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離婚後の「共同親権」制度3 ~「共同親権」下で親権の単独行使が可能な場合 その2
共同親権下で父母間に意見の対立があった場合 ~「親権行使者の指定」制度
皆様、こんにちは。弁護士の石川アトムです。
今回も「共同親権」に関するブログで、今回はその第3弾です。
つい先ほど、政府の閣議により、「共同親権」のスタート時期が令和8年4月1日と決定されました。
いよいよ「共同親権」制度が迫ってきたという感じがします。
さて、前回のブログでは、「共同親権」下においても、父母のいずれか一方が単独で「親権」を行使することができる場面について、3つの場合を説明しました。
今回のブログは、「共同親権」下においても、父母のいずれか一方が単独で「親権」を行使することができる4つ目の場面の説明から始めます。
その4つ目の場面は、ある「特定の事項に係る親権の行使」について父母間に協議が調わず、その「特定の事項に係る親権」を父母のいずれか一方に単独で行使させることが「子の利益のため必要がある」と言える場合です。
前回のブログで紹介した父母が単独で親権を行使することができる3つ目の場面、「子の利益のために急迫の事情があるとき」は、父母の意見が対立した際にも使用され得る規定だと思いますが、特定の事項に係る親権行使者が定められる場合というのは、まさに、親権行使について父母の対立があった際に使用されることが想定された規定です。
「特定の事項に係る親権の行使」
この規定は、ある「特定の事項」に関する親権の行使について父母間で協議が調わず、子の利益のためにその「特定の事項」について、父母のいずれか一方が単独で親権を行使する必要があると家庭裁判所が認めたときに、父母の一方による単独親権行使を認める規定です。
この制度は、ある「特定の事項について」という点が大きなポイントです。
特定の、限定された事柄についてのみ親権の単独行使を認める、という制度です。
この規定において想定されている「特定の事項」とは、子の進学先の選択、子の心身に重大な影響を与える医療行為の決定、子の居所の指定や転居、子の財産管理などです。
たとえば、私立中学校へ進学させるか、公立の中学校へ進学させるかについて、父母の意見がまとまらない、といった場面で使用されることが想定されています。
他方で、「親権行使者の指定」制度は、現実に紛争が発生している状態でなければ利用することができません。
近い将来、父母間で子の進学のことで揉めるだろうと思って予め申立てを行う、ということはできないのです。
受験や入学手続にはタイムリミットがありますから、家庭裁判所において実際にどのように調停等を運用していくのか、非常に難しい制度だと思います。
「親権行使者の指定」制度は、先にお話ししたとおり、「特定の事項」について親権を行使する者を決めてもらう制度です。
そうしますと、どの程度の「特定」が必要なのか、ということが実務家(弁護士)としては気になるところです。
この「特定」の程度については、「○○高校との在学契約の締結及びこれに付随する事項」というレベルまで特定する必要はないと考えられています。
親権行使者の指定の申立てをする時点では、子がどの高校に進学するかは確定していないと考えられます。
「○○高校との在学契約の締結」という申立てをしてしますと、仮に申立てが認められたとしても、子が「○○高校」に不合格となってしまった場合、父母のいずれか一方が、当然に、併願していた「××高校」との在学契約を単独で結ぶことができる、ということにはならないためです。
在学契約に関する親権行使者の指定については、「高校との在学契約の締結及び~」というレベルで特定をすれば良いようです。
「親権行使者」の決め方
「特定の事項」について、父母のいずれに単独で親権を行使させるかについては、どのように決められるのでしょうか。
たとえば、高校への進学が問題となっている場面では、①いずれの親が親権を行使する(進学先を決定する)ことが子の利益にかなうのか、及び、②子の意思、意向はどうか、ということが総合的に考慮されて決定されます。
