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離婚後の「共同親権」制度6 「共同親権」と「単独親権」の決め方 その2 

2025-11-29

「共同親権」に関する静岡家庭裁判所との意見交換会でパネリストをしてきました

皆様、こんにちは。弁護士の石川アトムです。

「共同親権」に関するブログの第6弾です。

先日、静岡家庭裁判所との間で、「共同親権」に関する意見交換会があり、静岡県弁護士会側のパネリストとして登壇して参りました。

「何とか無事乗り切った(汗)」という感じでした。

今回のブログもこれまでと同様に、離婚後の共同親権を「共同親権」あるいは「『共同親権』制度」といい、改正民法施行後の「親権者」が決定される場面についてお話ししたいと思います。

必ず単独親権となる場合~必要的単独親権事由

共同親権となるのか、単独親権となるのか、については、前回のブログでお話ししたような考慮要素によって決定されます。

しかし、改正民法上、「父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき」には、必ず単独親権としなければならないとされています(改正民法819条7項後段)。

改正民法は、このような場合の具体例として以下の2点を挙げています。

1つ目は、「父又は母が子の心身に害悪を及ぼすと認められる場合」です。

父母のいずれかから子どもに対する虐待があったり、父母のいずれかに親権喪失事由・親権停止事由があったりするような場合が想定されています。

必ず単独親権となる2つ目の場合は、「父母の一方が他方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれがある場合など、協議が調わなかった理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められる場合」です。

「暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動」の中には、身体的な暴力だけではなく、精神的、経済的、性的なDVも含まれると考えられています。

また、過去に虐待やDVがあったという事実は、今後の虐待やDVの「おそれ」を肯定させる方向で考慮される(重視される)と考えられています。

DVがある家庭では、この規定により単独親権になると考えられます。

条文上は、DVの被害者たる親を単独親権者とすべきとはされていません。

しかし、DVがあるようなケースでは、DVの加害者側の親が単独親権者となる場合は少ないと考えられる、という見解があります。

また、本項では、「協議が調わなかった理由」も考慮要素として挙げられています。

父母の一方または双方が虚言や重大な約束違反を繰り返す、他方の親の人格を否定する言動を執拗に繰り返す、濫訴的な裁判手続の申立てを繰り返すというような事情についても、共同親権が否定される事由として考慮されるようです。

必ず単独親権としなければならない事情は、上記の2つのみではなく、上記2つは、「父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき」の例示であると考えられています。

上記の2つ以外に、どのような場合に必ず単独親権としなければならないのか、ということについては、書籍や文献上、必ずしも明らかではなく、改正民法施行後における事例の集積を待ちたいと思います。

単独親権から「共同親権」への変更

改正民法が施行される以前には、父母が離婚した場合、そのいずれか一方が親権者になっていました。

それでは、改正民法の施行前に決定された父母の単独親権を、改正民法の施行後に、「共同親権」へ変更することを求めることは可能なのでしょうか。

結論から言うと、制度的には「共同親権」へ変更を求めることは可能です。

ただし、「共同親権」へ変更するためには、裁判所によって親権者の変更を認めてもらう必要があります。

単独親権者から非親権者へ親権者を変更する場合も、単独親権から「共同親権」へ変更する場合も、裁判所が親権者の変更を認めるのは、「子の利益のため必要があると認めるとき」です。

改正民法が施行された(法律的に「共同親権」の選択が可能となった)という事実それ自体から、従前の単独親権が当然に「共同親権」へ変更されるべきである、ということではありません。

改正民法が施行されたとしても、裁判所が当該事案について「子の利益のため必要があると認め」なければ、「共同親権」への変更は不可能です。

裁判所が「共同親権」への変更を認める場合

前回のブログでお話した親権者を決める際の考慮要素は、親権者を変更する際にも考慮されます。

親権者を変更する場面においても、父母と子の関係、父と母との関係、その他一切の事情を考慮して親権者を変更するかどうかが判断される、ということです。

今回のブログの冒頭では、親権者を指定する際に、このような事情がある場合には必ず単独親権としなければならないという事情(たとえば、父母の一方が子どもを虐待している場合など)があることをお話ししました。

