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偏頗弁済のリスク
別のコラムでお話したとおり、偏頗弁済とは、自己破産手続で問題となる偏った弁済、不公平な弁済のことをいいます。
偏頗弁済が行われた場合、弁済をした申立人・破産者との関係では、免責不許可事由に該当する可能性があります。
つまり、偏頗弁済をすると借金が0にならないおそれがあります。
また、弁済を受けた債権者との関係では、破産管財人によって債権者が受領した弁済金の返還を求められる可能性があります(このような場合を、破産管財人による「否認権の行使」といいます)。
今回のコラムでは、どのような弁済が、免責不許可事由としての「偏頗弁済」に該当するのかについて、具体的にお話をしたいと思います。
なお、破産管財人に関する詳しいご説明については、こちらのページをご覧ください。
また、否認権行使の対象となる偏頗弁済については、こちらのページ(現在執筆中・次々回掲載予定)をご覧ください。
免責不許可事由に該当する偏頗弁済とは、どのような弁済のことか?
偏頗弁済とは、冒頭で述べたとおり、自己破産手続で問題となる偏った弁済、不公平な弁済のことです。
しかし、全ての偏った弁済、不公平な弁済が免責不許可事由に該当するわけではありません。
また、免責不許可事由との関係では、「弁済」だけではなく、「担保」の提供も免責不許可事由に該当する可能性があります。
そこで、以下では、より正確性を期すために、「偏頗行為」という名称を用いることにします。
免責不許可事由に該当する「偏頗行為」は、①から③の全てを満たすものに限られます。
① 「当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、」
② 担保を提供したり、債務を消滅させたりする行為であり、
③ 「債務者の義務に属」しないもの、または「その方法若しくは時期が債務者の義務に属しないもの」
「特別の利益を与える目的」、「他の債権者を害する目的」で行われる偏頗行為
免責不許可事由としての偏頗行為は、当該債権者に「特別の利益を与える目的」で行われる場合に限られます。
「特別の利益」とは、他の債権者との公平性を害する偏った利益のことです。
また、「特別の」と評価されるだけの大きな利益を指します。
「特別の利益を与える『目的』」は、単にそのようなことを認識しているというだけでは足りません。
より積極的に、当該債権者に特別の利益を与えることを目指して弁済等をするという意識が必要だと解されています。
また、「他の債権者を害する目的」とは、破産手続における債権者の満足を積極的に低下させようとする害意がある場合をいうとされています。
たとえば、従前から不仲であった債権者がいて、その債権者への配当を減少させる目的で、他の一部の債権者に対してだけ弁済をしてしまうような場合が該当すると思われます。
担保を提供したり、債務を消滅させたりする行為
担保を提供する場合も、免責不許可事由としての偏頗行為に該当する場合があります。
ここで言う担保の提供には、保証人、連帯保証人といった人的な担保と、抵当権、質権といった物的な担保の両方が含まれます。
債務を消滅させる行為の典型は、弁済です。
単純な「弁済」だけではなく、本来の目的物に代えて他の物で弁済をする「代物弁済」も、免責不許可事由における偏頗行為の対象に含まれます。
代物弁済の具体例としては、1000万円の借入金に対して、現金ではなく、在庫商品を譲渡したり、不動産を譲渡したりして返済をすることが考えられます。
このほか、弁済期が到来していない相手方の債権と、こちらが相手方に対して持っている債権とを相殺するという合意をする場合も、免責不許可事由で問題となる偏頗行為に含まれます。
「債務者の義務に属」しないもの、または「その方法若しくは時期が債務者の義務に属しないもの」
まずは、弁済などの債務を消滅させる行為について考えてみましょう。
弁済などの債務を消滅させる行為について「時期が債務者の義務に属しないもの」とは、簡単に言えば、弁済期が到来していないのに、支払いをしてしまう場合です。
債権者Aへの弁済期が5月31日、債権者Bへの弁済期が5月15日であるとしましょう。
債権者Bへ払ってしまうと債権者Aへの支払いができなくなってしまう。
債権者Aにはお世話になったから債権者Aには支払いをしたい。
そうだ、5月14日に債権者Aへ支払いをしてしまおう。
このようなケースが「時期が債務者の義務に属しないもの」に該当すると考えられます。
債務の消滅行為について、「その方法」「が債務者の義務に属しないもの」に該当する場合というのは、少し想像が難しいのですが、たとえば、お金で支払いをするという約束だったものを、在庫商品を譲渡して弁済をするというような場合があり得ると思われます。
次に、担保の提供行為についてです。
担保の提供に関して「債務者の義務に属」しないものとは、担保を提供するという約束が無かったのに、担保を提供してしまう場合のことをいいます。
担保の提供が破産者の義務に属すると認められるためには、破産者と債権者との間に、担保を提供するという特約が存在する必要があります。
お金を借りている、買掛金があるというだけでは、当然に担保を提供する義務があるとは認められません。
定められた期間よりも前に担保を提供する場合は、「時期が債務者の義務に属しないもの」に該当すると考えられます。
また、連帯保証人を付けるという約束だったのに、不動産に抵当権を設定するといったような場合は、「その方法」「が債務者の義務に属しないもの」に該当すると言えるでしょう。
不公平な弁済をしてしまったと思ったら弁護士に事情を説明しましょう
これまでお話ししてきたように、不公平な弁済は、免責不許可事由に該当する可能性がありますが、全ての不公平な弁済が免責不許可事由に該当するわけではありません。
不公平な弁済はしないことが一番ですが、自己破産を申し立てるにあたって、特定の債権者にだけ迷惑を掛けないようにするために弁済をしてしまった、という心当たりがある場合には、速やかに弁護士に相談をしましょう。
そして、自己破産手続を申し立てる前に、そのような弁済が免責不許可事由に該当しないかどうか弁護士からアドバイスを受け、場合によっては、事後的な是正措置をとることが免責決定を得るうえで重要です。