心身ともに健康な状態で二回試験に臨んでいただきたいと思います。

司法修習のお話~その14 集合修習2

2024-08-30

「即日起案」って何ですか。

皆さん、こんにちは。弁護士の石川です。

前回の記事から、司法修習のラストダンジョン、集合修習についての思い出をお話ししています。

私が修習生であったとき、集合修習は2か月弱ありました。

その間に、即日起案が5科目×2回ありました。

2か月の集合修習のうち、前半で5科目×1回、後半の割と最初の方でもう1回実施されたという記憶です。

「即日起案」というのは、弁護士などの法曹関係者、あるいは、司法修習生以外の方には、耳慣れない、というか、全く聞いたことがない言葉だと思います。

「即日起案」というのは、「二回試験」の予行演習のようなものです(「二回試験」については、こちらの記事をご覧ください)。

「即日起案」の当日、修習生には、1人1人、厚さ1センチくらいの冊子が与えられます。

その冊子には、ある刑事事件や民事事件について、事実関係や証拠が記載されています。

修習生は、その冊子の内容を検討し、各科目において提示されている問題に対する回答を作成します。

民事裁判や刑事裁判の即日起案であれば、どのような判決を下すべきか、といった問題であったり、検察の即日起案であれば、どのような罪状で当該被疑者を刑事裁判にかけるべきかという問題であったりします。

この「即日起案」の最大の特徴は、とにかく試験時間が長いことです。

午前9時にスタートし、終了時刻は夕方4時ころだったと思います。

7時間かけて1科目に臨むのです。

「お昼休憩」という定まったものもありません。

即日起案の日は、修習生は、コンビニのパンなど予め昼食を用意しておき、記録を読んだり、答案を作成したりしながら、お昼を食べます。

1科目の答案を書くのにそんなに時間が要るのか!?と思われるかもしれないのですが、実際、それくらいの時間がかかることがほとんどでした。

答案用紙も、A4で30行くらいあるものを15枚、20枚書いていたと思います。

昼過ぎに終わってしまった刑事裁判の起案

これまでお話ししたように、「即日起案」というのは、ものすごく時間がかかり、大部なものになることが通常でした。

しかし、私が集合修習で受けた2回目の刑事裁判の即日起案は例外でした。

昼の1時か2時には答案ができあがってしまい、しかも、答案の枚数も確か7、8枚だったように記憶しています。

こんなに早く、しかも、こんなに分量も少なく終わってしまい、はて、私はこの問題にちゃんと答えられているのだろうか、何か重大な問題や要素を見落としているのではないか、と非常に心配になりました。

周りの修習生を見ても、夕方まで普通に起案に取り組んでいるようでした。

しかし、どんなに考えても、大して付け加えられる内容はなく、仕方なく私は、答案の「清書」をすることにしました。

ホントにヒマだったのです。

「清書」をするしか、やることが無かったのです。

ところが、何ということか、そのときの私の答案は、優秀答案になりました。

「清書」しておいて良かったです(笑)

集合修習の雰囲気~前半は飲み会が多かった

集合修習=最後のダンジョンであり、二回試験というラスボスを突破することが修習生全員の共通した目標です(必要とされる「突破の仕方」に個人差はあったようですが)。

受験というと、ピリピリしたような雰囲気を想像されるかと思います。

二回試験そのものは、いずれお話しするように、ものすごく厳格に行われるのですが、集合修習自体は、それほどピリピリしたものではありませんでした。

特に、集合修習の前半は、飲み会が多かった記憶があります。

即日起案が終わって、クラスでその打ち上げ的な飲み会をして、二次会でカラオケに行ったりしていました。

飲みながら、「○○さん、このままじゃ二回試験やばいんじゃないの~。」などと冗談半分に二回試験の話が出ることもありました。

また、外での飲み会に限らず、いずみ寮の中でも、「談話室」という名称だったか、その部屋だけは飲み会OKという大きめの部屋があり、そこでよく酒盛りが行われていたようです。