親権者変更の場面においても、そのような事情がある場合には、必ず単独親権となります。

なお、単独親権から「共同親権」への変更を求める場面についてですが、法務省民事局のパンフレットでは、「別居親が本来支払うべき養育費の支払を長期間にわたって合理的な理由なく怠っていたような場合には、共同親権への変更が認められにくいと考えられます」と言われています。

養育費の支払いの有無は、親権者変更の場面において重要な考慮要素となりそうです。

離婚後の「共同親権」制度5~「共同親権」と「単独親権」の決め方 その1 

2025-11-20

「親権」の決め方~親権者の決定において考慮される要素

皆様、こんにちは。静岡市で弁護士をしております石川アトムです。

今回のブログは、「共同親権」に関するブログの第5弾です。

「親権者」がどのような考慮要素によって定められることになるのか、ということを中心にお話しします。

今回もこれまでと同様に、この記事の中では、離婚後の共同親権を指す趣旨で、「共同親権」あるいは「『共同親権』制度」といいます。

改正前民法の世界では、離婚後の親権は、父親の単独親権と母親の単独親権のいずれかしか存在しませんでした。

改正民法が施行されますと、離婚後の親権者のバリエーションは、父母共同(共同親権)、母親単独親権、父親単独親権という3パターンになります。

改正民法下において、親権者が定まる場面は、

協議離婚の際に父母の協議によって定める場合(親権者の指定を求める家事調停を含む)

裁判所が協議に代わる審判をする場合(親権者の指定を求める家事審判)

裁判上の離婚の場合に裁判所が定める場合、という3つの場面が考えられます。

共同親権とするか、父母の単独親権とするかは、「子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮」して決められることになっています(改正民法819条7項)。

離婚後においても、「共同親権」とすることになった場合、一定の例外を除いて、子に対する身上監護、子の財産管理、子の身分行為に関する代理を、父母が共同して行うことになります(一定の例外、すなわち、父母が単独で親権を行使できる場面については、前回までのブログをご参照ください)。

改正民法において、「共同親権」とするか単独親権とするかについて、原則例外は無いとされています。

また、父母のどちらかが反対しているからといって、直ちに共同親権が度外視されるということにもなっていないようです。

「共同親権」とすべきかどうかという判断にあたっては、将来、父母間で、共同での親権行使のための協議や協力を行うことができるかということが検討されますが、協議・協力の程度は、子の養育のために最低限のやり取りができるレベルであれば、その他一切の事情を考慮したうえで「共同親権」を認める余地があると解されています。

なお、「共同親権」であるか否かによって、親子交流(これまで「面会交流」と呼ばれていた離婚後の別居親と子との交流)の方法や充実度について差が生じるという建て付けにはなっていません。

親権者を決める場面での考慮要素~「父母と子との関係」

親権者を決める際の考慮要素として、「父母と子との関係」が挙げられています。

親サイドの事情としては、子の面前で、父母間で口論を繰り返したり、子に対して他方の親の悪口を言ったりするなど、という従前の態度や、養育費を支払うなど親としての責務を果たしているかということなどが考慮されるようです。

子サイドの事情としては、父母に対する子の気持ちや、今後の親権行使に関する子の意向が考慮の対象となり得ると考えられています。

年長の子については、子の意向の重要性は高くなると考えられています。

親権者を決める場面での考慮要素~「父と母との関係」

「共同親権」とすべきか否かの際に考慮される「父と母との関係」は、具体的には、同居時における父母の親権行使の状況、別居後の親権行使の状況、子に対する身上監護のあり方、別居後の他方親と子との交流状況、父母間の連絡状況などに加え、親権者の定めの協議が調わなかった理由などを含む手続の経過についても考慮の対象とされるものと考えられます。