より具体的には、同居期間中における父母の役割分担、子の進学をめぐる父母間や兄弟間でのやり取り、子の年齢、成績、特性等、父母の経済状況、他の兄弟の進学状況、進学先の学校の状況等が考慮されるようです。
進学先の決定に関する親権行使者を決めるにあたって、「どちらの高校がより子どものために良いのか」という観点から検討されるわけではありません。
なお、子の意思、意向はどうか、という点とも関連しますが、子が15歳以上の場合で、裁判所が親権行使者を審判によって決定する場合には、家事事件手続法により、子の陳述を聴かなければならないとされています。
今後のどこかのブログで、子の「居所」に決定に関する事項についても触れたいと思いますが、個人的には、改正民法が施行された後、「親権行使者の指定」制度は爆発的に利用されることになるのではないかと思っています。
静岡を拠点に活動する弁護士の石川アトムと申します。静岡市に育ち、大学時代に祖母が交通事故に遭ったことをきっかけに、人の人生の大切な一歩を支えたい気持ちが芽生えました。東北大学法学部や京都大学法科大学院で学び、地元で弁護士として働きたい想いを胸に、2022年に独立開業し、石川アトム法律事務所を立ち上げました。事件の進行状況や今後の見通しをこまめに伝えるよう心がけ、ご相談者さまの安心につながればと思っています。趣味は英会話。
離婚後の「共同親権」制度2 ~「共同親権」下でも親権の単独行使が可能な場合 その1
「親権」の内容
皆様、こんにちは。静岡で弁護士をしております石川アトムです。
10月も後半に入り、秋めいた空気になってきましたね。
さて、我が国でも、令和7年5月までに離婚後の子どもに対する「共同親権」制度がスタートします。
今回は、「共同親権」に関するブログの第2弾です。
今回も、前回のブログと同様に、「離婚後の」という趣旨で「『共同親権』制度」や「『共同親権』」という用語を用います。
「共同親権」シリーズのブログをお送りしていますが、そもそも「親権」の内容とは何でしょうか。
「親権」というと、子どもと一緒に生活をして、子どもの面倒を看て、教育をして、というイメージがあると思います。
そういった行為をする親の権利義務も「親権」の一部です(「身上監護」といいます)。
しかし、「親権」には、子に対する身上監護だけではなく、子の財産を管理する権利義務(「財産管理」)も含まれます。
このほか、「親権」には、子の身分行為を代理することも含まれます。
身分行為としては、子の氏の変更などがあります。
改正民法では、このような「親権」について、親の権利という性質だけではなく、親の子に対する義務としての側面もあるということが明記されています。
「共同親権」でも「親権」の単独行使が可能である場合
「親権」は、夫婦が婚姻中であれば、共同して行うことになります。
また、来年の5月以降は、夫婦が離婚した後も「共同親権」ということになれば、父母が共同して「親権」を行使することになります。
しかし、常に、父母が親権を共同で行使しなければならないとすると、子の利益を害するような場面も出てきます。
そこで、改正民法上、以下の場合には、「共同親権」の状態にあっても、父母のどちらか一方が単独で「親権」を行使することができると定められました。
①父母の一方が親権を行うことができないとき
②監護教育に関する日常の行為をするとき
③子の利益のために急迫の事情があるとき
④特定の事項について家庭裁判所の許可により親権行使者が定められた場合
以上の4つのうち、②から④は改正民法によって新設された規定です。
今後特にポイントになってきそうな規定は、③と④だと思います。
①から④を順に見ていきましょう。
まず、①「父母の一方が親権を行うことができないとき」です。
これは、父母のいずれか一方が長期の旅行に行ってしまった場合、行方不明になってしまった場合、受刑者になってしまった場合、成年後見の開始を受けた場合、親権喪失の宣告がされた場合などが当てはまります。
「監護教育に関する日常の行為をするとき」
次に、②「監護教育に関する日常の行為をするとき」です。
「監護教育に関する日常の行為」については、単独での親権行使が認められます。