ただ、二回試験が1週間後、2週間後に迫ってくると、修習生全体に緊張感が漂ってきて、さすがに、その時点で、「飲み行こうぜ☆」と言ってくる猛者はいませんでした。

私は、集合修習に入るまで、共同生活というものがあまり好きなタイプではないと、自分で思っていました。

しかし、いずみ寮は、全室個室で、そのうえ、たくさんの友だちが近くにいた、という環境であったため、比較的楽しく過ごせたという記憶です(二回試験の期間以外は!)。

テレビが持ち込み不可であったことは、前回のブログでお話ししましたが、いずみ寮の1階には大きめのテレビが置いてありました。

あまり見る人がいなかったようですが、私はそのテレビで毎週日曜日の夕方、競馬中継を見ていました。

外から寮に戻ってきた修習生には、「あいつ、また競馬見てるよ・・・」と思われていたかもしれません。

司法修習のお話~その13 集合修習1

2024-08-19

弁護士になるための最終試験~通称「二回試験」

皆さん、こんにちは。弁護士の石川です。

さて、「弁護士になるために合格する必要がある試験は何でしょう。」という質問に対しては、多くの方が「司法試験」とお答えになるでしょう。

実は、あまり知られていないかもしれませんが、弁護士になるためには、あるいは、裁判官、検察官になるためには、「司法試験」に合格した後、さらにもう一つ、「二回試験」という試験に合格しなければなりません。

「二回試験」は、文字どおり「にかいしけん」と読みます。

正式名称は、「司法修習生考試」(しほうしゅうしゅうせい こうし)というようです。

この「二回試験」は、司法修習の卒業試験とも言える試験で、司法修習の最後に行われます。

いわば、ラスボスです。

私自身のラスボスとの闘い(苦闘…)は、また別の機会にお話しするとして、今回は、ラスボス前の最後のダンジョンとも言うべき「集合修習」についてお話しします。

「集合修習」とは

集合修習とは、埼玉県和光市にある司法研修所に全国から司法修習生が集まり、講義形式の修習を受けたり、模擬裁判をやったり、二回試験の予行演習的な「即日起案」を行ったりする修習のことです。

司法修習に関する前回のブログでは、選択修習についてお話をしました。

司法修習生の中でも、選択修習をしてから集合修習を受けるというパターンの修習生と、集合修習を受けた後、選択修習を受けるというパターンの修習生がいましたが、静岡修習は前者でした。

また、現在の司法修習は、全国各地での実務修習に先だって、まず司法研修所での導入修習を経て、その後実務修習を行い、最後に再び司法研修所に戻って集合修習を受けるというスタイルです。

しかし、私が司法修習生だったときには、いきなり実務修習から始まり、その後二回試験までの間だけ司法研修所において集合修習を受けるという形式でした。

集合修習中は、70人程度の修習生が1つのクラスに属して、講義を受けたり、模擬裁判を行ったりします。

静岡修習は全体で25人程度でしたので、甲府修習、那覇修習とともに、1つのクラスを形成していました。

「集合修習」での目標は、多くの人にとっては、ただ一つで、「とにかく二回試験に落ちないこと」です。

集合修習中に行われた二回試験の予行演習たる「即日起案」は、実務修習中に行われていた形式のものとさほど変わりが無かったように記憶しています。

即日起案は、民事裁判、刑事裁判、民事弁護、刑事弁護、検察を2回ずつ行いました。

起案に対しては、毎回アルファベットでの評価が付されました。

教官において、特に優秀な起案だと評価した起案については、氏名を隠したうえで、コピーが用意されます。

「とにかく二回試験に落ちないこと」が、多くの人にとって、唯一にして絶対の目標であり、もっと勉強しないと、二回試験がまずいぞ、という起案を書いた修習生は、優秀答案をコピーして勉強します。

なお、「多くの人にとって」「とにかく二回試験に落ちないこと」が目標だと書いたのは、「多くの人」が、二回試験の合格後には弁護士になるからです。

裁判官や検察官志望の修習生(特に検察官志望の修習生)は、二回試験合格後の就職を見越して、裁判科目や、検察科目など、就職先予定の科目において、「優秀な」成績で二回試験に合格することが求められるという話を聞いたことがあります。

他方で、弁護士志望の修習生は、とにかく二回試験に合格しさえすれば良いのです。

繰り返しますが、とにかく二回試験に受かる、これが大事なのです。

いずみ寮への引越し

私が修習生であったとき、集合修習の期間は、二回試験を入れて2か月弱でした。

その期間は、司法研修所内の「いずみ寮」という寮に入って生活する人がほとんどであったと思います。

いずみ寮のキャパシティの関係で、私たちのころは、関東近郊に実家がある、あるいは関東近郊に親戚がいるという人は、入寮することができなかったようで、毎日司法研修所まで通っている友だちもいました。

