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刑事事件は意外と少ない
新年明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、早速ですが、今回から数回にわたり、刑事弁護、刑事裁判についてお話ししたいと思います。
弁護士を主人公としたテレビドラマは枚挙に暇がありませんが、その多くは、刑事事件を題材としたものです。
私の中での弁護士を主人公としたテレビドラマのイメージは、
弁護士が事件現場にたびたび訪れ、自力で目撃者を探し出し、最後には真犯人が暴かれる
みたいな感じですが、現実に刑事弁護をやっている弁護士からすると、あり得ないストーリーです。
そもそも当事務所での刑事事件の取扱いは非常に少ないです。
全案件数に占める割合は、平均で言えば5%を切ると思います。
静岡でも、刑事弁護が得意という看板を出している法律事務所、弁護士もいらっしゃいますが、極めて少数派だと思います。
なお、当事務所の「売り」は、自己破産、交通事故、顧問弁護士(顧問業務)であり、刑事事件ではありません。
それでは、なぜこれからのブログで、刑事事件について書くのかと言いますと、当事務所に新しく入所された2名の事務員さんへの説明を兼ねているからです。
2名の事務員さんは、ともに法律事務所での職務経験がありません。
そこで、ブログで弁護士の仕事の内容を書いておくから読んでおいてね、ということにしました。
そのため、普段はそれほど取扱いのない、けれども、何となく弁護士のイメージとして馴染みやすい刑事事件について、これから何回かのブログで書いていくことにしたのです。
国選弁護人と私選弁護人
まずは、この2つのワードの意味からご説明いたしましょう。
2つのワードの違いは、一目瞭然、「国」と「私」です。
国で選んで付けた弁護士が国選弁護人、自分で弁護士を選んで付けた場合が私選弁護人というわけです。
私選弁護人の場合、どの弁護士を選ぶかは自由ですが、その弁護士との契約にしたがって、弁護士費用を支払う必要があります。
国選弁護人の場合、弁護士を選ぶことはできません。
静岡(静岡支部)において、どの弁護士が国選弁護人として付くのかということについては、予め定められた名簿の順番に従って、機械的に割り振られていきます。
1月1日はX弁護士、1月2日はY弁護士、1月3日はZ弁護士といった具合です。
国選弁護人が付いた事件で弁護士費用を支払う必要があるかどうかはケースバイケースです。
テレビドラマで見るような、公開の法廷で裁判を受けるケースでは、懲役○○年などという判決と同時に、国選弁護人の費用をその人に負担させるかどうかが裁判官によって決められます。
通常は、その人の財産や収入の状態を見て、国選弁護人の費用を負担させるかどうかが決められます。
国選弁護人と私選弁護人の違い
特に、これまで刑事事件に縁が無かった人が逮捕された場合などに気にすることが多いと思うのですが、国選弁護人と私選弁護人で、できる内容や権限に違いはあるのでしょうか。
結論から言えば、ありません。
刑事事件、刑事裁判に関して、私選弁護人でなければ行うことができない手続というものはありません。
それでは、国選弁護人と私選弁護人が同じ権限を持っているとして、やってくれる内容に違いはあるのでしょうか。
結論としては、基本的には無い、と思います。
「基本的には」というと歯切れが悪いのですが、まず、全般的な話、包括的な話として、私選だからしっかりやるとか、国選だからいい加減にやってもいいと思っているとか、そのような弁護士は、少なくとも国選登録をしている静岡(静岡支部)の弁護士にはいないと思います。
国選弁護人は「保釈」(また別の記事でご説明します)の手続をしてくれないから、私選弁護人を付けた方がいいとか、そういったことはありません。都市伝説です。
逮捕されてしまった人、裁判に掛けられた人の弁護や、留置場、拘置所から出るために必要と考えられる手続については、国選であっても、私選であっても、弁護人がやる内容に変わりは無いと思います。
ただし、先ほども申し上げたとおり、国選でも、私選でも、「基本的には」同じようにやるのだと思いますが、「弁護に必要な事項」や「留置場、拘置所から出るために必要と考えられる手続」以外の事項については、国選と私選で違いが出ることはあるのだろうと思います。
たとえば、これまで全く警察のお世話になったことがなかった人が、覚せい剤を使ってしまい、逮捕されてしまったという事件を想定します。
本人が覚せい剤を自発的に使ったことを認めていて、尿検査で覚せい剤が検出されているような場合、このような事件では、誰が弁護をしても、執行猶予の判決(今回のことで直ちに刑務所に行く必要はないが、判決で決められた期間の中で、新たに別の事件を起こした場合には、新しい件と今回の件(覚せい剤)の両方について刑務所に行く可能性があるという判決)が出ることがほぼ確実に予測されます。
たとえば、このような事件で、捕まっている人から、寂しいから毎日会いに来てもらいたいとか、毎日新しいマンガを差し入れしに来てもらいたい、という要望が出たとします。
国選弁護人であれば、そのような要望に100%応えることはできないと思います。
他方で、私選弁護人であれば、そのような要望にも全て応じてくれるかもしれません。
これは、刑事裁判における弁護の内容や本人の防御権とは、基本的に関係が無い事項であるからです。
私個人の感覚ですが、国選と私選の違いは、弁護の内容や本人の防御権と関係のないところで、出ることが多いのではないかと思います。
また、国選と私選で違いが大きく出るとすれば、弁護士のやる気ではなく、弁護士の力量でしょう。
逮捕された理由となる事実を否認しているような事件では、裁判で、当該犯罪行為があったかどうかが激しく争われます。
そのような場合には、刑事弁護に精通した私選弁護人を選任することが、本人の防御に大変資することになると思われます。