ただし、あくまでも、親権のうちの日常的な「身上監護」に関するものについての親権行使です。
後に述べる別の例外ケースに該当しない限り、子の財産管理や身分行為の代理をするためには、共同での親権行使が必要です。
どのような行為が「監護教育に関する日常の行為をするとき」に当たるのか、ということについては、法務省民事局のパンフレットに言及があります。
具体的には以下のような例が挙げられています。
・食事や服装の決定
・期間の観光目的での旅行
・心身に重大な影響を与えない医療行為の決定
・通常のワクチン接種
・習い事
・高校生の放課後のアルバイトの許可
他方で、「日常の行為」に該当しない例としては、以下のような事由が挙げられています。
・こどもの転居
・進路に影響する進学先の決定(高校に進学せず就職するなどの判断を含む)
・私立小中学校への入学、高校への進学・退学など
・心身に重大な影響を与える医療行為の決定
・財産の管理(預金口座の開設など)
「子の利益のために急迫の事情があるとき」
共同親権下において、単独での親権行使が可能な場面の3つ目は、「子の利益のために急迫の事情があるとき」です。
こちらは、父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては適時の親権行使をすることができず、その結果として子の利益を害するおそれがあるようなケースを指すと言われています。
法制審議会では、入学試験の合格発表後に行われる入学手続、緊急で医療行為を受ける必要がある場合の診療契約、DVや虐待から逃れる必要がある場合などが検討されたようです。
他方で、手術日まで2、3か月程度の余裕があるときには直ちに「急迫の事情があるとき」には当たらないとの法務大臣の答弁もあったようです。
どのような場合が「子の利益のために急迫の事情があるとき」に当たると判断されるのかは、個別具体的なケースごとに異なると考えられ、改正法施行後の事例の集積を待ちたいと思います。
④の特定の事項について家庭裁判所の許可により親権行使者が定められた場合については、次回のブログでご説明いたします。
静岡を拠点に活動する弁護士の石川アトムと申します。静岡市に育ち、大学時代に祖母が交通事故に遭ったことをきっかけに、人の人生の大切な一歩を支えたい気持ちが芽生えました。東北大学法学部や京都大学法科大学院で学び、地元で弁護士として働きたい想いを胸に、2022年に独立開業し、石川アトム法律事務所を立ち上げました。事件の進行状況や今後の見通しをこまめに伝えるよう心がけ、ご相談者さまの安心につながればと思っています。趣味は英会話。
離婚後の「共同親権」制度1
日本でも離婚後の「共同親権」制度がスタートします
皆様、こんにちは。弁護士の石川アトムです。
10月に入り、だいぶ秋めいて参りました。
今朝は少し肌寒いくらいの気候です。
さて、来年の5月から、我が国においても離婚後の子どもに対する「共同親権」の制度がスタートします。
私は、普段は会社や個人の自己破産事件を扱うことが多いのですが、静岡県内の弁護士にとって、離婚事件、親権や面会交流に関する事件は、いわば日常的な業務です。
私も離婚事件や親権に関するご相談、ご依頼をよくいただきます。
離婚後の「共同親権」制度がスタートするのは、改正された民法が来年の5月までに施行されるためですが、改正前の民法においても共同親権という制度自体は、婚姻中の夫婦と子との関係において存在していました。
以下では、「離婚後の」という趣旨で「『共同親権』制度」や「共同親権」という用語を用いることとします。
来年5月から「共同親権」制度が始まるということで、静岡県弁護士会においても、「共同親権」制度について既に2回の研修が行われています。
また、来月以降、静岡家庭裁判所の裁判官との3度のパネルディスカッションが開催される予定となっています。
そして、私は、その第1回のパネルディスカッションにおけるパネリストを仰せつかりまして、同役をお受けすることになりました。
しかし、私も、「共同親権」制度について2回の研修を受けただけでして、その程度の知識でパネルディスカッションに臨むことなど恐ろしくてできません。