いずみ寮は国の教育施設であり、持ち込める物には制限がありました。

確かテレビは持ち込み禁止だったはずです(持ち込んでいる人もいましたが)。

運び込む荷物は、せいぜい段ボール2、3個程度だったと思います。

私は9月下旬ころに、静岡市から和光市へ引越しをしました。

入寮当日は、入口付近がごった返しており、たくさんの友だちと一緒に、何か新しいことが始まるという若干ワクワクした気持ちになりました。

実際、私の場合、大学は東北大学で、ロースクールは京都大学で、実務修習は静岡だったので、いずみ寮では、大学時代の友だち、ロースクール時代の友だち、実務修習時代の友だちがみんないて、すごく不思議な感覚でした。

実務修習開始後早々、別の修習地で修習をしていた大学時代の友だちと会い、「久しぶりだね~。どこで就職するの。」などと話をしました。

3つの時代の友だちが一つの建物の中で一緒に寝起きし(いずみ寮は個室ですが)、同じカリキュラムの勉強を一緒に行っていくというのは、とても不思議な感覚でした。

後にも先にも、集合修習のときにしか経験できなかった体験だろうと思います。

司法修習のお話~その12 静岡での選択修習

2024-04-30

選択修習とは

皆さん、こんにちは。弁護士の石川です。

前回のブログまで、静岡における司法修習(実務修習)の思い出についてお話をしてきました。

私が司法修習をしていた当時(14年前)の静岡修習では、民事裁判、刑事裁判、弁護、検察の4つの実務修習を終えると、選択修習を受けることになっていました。

選択修習とは、読んで字の如く、修習生が自分で何を学ぶかを選択することができる修習のことです。

先日、私は、弁護士会の担当者として、修習生に選択修習の説明をしてきました。

14年の歳月を考えると感慨深いです。

さて、私が修習をしていた当時、選択修習の期間は2か月ほどでした。

選択修習には、全国から参加者を募集する全国プログラム、各修習地の裁判所、検察庁、弁護士会が提供する個別プログラム、修習生が自ら修習する先を探してくる自己開拓プログラムという3つの種類があります。

ネットの情報ですが、最近の全国プログラムには、衆議院や参議院での修習もあるらしく、うらやましい限りです。

自己開拓プログラムは、修習生が修習場所を確保しさえすれば何でもOKというわけではありません。

裁判所から、そこで選択修習をしても良いという許可を得る必要があります。

選択修習を取り入れた現在の形の司法修習が始まってから現在まで、相当の期間が経過しており、現在では、全国プログラムや個別プログラムは相当充実していると考えられています。

そのため、自己開拓プログラムについては、昨今では、全国プログラムや個別プログラムが存在するにもかかわらず、なおその修習先で修習する必要性がどれだけあるのか、という観点から、裁判所が許可をしてくれるハードルは非常に高いという話もネット上で散見されます。

先ほど、私が修習を受けた当時は、選択修習の期間は2か月ほどあったというお話をしましたが、各プログラムは、プログラムによって1日限りであったり、2週間続いたりします。

全国プログラムや個別プログラムでは、修習可能な定員が決まっており、募集人数を超える修習希望者がいる場合には、修習希望者の中から抽選で選ばれた人だけが当該プログラムに参加することができます。

プログラムが入ってない日は、ホームグラウンド修習と言って、弁護修習のときにお世話になった弁護士事務所で修習をさせてもらうことになります。

私の場合は、あまりプログラムを選択しなかったので、ホームグラウンド修習の日がかなり多かったような記憶です。

裁判所、検察庁のプログラム

選択修習のプログラムは、裁判所や検察庁からも提供されます。

裁判官になりたい修習生は、裁判所のプログラムを積極的に選択することが多いと思います。

他方で、検察官になりたい修習生は、検察庁のプログラムを選択することが必須という雰囲気でした。

が、しかし!

確か、同じ静岡修習で検事志望だった修習生が検察庁のプログラムを希望せず、「おいおい、あいつ大丈夫か。」みたいな話があったように記憶しています。

その後、その人は無事任検できましたが。

私が修習生だった当時、裁判所の選択プログラムは、実務修習で足りなかった部分を集中的に補うというようなプログラムが複数ありました。

差押え、仮差押え、といった民事執行手続や民事保全手続に関する事件を重点的に扱うもの、破産事件を重点的に扱うものなどがありました。

これらの分野は弁護士にとっても非常に大切な分野ですし、今となってみれば、裁判官志望でなかったとしても、これらのプログラムを選択しておけば良かったと後悔しています。

テレビ局でのマスコミ修習

私が選択したプログラムの中で、非常に印象に残っているのが、マスコミでの修習でした。

同じ班のもう1人の修習生とともに、静岡県内の某テレビ局に1週間お世話になりました。

私は子どものころ、テレビ局のアナウンサーになりたいという夢を持っていました。

また、私は、子どものころ、修習先のテレビ局の夕方のニュースを毎日のように見ていました。

何と、私たちを指導してくださった担当者は、そのニュース番組でメインキャスターを務めていらっしゃった方でした!!

