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1 後遺症(後遺障害)が残ったと判断される時期~「症状固定」
(1)「症状固定」とは
残念ながら現代の医学では治療を続けたとしてもこれ以上お怪我の状態が良くならないという状態のことを「症状固定」と言います。
交通事故によって怪我をされた場合、お怪我が完治して治療終了となるか、「症状固定」の状態に至って治療終了となるか、いずれかの状態に至って治療は終了となります。
(2)後遺症(後遺障害)が残ったと判断される時期
後遺障害が残ったかどうかを判断できる時期は、原則として「症状固定」に至った段階です。
「症状固定」前は治療が継続している状態であり、怪我の状態や症状は今後良くなる可能性があるためです。
「症状固定」の判断をするのは医師ですが、医師から「症状固定」と判断された時点でも、痛みがあったり、関節の可動域に制限があったりする場合などには、後遺障害の認定を受けることを検討します。
2 後遺障害が認められた場合~後遺障害慰謝料
(1)交通事故損害賠償における2つの「慰謝料」
交通事故における損害賠償請求の場面で「慰謝料」と呼ばれるものは、2種類あります。
1つ目は、入通院慰謝料です。
入通院慰謝料とは、事故によって怪我を負い、その怪我や治療による精神的苦痛を慰謝するものとして支払われる慰謝料です。
2つ目は、後遺障害慰謝料です。
後遺障害があると認められた場合には、後遺障害が残ってしまったことに関する精神的苦痛を慰謝するものとして、慰謝料が支払われます。これが「後遺障害慰謝料」です。
(2)後遺障害慰謝料の金額
後遺障害に関しては、「後遺障害等級」というものが定められており、等級は、1級から14級まであります。
一番下の14級の後遺障害が認められた場合、当該後遺障害について、110万円の後遺障害慰謝料を請求することができます。
また、13級の後遺障害であれば180万円、12級の後遺障害であれば290万円の後遺障害慰謝料を、それぞれ請求することができます。
このように、後遺障害が認められた場合、賠償金額は大幅に増額されます。
3 後遺障害が認められた場合~逸失利益
(1)逸失利益とは
交通事故に関する損害賠償請求に関して、「休業損害」という言葉を聞いたことがある方は多いかもしれませんが、「逸失利益」(いっしつりえき)という言葉はあまり馴染みが無いかもしれません。
「休業損害」は、交通事故によって怪我をしたり、その怪我の治療を受けたりしたことで会社を休み、その分の給料が会社から支払われなかったり、有給を消化したりしなければならなかったことについて、賠償を求めるものです。
「休業損害」は、「症状固定」時までの休業について、賠償を求めるものです。
これに対して、後遺障害による「逸失利益」とは、交通事故によって後遺障害を負ったことによって、仕事に支障が出たり、就労能力や作業効率が低下してしまったりしたことについて、賠償を求めるものです。
たとえば、交通事故に遭って片方の目を失明してしまったという場合、このような後遺障害は後遺障害等級8級1号に該当します。
そして、片方の目を失明してしまった結果、これまで行っていた職務内容に支障が出たり、職務を行えなくなってしまったりすることが想定されます。
交通事故がなければ失明をせず、普通に業務を行うことができたのに、事故による失明のために作業効率が落ちてしまった、作業を行うことができなくなってしまった、ということについて賠償を求めることができます。
このような損害費目のことを「逸失利益」と言います。
(2)逸失利益の計算方法
先ほどは、片目を失明してしまったケース(後遺障害等級8級1号)を例に挙げましたが、仮にその方が症状固定時に47歳であり、年収が400万円であった場合、どれほどの「逸失利益」を請求することが可能となるか、ご説明いたします。
逸失利益は、症状固定時の収入×就労可能年数×労働能力喪失率という計算式により計算されます。
(3)就労可能年数とは
就労可能年数は、原則として、症状固定時の年齢から、その人が67歳になるまでの年数を言います。
たとえば、被害者が症状固定時に47歳であれば、就労可能年数は20年間となります。
ただし、逸失利益の金額を計算する場面では、「20年」という数字を直接用いるわけではなく、ライプニッツ係数という係数で20年に該当する数字を用いることになります。
「20年」に該当するライプニッツ係数は、2020年4月1日以降に発生した交通事故であれば14.8775、2020年3月31日以前に発生した交通事故であれば12.4622です。
(4)労働能力喪失率
労働能力喪失率も、後遺障害の等級に応じて定められています。
14級であれば5%、13級であれば9%、8級であれば45%と定められています。
(5)逸失利益の計算方法~具体例
先ほどの具体例でお示ししたケースで、当該交通事故が2020年5月に発生したものだとした場合、当該後遺障害に基づく逸失利益は、以下のとおり計算できます。
400万円×14.8775×45%=2677万9500円
逸失利益との関係でも、後遺障害が認められた場合、請求金額は大幅に増加する可能性があります。
4 後遺障害についてのご相談
(1)後遺障害認定の申請にあたって
後遺障害は、申請をすれば必ず認定されるというものではありません。
後遺障害に該当しない(非該当)という判断が出された場合、後遺障害の申請のために取得した後遺障害診断書の取得費用等が自己負担となってしまうことがあります。
そこで、後遺障害の認定を受けるべく申請をするかどうか、事前に弁護士に相談することが大切です。
(2)後遺障害診断書をお持ちの場合
後遺障害認定の申請にあたっては、後遺障害診断書に十分な内容が記載されているかどうかが重要です。
後遺障害診断書の内容によっては、後遺障害診断書を再度取得したり、医師に加筆を求めたりする必要がある場合もあります。
また、むち打ちや頚椎捻挫等の傷害を負われた方が後遺障害の認定を受けるかどうか悩まれている場合、診断書に検査の結果が記載されていれば、より見通しをお示ししやすくなります。
そのため、既に後遺障害診断書を取得されている場合には、ご相談の際、必ず後遺障害診断書(写しでも大丈夫です)をお持ちいただきたくお願い申し上げます。