父母の一方が他方に対して、誹謗中傷や人格を否定するような言動を繰り返している場合には、離婚後に親権を共同行使する前提としての父母間の協力義務に違反していると評価される可能性があります。

また、父母の一方が他方に無断で、何ら理由なく子の居所を変更するなどした場合についても、事情によっては父母間の協力義務違反と評価されることがあります。

親子交流について取り決めがされたのに特段の理由無く履行されない場合、養育費に関する協議を理由無く一方的に拒否する場合も、協力義務違反と評価される可能性があります。

これらの協力義務違反は、「共同親権」とするかどうかという場面で、「共同親権」とすることに消極的な事情として考慮される可能性があります。

父母の単独親権とすべきか、共同親権とすべきかは、以上のような考慮要素を総合して決定されますが、改正民法においては、「このような事情がある場合には、絶対に共同親権にはしない」という要素もあります。次回のブログでは、この点についてお話ししたいと思います。

離婚後の「共同親権」制度4~「共同親権」下で親権の単独行使が可能な場合 その3

2025-11-10

離婚後の「共同親権」制度の開始日が令和8年4月1日となりました

皆様、こんにちは。弁護士の石川アトムです。

「共同親権」ブログの第4弾です。

前回のブログで触れましたが、閣議決定により、我が国における離婚後の選択的「共同親権」制度の開始日が令和8年4月1日となりました。

もちろん制度が全く同じというわけではありませんが、既に「共同親権」の制度を有しているアメリカで実施されたある統計によれば、1994年から2010年において、共同親権は25%、母親の単独親権が65%、残りの10%が父親の単独親権という統計結果だったようです。

他方で、日本の「人口動態統計」によると、日本では、2010年の時点で、母親の単独親権は83.3%、父親の単独親権は12.9%、兄弟で親権者が異なるという場合が3.7%だったそうです。

来年4月1日から選択的「共同親権」制度がスタートし、親権の比率がどのように変化していくのか、今後注目していきたいと思います。

親権行使者の指定~子の居所の指定

前回のブログで、「共同」親権下においても、親権の単独行使が可能な場面の一つとして、特定の事項について親権の行使者が指定される場合を紹介しました。

私は、改正民法が施行された後、親権行使者の指定について争われることが最も多い場面は、子の居所の指定になるのではないかと考えています。

と言いますのも、前々回のブログでお話ししたように、「親権」の中には、子どもに関する「身上監護」というものが含まれています。

日常的に子どもと一緒に生活をして、ご飯を食べさせるなどをすることは、親権の中の「身上監護」の一内容です。

改正前民法のもとでは、未成年の子をもつ父母が離婚した場合、父母のいずれか一方だけが子の親権を有するということになっていました。

そのため、改正前民法の世界では、離婚後に親権を持つことになった親が、いわば自動的に、子の住む場所を決めることができていました。

しかし、改正民法が施行された後には、離婚後の父母が「共同親権」を持つケースが出てきます。

先にお話ししたように、親権の内容には、子がどこでどのように暮らすのか、ということを決める権利が含まれています。

そのため、離婚後に「共同親権」となった場合、父母は原則として、子がどこに住むのかを「共同で」決めなければなりません。

共同親権となった場合、どちらか一方の親が当然に子の居所を決めるということはできないのです。

「共同親権」状態の父母において、子の居所について協議がまとまらない場合(父母の双方が、子どもと一緒に暮らしたいと言って譲らない場合など)には、子の居所を指定することについて、親権行使者の指定を求めることが選択肢の一つとなります(ただし、後のブログでお話しするように、どちらか一方が子の居所を定めることをできるようにする手段は、他にも「監護者の指定」や「監護の分掌」という手続もあります)。