子どものころ憧れていた人から色々ご指導いただけるということで、マスコミ修習の冒頭から大変感激しました。

マスコミ修習では、様々な現場への取材に同行させていただきました。

小さいころの夢であった仕事の一端を見せていただき、大変貴重な経験をさせていただいたと思っています。

弁護士の立場からもう一度見てみたい刑事施設見学

刑事施設見学も大変勉強になりました。

警察署の留置施設や静岡刑務所の部屋を見せていただきました。

現在ではそのときの記憶が大分薄れてしまっていますが、刑事施設見学自体は、一般の方を対象にしたものもあるようです(私の母親が行ってきたような話をしていました)。

前回のブログの「共感力」ではないのですが、留置者の心情により寄り添うための手段として、刑事施設見学は大変有用であると思いますので、機会があれば、是非もう一度見学させていただきたいと思っています。

司法修習のお話~その11 静岡での検察修習2

2024-04-21

私たちの指導担当検察官

皆さん、こんにちは。弁護士の石川です。

前回は、実務修習の中の検察修習についてお話をしました。今回は、検察修習の2回目です。

私たちが検察修習を受けたときには、学習塾の教室のような、全ての席に座れば最大30人ほどが入れるような部屋があり、その部屋に、修習生6人と指導担当検察官が対面で座るような感じでした。

私たちを指導してくれた担当検察官は、一旦会社にお勤めされた後、司法試験に合格されて検察官になった方でした。

私自身、検察修習というか、検察官、検察庁には、バリバリの体育会系のイメージがあり、修習開始前は、すごく恐いところというイメージがあったのですが、指導担当検察官は、いつもニコニコ朗らかな方で、安心して修習を受けることができました。

前回のブログで、検察官と被疑者、被告人が対立当事者にあるというお話をしましたが、被疑者、被告人とともに、弁護人(弁護士)も、検察官との関係では対立当事者です。

そのため、弁護士になって以降は、なかなか検察庁にお邪魔する、特に、検察官に個人的に会いに、検察庁内に立ち入るということは無いのですが(0ではありません)、お目にかかる機会があれば、また指導担当検察官にお会いしたいなぁと思っています。

弁護士になっても使える「簿記3級」

さて、指導担当検察官に関する思い出をもう一つご紹介します。

静岡修習は4班制で、各裁判修習、弁護修習、検察修習を班ごとに廻っていきます(詳しくは、こちらの記事をご覧ください)。

あまり記憶が定かでないのですが、確か、私たちの班が検察修習を受ける前の時点で、静岡の修習生全員を対象にした検察修習の事前案内か、指導担当検察官との懇談会というものがあったように思います。

その際、「修習期間中に何をやったら良いでしょうか。」という質問をした修習生がいて、その質問に対するご回答だったと思いますが、「簿記3級を取りなさい。」というのが、担当検察官のお答えでした。

検察官として、会社の不正が絡むような事件を扱う際、決算書や帳簿類を見るのに、簿記の知識があると大変役に立つ、のみならず、弁護士の業務を行ううえでも大変役立つであろう、というお話であったように記憶しています。

その後、私は、簿記3級を取ろうと思って、テキストを買ってみたのですが、最初の数ページで早くも挫折してしまいました。

しかしながら、簿記を持っているというのは、やはり弁護士にとっても有用であると思われます。

特に、会社の破産事件では、会社の決算書や帳簿類を見る機会が多く、その際、簿記の資格は非常に役立つと思います。

もう一度簿記3級にチャレンジしてみるという気概は今は無いのですが、もしこのブログを読んでいる奇特な修習生がいらっしゃるとすれば、私も、私の指導担当検察官と同様に、修習中に時間があれば(法律の勉強をしてもなお余裕があれば)、簿記の勉強をされることをお勧めします。

検事正のお話~「共感する力」

検察修習中、当時の検事正(地方検察庁のトップ)と修習生がお話をさせていただく機会がありました。

本ブログの冒頭、私にとって、検察修習はバリバリの体育会系で、恐いイメージがあったというお話をしたのですが、私が修習を受けていた当時の検事正は、お日様のような、ポカポカとした温かい人柄の方で、修習生はみんな検事正のことが好きであったと思います。