そこで、「共同親権」に関する書籍などを入手して勉強し、私の知識の定着を兼ねて、ブログで「共同親権」制度についてまとめを作成することとしました。
このような事情から、今回のブログから5回にわたり、今後施行される「共同親権」制度や親権に関連する事項について、シリーズでお話をしたいと思います。
「離婚」の方法には3種類あります
そもそも親権者を決めなければならない場面というのは、子を持つ夫婦が離婚をする場面です。
そこで、まず、日本における「離婚」の方法についてお話をします。
日本では、夫婦が離婚をするための方法は3種類あります。
1つ目は、夫婦が話し合いをして、離婚届を作成し、市役所や区役所などに提出する方法です。
一般に「協議離婚」と呼ばれます。
離婚届には、子の親権者が誰であるのかということを記載する欄があります。
現時点では、未成年の子を持つ夫婦が協議離婚をするためには、夫婦のどちらが子の親権者となるのかを離婚届に記載する必要があります。
2つ目は、夫婦の話し合いの場が裁判所に移り、裁判所の中で話し合いをして、離婚をするという方法です。
裁判所での離婚についての話合いは、正式には「夫婦関係調整調停」と呼ばれますが、より簡単に「離婚調停」とも呼ばれます。
離婚調停を行い、夫婦間で離婚についての合意ができた場合、裁判所が夫婦間での話合いの結果を「調停調書」という書類にまとめてくれます。
当事者が「調停調書」を市役所や区役所に持って行くことにより、戸籍に離婚した事実が反映されます(夫婦間において、別途離婚届を作成する必要はありません)。
このような離婚の方法を「調停離婚」と呼びます。
3つ目は、離婚調停をしても離婚についての話がまとまらない場合、裁判をして離婚をすることになります。
いわゆる「離婚裁判」ですが、日本の法律では、いきなり離婚裁判を起こすということはできません。
離婚裁判を起こすためには、必ず離婚調停を経なければいけないことになっています。
離婚裁判においては、当事者の一方または双方が離婚の原因となる事実を主張し、その事実を証拠によって証明しなければなりません。
離婚の原因となる事実の典型例としては、不貞、不倫が挙げられます。
裁判官が、当事者双方の主張を聴いて、離婚の原因となる事実が認められるかどうかを証拠によって認定し、当該夫婦を離婚させるか、離婚させないかを判決により決定します。
このような離婚の方法を「裁判離婚」と呼びます。
親権者の決定が協議離婚の要件ではなくなります
先ほどもお話ししたように、現在の(改正前の)民法の下では、未成年の子どもがいる夫婦が離婚をするためには、父母のいずれが子の親権者となるかということを離婚時までに必ず決めなければなりませんでした。
逆に言うと、父母のいずれも絶対に親権者になりたいというような場合、協議離婚はできませんでした。
しかし改正民法においては、協議離婚の届けの際に、親権者の定めがされているか、親権者の定めを求める家事審判または家事調停の申立てがされているかのいずれかの条件が満たされていれば、離婚の受付けがされることになりました。
従前、夫婦間で離婚をしたいということについては意見が一致しているものの、夫婦のどちらが子の親権者となるかについて協議がまとまらないために、離婚ができないというケースが相当あったと思いますが、今後は、父母のいずれが親権者となるかという問題を一旦保留にして、離婚した後に親権者を決めるということができるようになりました。
これは、現実問題、かなり大きな改正だと思います。
ただし、離婚調停や離婚裁判においては、改正前と同様に、親権者を決めずに離婚するということはできません。
次回のブログでは、そもそも「親権」とは、どういった権利義務であるのか、という点を中心にお話をしていきたいと思います。
静岡を拠点に活動する弁護士の石川アトムと申します。静岡市に育ち、大学時代に祖母が交通事故に遭ったことをきっかけに、人の人生の大切な一歩を支えたい気持ちが芽生えました。東北大学法学部や京都大学法科大学院で学び、地元で弁護士として働きたい想いを胸に、2022年に独立開業し、石川アトム法律事務所を立ち上げました。事件の進行状況や今後の見通しをこまめに伝えるよう心がけ、ご相談者さまの安心につながればと思っています。趣味は英会話。