このように、「共同親権」と言っても、当然に、父母双方が子と暮らすことができるわけではありません。

今後は、子の「居所」を決める親権行使者の指定が、従前の「親権」争いの一部に取って代わるのではないかと思っています。

子の居所の指定に関する親権行使者指定の概要

子の居所を決める親権者行使者を指定する場面では、父母のいずれが日常的に子を監護することが適切か、ということを子の利益の観点から判断するものとされています。

具体的には、従前の監護状況、現在の監護状況、父母の監護能力、子の年齢、発達状況、父母との関係性、子の意向、兄妹に関する事情について、総合的に評価し、父母のいずれが子の監護をすることが子の最善の利益になるかが判断されます。

子の居所をどこに定めるべきか、ということを直接判断するのではなく、どちらの親に親権を行使してもらうことが子の利益になるのか、という判断の方法が取られます。

この点、前回の子の進学の決定に関する親権行使者の指定に関して述べたことと同様です。

なお、「親権行使者の指定」の制度は、離婚後の「共同親権」下だけではなく、婚姻中の夫婦間においても使用することができます。

今後は、婚姻中の夫婦間においても、子の進学先を決めたり、子どもをその学校から転校させるか否か、退学させるか否かを決めたりする場面で意見がまとまらない場合、親権行使者の指定を求めて家庭裁判所で話し合いを行う(調停を行う)ということが増えてくるかもしれません。

婚姻中の夫婦にとって、この制度が「雨降って地固まる」制度として利用されることになるのか、「覆水盆に返らず」制度となってしまうのか、制度の作用が非常に気になるところです。

離婚後の「共同親権」制度3 ~「共同親権」下で親権の単独行使が可能な場合 その2

2025-10-31

共同親権下で父母間に意見の対立があった場合 ~「親権行使者の指定」制度

皆様、こんにちは。弁護士の石川アトムです。

今回も「共同親権」に関するブログで、今回はその第3弾です。

つい先ほど、政府の閣議により、「共同親権」のスタート時期が令和8年4月1日と決定されました。

いよいよ「共同親権」制度が迫ってきたという感じがします。

さて、前回のブログでは、「共同親権」下においても、父母のいずれか一方が単独で「親権」を行使することができる場面について、3つの場合を説明しました。

今回のブログは、「共同親権」下においても、父母のいずれか一方が単独で「親権」を行使することができる4つ目の場面の説明から始めます。

その4つ目の場面は、ある「特定の事項に係る親権の行使」について父母間に協議が調わず、その「特定の事項に係る親権」を父母のいずれか一方に単独で行使させることが「子の利益のため必要がある」と言える場合です。

前回のブログで紹介した父母が単独で親権を行使することができる3つ目の場面、「子の利益のために急迫の事情があるとき」は、父母の意見が対立した際にも使用され得る規定だと思いますが、特定の事項に係る親権行使者が定められる場合というのは、まさに、親権行使について父母の対立があった際に使用されることが想定された規定です。

「特定の事項に係る親権の行使」

この規定は、ある「特定の事項」に関する親権の行使について父母間で協議が調わず、子の利益のためにその「特定の事項」について、父母のいずれか一方が単独で親権を行使する必要があると家庭裁判所が認めたときに、父母の一方による単独親権行使を認める規定です。