キリッとした次席検事と、温かな検事正と、僭越ながら、あのときの静岡地方検察庁の検事正、次席検事は、非常に良いコンビであったと思っています。

修習生との懇談の場で、検事正は、検察官と被疑者、被告人は対立する立場にあるけれど、被疑者、被告人の立場になって考えてみる、共感する力が大事である、というお話をされました。

私の検察修習の中で、このお話は大変印象に残りました。

「共感」というワードは、検事正に限ったことではなく、刑事裁判官からも聞いたことがありました。

私が弁護士となって数年後、小学生を対象とした刑事裁判の傍聴ツアーに、弁護士会側の担当者として同行したことがありました。

この際、同見学を担当していた刑事裁判官も、もし自分が被告人の立場であったら、どういう行動をしたであろうか、どう思ったであろうかということを考えて判決を下しています、というお話をされていました。

弁護士という仕事は、基本的には、依頼者である個人や会社から相談や依頼を受け、依頼者の立場に立って、仕事を進めていきます。

その意味では、弁護士業務において、依頼者に共感する力が求められる場面は多いと思います。

しかし、弁護士だけではなく、被疑者、被告人と対立する立場にある検察官や、双方の主張を聞いて判断を下す立場にある裁判官においても、被疑者、被告人の立場に立って考えてみる、という視点をお持ちであるということはとても新鮮に感じられました。

司法修習のお話~その10 静岡での検察修習1

2024-04-10

検察修習と弁護修習との共通点

皆さん、こんにちは。弁護士の石川です。

今回は、最後の実務修習、検察修習での思い出を紹介します。

刑事裁判や民事裁判など、裁判所での修習と、検察修習との大きな違いの一つは、修習生と当事者との距離だと思います。

より具体的に言えば、被疑者や被告人と、修習生との距離ということです。

これは、弁護修習における依頼者と修習生との距離にも類似する事柄だと思います。

刑事裁判修習や民事裁判修習では、基本的には、弁護士や検察官が主張する内容を前提に、裁判所としてどのような判断をするかということを勉強します。

これに対して、検察修習では、当事者=被疑者から、問題とされている事象に関する事実を聞き取り、聞きとった事実がどのような罪に該当するか、ということを検討します。

また、検察修習では、該当すると考えられる犯罪について、裁判になったときに、その事実を証明できるだけの証拠が揃っているかどうかについても検討します。

弁護修習でも、依頼者や相談者から、問題となっている事項について事実を聞き取り、それが法的にどのような効果を持つ事実であるのかを検討します。

また、裁判になった際、聞きとった事実を証明できる証拠があるかどうか、ということについても検討します。

このように、検察修習と弁護修習は、裁判修習のように、用意された事実を前提として結論を検討するのではなく、自ら当事者から事実を聞き取り、事実を明らかにしていくという性格が強い修習であると言えます。

検察修習と弁護修習の相違点1~対立当事者からの聞き取り

しかしながら、検察修習と弁護修習とでは、修習生と当事者との関係に大きな違いがあります。

弁護修習で事実関係を明らかにするために聞き取りを行う場合、多くの場面で、聞き取りを行う対象者は依頼者であったり、相談者であったりします。

つまり、大抵の場合、聞き取り相手は、弁護士(あるいは修習生)に対して友好的です。

しかし、検察修習の場合、検察官側が聴取しなければならない対象者の多くは、被疑者、被告人であり、いわば対立当事者であるわけです。

そして、被疑者、被告人は、何らかの罪を犯したと疑われて取調べを受ける立場にあります。

被疑者、被告人は、通常、自らが発言する内容によっては、自らに不利益が及ぶ可能性があることを認識しています。

そのため、被疑者、被告人においては、自分を守るために、自分に不利益と思われることを進んで話をするということは、あまり期待できません。

このことは弁護人の立場からすれば、当然のことで、自分が弁護人として、被疑者等と面会する場面で、被疑者にとって不利益になるようなことについて進んで話すよう勧めることはあまりありません(ただし、比較的軽微な事案で、記憶にあることを全て話した方が勾留を延長されずに釈放される可能性が高いと思われる場合には、被疑者に対して、記憶にあるとおり取調官に話をするよう勧めることもあります)。

