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1 交通事故損害賠償請求における「慰謝料」とは~入通院慰謝料と後遺障害慰謝料
(1)交通事故事件においてよくあるご相談~慰謝料を増額できないか
交通事故における損害賠償請求に関するご相談では、「相手方保険会社から提示された慰謝料額は妥当なのか。」「慰謝料をもう少し増額できないか。」といったご相談をいただくことが数多くあります。
(2)入通院慰謝料
交通事故における損害賠償請求の場面で「慰謝料」と呼ばれるものは、2種類あります。
1つ目は、入通院慰謝料です。
入通院慰謝料とは、事故によって怪我を負い、怪我を負ってしまったことや治療を余儀なくされたことによる精神的苦痛を慰謝するものとして支払われる慰謝料です。
(3)後遺障害慰謝料
2つ目は、後遺障害慰謝料です。
残念ながら現代の医学では治療を続けたとしてもこれ以上お怪我の状態が良くならないという状態のことを「症状固定」と言います。
症状固定に至った時点でも、たとえば、まだお痛みが残っていたり、関節の可動域に制限が出ていたりする場合、後遺障害の認定を受けられることがあります。
後遺障害があると認められた場合には、後遺障害が残ってしまったことに関する精神的苦痛を慰謝するものとして、慰謝料が支払われます。これが「後遺障害慰謝料」です。
以下、「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」について、場合を分けて、慰謝料増額のポイントをご説明いたします。
2 入通院慰謝料を増額させるポイント
(1)入通院慰謝料の計算方法
入通院慰謝料は、基本的には、入通院の期間によって算定されます(一般的には、入通院の期間が長くなればなるほど、入通院慰謝料の金額は増額される傾向にあると言えます)。
自賠責保険における慰謝料金額は、治療期間または実治療日数の2倍のいずれか少ない期間について、1日4300円と算定されます(2020年3月31日以前に発生した交通事故の場合は1日4200円です)。
(2)自賠責保険基準、任意保険基準
弁護士が代理人として関与していない場合、相手方保険会社は、入通院慰謝料の金額に関して、自賠責保険の基準に基づいた示談金額を提示してくることがあります。
また、自賠責保険の慰謝料金額ほど低額ではない場合でも、任意保険会社独自の基準に基づいた慰謝料金額を提示してくる場合がありますが(任意保険基準)、そのような金額も、一般的には、裁判をした場合に認められる金額と比べて低額となっていることがほとんどです。
(3)入通院慰謝料を増額させるポイント
1:弁護士基準、裁判基準
「弁護士基準」や「裁判基準」という言葉を聞かれたことがあるかもしれません。
このホームページでは、裁判をした場合に認められるであろうと見込まれる金額のことを「裁判基準」といいます。
弁護士が被害者の代理人になって相手方保険会社と示談交渉をする場合、基本的には、裁判をした場合に認められるであろうと見込まれる金額、すなわち「裁判基準」により慰謝料の金額を計算します。
保険会社が提示してきた慰謝料額を「裁判基準」による適正な金額に計算し直すだけでも、数万円から数十万円の増額が見込める場合があります。
2:症状固定前からの対応
先ほども述べましたように、入通院慰謝料の金額は、基本的には、入通院の期間によって算定され、入通院の期間が長ければ長いほど、入通院慰謝料の金額は増額される傾向にあります。
そして、ここでいう「入通院の期間」というのは、「症状固定」前の入通院期間をいいます。
「症状固定」と判断された後に通院を継続したとしても、慰謝料は増額されません。
「症状固定」の状態にあるかどうかを決めるのは医師です。
適正な慰謝料金額を得るためには、医師において、適切な時期に「症状固定」と判断してもらう必要があります。そのためには、症状固定前の医師との診察時において、被害者から医師に対して、怪我の症状等についてどのようなことを伝えるべきかということが大切になってきます。
弁護士が被害者の代理人に就任している場合、弁護士から被害者に対して、医師との診察時において、被害者から医師に対して、怪我の症状等についてどのようなことを伝えるべきかについてアドバイスをすることができます。
適正な慰謝料金額を得るためには、症状固定前から弁護士に相談しておくことが有益です。
3:個別の事情による増額
入通院慰謝料の金額については、入通院期間を基礎とする一定の基準が存在しますが、お怪我の状態が重かったものや、手術を何度も繰り返した場合など、特別な事情がある場合には、これまでの裁判例の集積を踏まえて、基準金額を超えて、慰謝料の増額が可能な場合があります。
基準金額を超える慰謝料の増額が可能かどうかという検討にあたっては、交通事故訴訟に関して専門的な知識を有する弁護士のサポートが不可欠と考えられます。
3 後遺障害慰謝料の増額のポイント
(1)後遺障害慰謝料の計算方法
後遺障害が残存していることが認められた場合、後遺障害が残ってしまったことに対して慰謝料を請求することができます。
後遺障害慰謝料については、後遺障害の重さ(等級)を基礎として、14級なら110万円、12級なら290万円というように、基準となる一定の金額が存在します。
(2)後遺障害慰謝料の増額のポイント
1:後遺障害認定
後遺障害が残存していない場合、原則として、入通院慰謝料以外の慰謝料は認められません。
そこで、後遺障害を認定してもらえるかどうかが第1のポイントとなります。
後遺障害認定の申請にあたっては、後遺障害診断書に十分な内容が記載されているかどうかが重要です。
後遺障害診断書の記載内容によっては、後遺障害診断書を再度取得したり、医師に加筆を求めたりする必要がある場合もあります。
そのため、後遺障害認定の申請を出す前に弁護士と相談し、後遺障害診断書の内容を確認してもらうことが有益です。
2:後遺障害認定「非該当」に対する異議申立て
後遺障害認定で「非該当」となった場合(後遺障害の存在は認められないという判断が出た場合)、「非該当」という認定に対して、異議申立を行うことができます。
異議申立を行う際には、初回の後遺障害の認定申請の際に提出した書類と同じ書類を提出しても意味がないことが多く、新たに、医療機関からカルテ等を取り寄せて提出したり、医師等から後遺障害が存在していることを裏付ける意見書を取得して提出したりする必要があります。
このような異議申立手続を取る際には、専門家である弁護士に依頼する必要があると考えられます。
3:訴訟提起1
初回の後遺障害認定において「非該当」となってしまった場合、異議申立てをしても「非該当」という結論が変わらないことも少なくありません。
そのような場合に、訴訟(裁判)を起して、裁判の中で後遺障害が存在したことを主張していくということが考えられます。
4:訴訟提起2
たとえば、後遺障害等級12級14号の「外貌に醜状を残すもの」に該当するためには、顔面部においては「長さ3センチメートル以上の線状痕」などといった要件を満たす必要があり、線状痕の長さが足りない場合は後遺障害として認定されません。
しかし、訴訟を提起した場合、後遺障害認定上は「非該当」とされた障害であっても、その種類や程度に応じて慰謝料が認められる場合があります。
全ての障害について、また、全てのケースにおいて、「非該当」とされた障害について慰謝料が認められるものではありませんが、事案によっては、裁判を起こして、「非該当」とされた障害について慰謝料請求をするということが考えられます。
後遺障害認定において「非該当」とされたケースでも、障害の内容によっては、弁護士に依頼することによって、慰謝料が増額できる場合があります。