この制度は、ある「特定の事項について」という点が大きなポイントです。

特定の、限定された事柄についてのみ親権の単独行使を認める、という制度です。

この規定において想定されている「特定の事項」とは、子の進学先の選択、子の心身に重大な影響を与える医療行為の決定、子の居所の指定や転居、子の財産管理などです。

たとえば、私立中学校へ進学させるか、公立の中学校へ進学させるかについて、父母の意見がまとまらない、といった場面で使用されることが想定されています。

他方で、「親権行使者の指定」制度は、現実に紛争が発生している状態でなければ利用することができません。

近い将来、父母間で子の進学のことで揉めるだろうと思って予め申立てを行う、ということはできないのです。

受験や入学手続にはタイムリミットがありますから、家庭裁判所において実際にどのように調停等を運用していくのか、非常に難しい制度だと思います。

「親権行使者の指定」制度は、先にお話ししたとおり、「特定の事項」について親権を行使する者を決めてもらう制度です。

そうしますと、どの程度の「特定」が必要なのか、ということが実務家(弁護士)としては気になるところです。

この「特定」の程度については、「○○高校との在学契約の締結及びこれに付随する事項」というレベルまで特定する必要はないと考えられています。

親権行使者の指定の申立てをする時点では、子がどの高校に進学するかは確定していないと考えられます。

「○○高校との在学契約の締結」という申立てをしてしますと、仮に申立てが認められたとしても、子が「○○高校」に不合格となってしまった場合、父母のいずれか一方が、当然に、併願していた「××高校」との在学契約を単独で結ぶことができる、ということにはならないためです。

在学契約に関する親権行使者の指定については、「高校との在学契約の締結及び~」というレベルで特定をすれば良いようです。

「親権行使者」の決め方

「特定の事項」について、父母のいずれに単独で親権を行使させるかについては、どのように決められるのでしょうか。

たとえば、高校への進学が問題となっている場面では、①いずれの親が親権を行使する(進学先を決定する)ことが子の利益にかなうのか、及び、②子の意思、意向はどうか、ということが総合的に考慮されて決定されます。

より具体的には、同居期間中における父母の役割分担、子の進学をめぐる父母間や兄弟間でのやり取り、子の年齢、成績、特性等、父母の経済状況、他の兄弟の進学状況、進学先の学校の状況等が考慮されるようです。

進学先の決定に関する親権行使者を決めるにあたって、「どちらの高校がより子どものために良いのか」という観点から検討されるわけではありません。

なお、子の意思、意向はどうか、という点とも関連しますが、子が15歳以上の場合で、裁判所が親権行使者を審判によって決定する場合には、家事事件手続法により、子の陳述を聴かなければならないとされています。

今後のどこかのブログで、子の「居所」に決定に関する事項についても触れたいと思いますが、個人的には、改正民法が施行された後、「親権行使者の指定」制度は爆発的に利用されることになるのではないかと思っています。