検察修習と弁護修習の相違点2~「決裁」の制度

また、弁護修習と検察修習との大きな違いのその2として、検察修習においては、というよりも、検察庁においては、「決裁」の制度があります。

被疑者を取調べ、こういう罪名で公判請求をしよう(刑事裁判にかけよう)と判断した場合、あるいは、今回の罪については、不起訴で良いだろうと判断をした場合、いずれの処分にする場合でも、役職のある検察官(通常は、地方検察庁のNo.2にあたる次席検事になるのでしょうか)の決裁を仰ぐ必要があります。

決裁官とは、なぜそのような処分が妥当であるのか、ということや、公判になった場合に立証ができるのか、その証拠としてはどのようなものがあるか、ということについて問答を行います。

決裁官が、処分内容が妥当でないと判断したり、処分についての根拠が不十分であると判断したり、証拠が不十分であると判断したりした場合、決裁が通らず、もう一度検討するということになります。

ちょうど法務省のウェブサイトに、次席検事による決裁に関するページがありましたので、リンクを貼らせていただきます。

もちろん弁護修習でも、指導担当の弁護士と打合せをしたり、議論をしたりしますが、「決裁」という明確な形をもって、「OK」、「ダメ」という判断が下される点が、検察修習の特色でもあると思います。

当時の次席検事は、大声を出すとか、怒鳴るとか、そういうタイプの人では全く無かったのですが、「決裁」の際はかなり緊張しました。

数年前、某事件の関係で、テレビを通して、当時の次席のお顔を拝見し、決裁のときのことが懐かしく思い起こされました。

司法修習のお話~その9 静岡での民事裁判修習

2024-04-01

弁護士の仕事を裁判所から見る修習

皆さん、こんにちは。弁護士の石川です。

昨秋連載(?)していた司法修習の思い出ブログですが、途中で止まってしまっていたので、最後まで書き上げたいと思います。

最後にご紹介したのは、民事裁判修習に関するお話でした。

さて、私にとって、民事裁判修習は、刑事裁判、弁護修習に続く、3つ目の実務修習でした。

弁護修習では、お二人の指導担当弁護士の先生に付いて、色々な事件を見せていただきました。

現在の私と同じく、お二人の指導担当弁護士も、業務の大半(9割以上)は、民事事件でした

(民事事件と刑事事件の違いについては、こちらのブログをご参照ください)。

弁護士の仕事の多くが裁判所で行われるものかというと、決してそうではありません。

裁判所を使わずに解決できる事件もそれなりに多いのです。

しかし、どうしても裁判所外の話合いで解決ができなれければ、最終的には、裁判手続を利用して決着をつけるしかありません。

指導担当弁護士の言葉を借りれば、「裁判所を利用させていただく。」ということになります。

本来、裁判修習は、裁判官のお仕事を勉強させていただくものだとは思うのですが、弁護士志望であった私にとって、民事裁判修習は、弁護士の仕事を裁判所の視点から見ることができる修習であり、大変勉強になりました。

特に、裁判手続中に行われる和解勧試に同席させていただくことが何回かあり、裁判官が、どのようなことを双方当事者に言って、互譲を引き出し、和解を成立させようとするのか、その過程を見ることができ、参考になりました。

裁判官へのリクルート

先ほど、当時の私は弁護士志望であったというお話をしましたが、厳密には、民事裁判修習に入った時点で、弁護士8.5、裁判官1.5くらいの割合で弁護士志望でした。

司法試験に合格した人は、裁判官、検察官、弁護士のどれかになることができます(うちの妻にこの話をしたら、イーブイだねと言われました。でも、今って、イーブイの進化は3種類じゃないんですね!!)。

司法修習が始まる前までは、裁判官になるということは全く考えていませんでした。

しかし、1つ目の実務修習である刑事裁判修習の間に、事実認定の面白さに目覚め、少しだけ裁判官志望という気持ちが芽生えてきました。

ただし、依然として弁護士志望の気持ちの方が圧倒的に強く、司法修習後は弁護士になるということはほとんど決めていたのですが、民事裁判修習を見てから、最終的に、弁護士になるか、裁判官になるかを決めようと考えていました。

しかし結局は、調理済みの2つの料理について、どちらが美味しいかを判断するよりも、相手方よりも美味い料理を作ったと認めさせる方が面白そうだ、という気持ちが一層強くなってしまい、民事裁判の終了時点で、裁判官ではなく、弁護士になることを決めました。

裁判教官からは、サシでお酒を酌み交わす機会をいただき、「君には大きな幹のように育ってもらいたい。」とお誘いいただいたり、静岡修習でありながら、東京地方裁判所の医療部の裁判官の皆様と懇談をさせていただく機会をいただいたりするなど、裁判官への勧誘をいただいておりました。

また、「裁判官になったら、留学できるよ。」というお話もあったのですが、高所恐怖症もあり、当時の私はあまり飛行機が好きではなかったのです。

海外旅行が大好きになったのは、修習から5、6年ほど後の事務所旅行(台湾)からでした。

しかし、仮に、その5、6年後に、勧誘を受けていたとしても、裁判官になるということはなかったと思います。

私の中で、司法試験を目指そうと思った動機は、静岡で弁護士になるためであり、元々自分が、ある組織の一員として働くということに向いていない人間だろうと思っていたためです。

そして、民事裁判修習を経た結果、実際の仕事の中身としても、弁護士の方が面白そうだと確信してしまったのです。

現在、弁護士になって14年ほどになりますが、この選択は正しかったと思っています。

結婚生活を漢字一文字で表すと・・・忍耐の「忍」!!

民事裁判修習中も裁判官との飲み会がありました。

当時の裁判所は、まだまだその辺りの規制が緩かったと思うのですが(多分今はダメだと思いますが)、裁判官との飲み会は、裁判所の裁判官室で行われました。

その席上、非常に記憶に残っているトピックがあります。

裁判官は、基本的に3年で転勤となり、全国規模で異動があります。

おそらく、単身赴任をして地方に行くか、東京から新幹線で通うかという話の延長線上だったのではないかと思うのですが、男性裁判官の一人が、結婚生活を漢字一文字で例えると、みたいな話を始めたのです。

当時、静岡地方裁判所の民事部に、男性裁判官は5、6人いたと思うのですが、皆さん異口同音に、「忍耐の『忍』!!」とおっしゃっていました。

世間的には地位の高い裁判官も、家庭では色々大変なんだろうと、25歳になったばかりの若輩にとって、非常に印象的な会話でした。

司法修習のお話~その8 番外編② 弁護士による事件の見通しについて

2023-10-02

民事裁判修習で最も勉強になったこと~裁判官も判断に迷う

民事裁判修習では、裁判官と一緒に裁判の場に臨んだり、裁判官室で、裁判をどのように進めていくのが良いか裁判官と協議をしたり、判決を出すとしたらどのような内容の判決を出すかということを起案したりしました。

私が民事裁判修習中に最も勉強になったことは、裁判官も判断に迷う、ということを知ることができたことです。

人間だもの、判断に迷うことなんてあるに決まっているじゃないか!

という感覚は、我々弁護士と、裁判実務に携わっていない一般の方と、どちらの方がしっくりくる感覚でしょうか。

裁判官の仕事の一つに、判決を書くということがあります。

裁判官は、ある事件に関して、最終的に、白か黒か、という判断を迫られることがあります。

判決文に裁判官の迷いが見られることは基本的にはありません。

しかし、内心では、判断に迷うことも少なくないのではないかと、私は思っています。

日本の裁判では、三審制が採られています。

地方裁判所の判決に対して不服があれば、高等裁判所の判断を仰ぐことができます。

数は多くはありませんが、地方裁判所の判断が高等裁判所でひっくり返ることもあります。

裁判官の判断は「絶対」ではないのです。

弁護士は「絶対勝てます!」と言ってはいけない

本ブログを閲覧されていらっしゃる方の中に、弁護士に相談をした経験がある方はいらっしゃいますでしょうか。

何か歯切れの悪い弁護士だったなぁ、という感想をお持ちかもしれません。

実は、弁護士は、「絶対勝てます!」などとは言ってはいけないのです。

弁護士には、守らなければいけない職務上のルールがあります。

そのルールの一つとして、依頼者に有利な結果を保証してはいけない、ということになっているからです。

しかし、私は、そのようなルールが無かったとしても、そもそも弁護士にとって、相談者や依頼者から話を聞いた段階で、結論を100パーセント見通せる事件というものは無いと思っています。