離婚後の「共同親権」制度2 ~「共同親権」下でも親権の単独行使が可能な場合 その1

2025-10-20

「親権」の内容

皆様、こんにちは。静岡で弁護士をしております石川アトムです。

10月も後半に入り、秋めいた空気になってきましたね。

さて、我が国でも、令和7年5月までに離婚後の子どもに対する「共同親権」制度がスタートします。

今回は、「共同親権」に関するブログの第2弾です。

今回も、前回のブログと同様に、「離婚後の」という趣旨で「『共同親権』制度」や「『共同親権』」という用語を用います。

「共同親権」シリーズのブログをお送りしていますが、そもそも「親権」の内容とは何でしょうか。

「親権」というと、子どもと一緒に生活をして、子どもの面倒を看て、教育をして、というイメージがあると思います。

そういった行為をする親の権利義務も「親権」の一部です(「身上監護」といいます)。

しかし、「親権」には、子に対する身上監護だけではなく、子の財産を管理する権利義務(「財産管理」)も含まれます。

このほか、「親権」には、子の身分行為を代理することも含まれます。

身分行為としては、子の氏の変更などがあります。

改正民法では、このような「親権」について、親の権利という性質だけではなく、親の子に対する義務としての側面もあるということが明記されています。

「共同親権」でも「親権」の単独行使が可能である場合

「親権」は、夫婦が婚姻中であれば、共同して行うことになります。

また、来年の5月以降は、夫婦が離婚した後も「共同親権」ということになれば、父母が共同して「親権」を行使することになります。

しかし、常に、父母が親権を共同で行使しなければならないとすると、子の利益を害するような場面も出てきます。

そこで、改正民法上、以下の場合には、「共同親権」の状態にあっても、父母のどちらか一方が単独で「親権」を行使することができると定められました。

①父母の一方が親権を行うことができないとき

②監護教育に関する日常の行為をするとき

③子の利益のために急迫の事情があるとき

④特定の事項について家庭裁判所の許可により親権行使者が定められた場合

以上の4つのうち、②から④は改正民法によって新設された規定です。

今後特にポイントになってきそうな規定は、③と④だと思います。

①から④を順に見ていきましょう。

まず、①「父母の一方が親権を行うことができないとき」です。

これは、父母のいずれか一方が長期の旅行に行ってしまった場合、行方不明になってしまった場合、受刑者になってしまった場合、成年後見の開始を受けた場合、親権喪失の宣告がされた場合などが当てはまります。

「監護教育に関する日常の行為をするとき」

次に、②「監護教育に関する日常の行為をするとき」です。

「監護教育に関する日常の行為」については、単独での親権行使が認められます。

ただし、あくまでも、親権のうちの日常的な「身上監護」に関するものについての親権行使です。

後に述べる別の例外ケースに該当しない限り、子の財産管理や身分行為の代理をするためには、共同での親権行使が必要です。

どのような行為が「監護教育に関する日常の行為をするとき」に当たるのか、ということについては、法務省民事局のパンフレットに言及があります。

具体的には以下のような例が挙げられています。

・食事や服装の決定

・期間の観光目的での旅行

・心身に重大な影響を与えない医療行為の決定

・通常のワクチン接種

・習い事

・高校生の放課後のアルバイトの許可

他方で、「日常の行為」に該当しない例としては、以下のような事由が挙げられています。

・こどもの転居

・進路に影響する進学先の決定(高校に進学せず就職するなどの判断を含む)

・私立小中学校への入学、高校への進学・退学など

・心身に重大な影響を与える医療行為の決定

・財産の管理(預金口座の開設など)

「子の利益のために急迫の事情があるとき」

共同親権下において、単独での親権行使が可能な場面の3つ目は、「子の利益のために急迫の事情があるとき」です。

こちらは、父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては適時の親権行使をすることができず、その結果として子の利益を害するおそれがあるようなケースを指すと言われています。

法制審議会では、入学試験の合格発表後に行われる入学手続、緊急で医療行為を受ける必要がある場合の診療契約、DVや虐待から逃れる必要がある場合などが検討されたようです。

他方で、手術日まで2、3か月程度の余裕があるときには直ちに「急迫の事情があるとき」には当たらないとの法務大臣の答弁もあったようです。

どのような場合が「子の利益のために急迫の事情があるとき」に当たると判断されるのかは、個別具体的なケースごとに異なると考えられ、改正法施行後の事例の集積を待ちたいと思います。

④の特定の事項について家庭裁判所の許可により親権行使者が定められた場合については、次回のブログでご説明いたします。

離婚後の「共同親権」制度1

2025-10-10

日本でも離婚後の「共同親権」制度がスタートします

皆様、こんにちは。弁護士の石川アトムです。

10月に入り、だいぶ秋めいて参りました。

今朝は少し肌寒いくらいの気候です。

さて、来年の5月から、我が国においても離婚後の子どもに対する「共同親権」の制度がスタートします。

私は、普段は会社や個人の自己破産事件を扱うことが多いのですが、静岡県内の弁護士にとって、離婚事件、親権や面会交流に関する事件は、いわば日常的な業務です。

私も離婚事件や親権に関するご相談、ご依頼をよくいただきます。

離婚後の「共同親権」制度がスタートするのは、改正された民法が来年の5月までに施行されるためですが、改正前の民法においても共同親権という制度自体は、婚姻中の夫婦と子との関係において存在していました。