最初の相談の時から、「絶対勝てます!」などということは、言えないはずなのです。

弁護士が事件の結論を100パーセント見通すことができない事情

弁護士が事件の結論を100パーセント見通すことができない理由はいくつかあります。

理由の第1は、一方当事者の話しか聞いていないことです。

弁護士は、相談者の味方、依頼者の味方です。

通常、相談者、依頼者にとって最も利益になるような方向で助言をしたり、事件を進めたりします。

しかし、一方当事者の話しか聞けていない状態では、事件の見通しにも自ずから限界があります。

弁護士が事件の結論を100パーセント見通すことが難しい理由の第2は、「立証責任」というものがあるからです。

「立証責任」というのは、民事裁判において、「ある事実が存在する」ということを証明する責任のことです。

語弊を恐れず、非常にざっくり言えば、そのような事実があったと主張したい人が、そのような事実があったことを証明しなければなりません。

前回のブログでお話ししたように、民事裁判では、多くの場合、お金を請求するか、物の引渡しを請求します。

たとえば、配偶者と不貞行為を行った相手方に対して、慰謝料を請求するケースを考えてみましょう。

原告の配偶者も被告も不貞関係を否定している場合、原告は、被告と原告の配偶者が不貞関係にあったことを証明しなければなりません。

もっとも簡単な証明方法は、原告の配偶者と被告がラブホテルに入っていく様子を完璧に撮影した写真や動画でしょう。

次に考えられるのは、原告の配偶者と被告が、LINEで肉体関係があることを示すようなメッセージのやり取りをしている画面をスクリーンショットで撮影したものでしょうか。

しかし、これらの証拠が全く無いとした場合、その他の証拠により、どれだけ不貞行為の事実を証明できるのか、ということについては非常に予測が難しいと言えます。

ある事実があったかどうか、それを証明できる証拠として何があるのか。

これらのことは、事件の見通しを判断するうえで非常に重要ですが、同時に、予測が非常に難しい問題とも言えます。

弁護士が事件を100パーセント見通すことが難しい理由の第3は、同じ事件は2つとない、ということです。

たとえば、交通事故に基づく損害賠償請求事件を想定してみましょう。

交通事故に基づく損害賠償事件は、毎年全国で何百件、もしかすると、何千件と訴訟提起されています。

交通事故の場合は、相当数の裁判例の積み重ねがあります。

裁判例の積み重ねにより、ある程度確実性の高い見通しを持つことが可能であることもあります。

たとえば、交差点で、青信号で直進した自動二輪車と、対向車線を青信号で右折した自動車というようなケースでは、原則的な過失割合は○:○と定まっています。

双方の運転手において、例外的な落ち度がなければ、このような見通しの確実性は高いと言えます。

「原則的な」と書いたのは、この趣旨です。

しかし、交通事故の態様は、上記のような典型的なものばかりではありません。

たとえば、高速道路の料金所手前の合流車線で同一方向の車両同士が接触した、というようなイレギュラーな事故も当然存在します。

この場合には、直ちに「原則的な過失割合は○:○」とは分かりません。

このような場合、私はまず裁判例を検索します。

私が使っている裁判例の検索システムでは、「交通事故」「料金所」といった検索ワードで裁判例を検索すると110件の裁判例がヒットします。

これを全て閲覧して、類似事案が無いかどうかを探します。

裁判実務においては、類似事件の裁判例があるかどうかということは、訴訟を進めるうえでとても重要だと思います。

その判決が、最高裁判決なのか、高等裁判所の判決なのか、地方裁判所の判決なのかによって、効力というか、迫力というか、大分変わってくると思いますが、あまり前例がないような事件では、地方裁判所レベルの判決でも、裁判例が見つかると大変心強いものです。

他方で、裁判例が見つかっても、相談者や依頼者にとって、不利に働く可能性が高い場合があります。

また、そもそも同一態様の事故に関する裁判例を見つけることができない場合もあります。

そのような場合には、似たような事故の過失割合を転用できないかを考えます。

高速道路の料金所手前の合流車線で同一方向の車両同士が接触した、というケースで言えば、同一方向へ進む2つの車両のうちの一方が、進路変更して他方車両側に入ってきたと評価できないかといったことを検討します。

しかし、当然のことながら、このような検討を経た結果については、結論は絶対こうなります、などとは言えません。

「絶対勝てます!」などという弁護士にはご注意ください

このように、弁護士において、相談や依頼の際、ある程度の見通しを立てることはできますが、100パーセント結論を見通せる事件というものはありません。

「絶対勝てます!」などとは、言えないはずなのです。

裁判官が判断をする段階では、一方当事者の話しか聞いていないので、事件の見通しに限界があるという状況にはありません。

それでも、裁判官は判断に迷うようです。

もちろん事案によりけりですが、個人的には、裁判官も、ある事実があったと認めるかどうか、立証責任(上記理由の第2)のところで判断に迷うことが多いのではないか、と考えています。

« Older Entries

keyboard_arrow_up

0542706551 問い合わせバナー 無料相談について