以下では、「離婚後の」という趣旨で「『共同親権』制度」や「共同親権」という用語を用いることとします。

来年5月から「共同親権」制度が始まるということで、静岡県弁護士会においても、「共同親権」制度について既に2回の研修が行われています。

また、来月以降、静岡家庭裁判所の裁判官との3度のパネルディスカッションが開催される予定となっています。

そして、私は、その第1回のパネルディスカッションにおけるパネリストを仰せつかりまして、同役をお受けすることになりました。

しかし、私も、「共同親権」制度について2回の研修を受けただけでして、その程度の知識でパネルディスカッションに臨むことなど恐ろしくてできません。

そこで、「共同親権」に関する書籍などを入手して勉強し、私の知識の定着を兼ねて、ブログで「共同親権」制度についてまとめを作成することとしました。

このような事情から、今回のブログから5回にわたり、今後施行される「共同親権」制度や親権に関連する事項について、シリーズでお話をしたいと思います。

「離婚」の方法には3種類あります

そもそも親権者を決めなければならない場面というのは、子を持つ夫婦が離婚をする場面です。

そこで、まず、日本における「離婚」の方法についてお話をします。

日本では、夫婦が離婚をするための方法は3種類あります。

1つ目は、夫婦が話し合いをして、離婚届を作成し、市役所や区役所などに提出する方法です。

一般に「協議離婚」と呼ばれます。

離婚届には、子の親権者が誰であるのかということを記載する欄があります。

現時点では、未成年の子を持つ夫婦が協議離婚をするためには、夫婦のどちらが子の親権者となるのかを離婚届に記載する必要があります。

2つ目は、夫婦の話し合いの場が裁判所に移り、裁判所の中で話し合いをして、離婚をするという方法です。

裁判所での離婚についての話合いは、正式には「夫婦関係調整調停」と呼ばれますが、より簡単に「離婚調停」とも呼ばれます。

離婚調停を行い、夫婦間で離婚についての合意ができた場合、裁判所が夫婦間での話合いの結果を「調停調書」という書類にまとめてくれます。

当事者が「調停調書」を市役所や区役所に持って行くことにより、戸籍に離婚した事実が反映されます(夫婦間において、別途離婚届を作成する必要はありません)。

このような離婚の方法を「調停離婚」と呼びます。

3つ目は、離婚調停をしても離婚についての話がまとまらない場合、裁判をして離婚をすることになります。

いわゆる「離婚裁判」ですが、日本の法律では、いきなり離婚裁判を起こすということはできません。

離婚裁判を起こすためには、必ず離婚調停を経なければいけないことになっています。

離婚裁判においては、当事者の一方または双方が離婚の原因となる事実を主張し、その事実を証拠によって証明しなければなりません。

離婚の原因となる事実の典型例としては、不貞、不倫が挙げられます。

裁判官が、当事者双方の主張を聴いて、離婚の原因となる事実が認められるかどうかを証拠によって認定し、当該夫婦を離婚させるか、離婚させないかを判決により決定します。

このような離婚の方法を「裁判離婚」と呼びます。

親権者の決定が協議離婚の要件ではなくなります

先ほどもお話ししたように、現在の(改正前の)民法の下では、未成年の子どもがいる夫婦が離婚をするためには、父母のいずれが子の親権者となるかということを離婚時までに必ず決めなければなりませんでした。

逆に言うと、父母のいずれも絶対に親権者になりたいというような場合、協議離婚はできませんでした。

しかし改正民法においては、協議離婚の届けの際に、親権者の定めがされているか、親権者の定めを求める家事審判または家事調停の申立てがされているかのいずれかの条件が満たされていれば、離婚の受付けがされることになりました。

従前、夫婦間で離婚をしたいということについては意見が一致しているものの、夫婦のどちらが子の親権者となるかについて協議がまとまらないために、離婚ができないというケースが相当あったと思いますが、今後は、父母のいずれが親権者となるかという問題を一旦保留にして、離婚した後に親権者を決めるということができるようになりました。

これは、現実問題、かなり大きな改正だと思います。

ただし、離婚調停や離婚裁判においては、改正前と同様に、親権者を決めずに離婚するということはできません。

次回のブログでは、そもそも「親権」とは、どういった権利義務であるのか、という点を中心にお話をしていきたいと思います。

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