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「勾留」とは?
皆さん、こんにちは。弁護士の石川アトムです。
ここ最近は、刑事事件についてのブログを書いていますが、今回は「勾留」という手続に関するお話です。
何か罪を犯したのではないかと疑われている人が逮捕された場合、多くのケースでは、逮捕から72時間以内に、裁判官によって「勾留」という決定が下されます。
ここでいう「勾留」というのは、その人を10日間捕えたままの状態にします、という決定のことです。
このように、一旦逮捕されてしまうと、逮捕から最長72時間、勾留決定から(勾留決定の日を入れて)10日間、警察署や拘置所で捕まったままの状態になってしまうことが多くあります。
この「勾留」は、1回だけ延長することが可能です。
延長されると、さらに10日間捕まったままの状態になってしまう可能性があります。
被疑者勾留の最終日に決定される「処分」
さて、「勾留」の最終日(多くの場合は、勾留決定後10日目の日)、検察官は、その人(以下便宜上「Aさん」といいます)をどのような手続にかけるのかを決めます。
処分の内容は、以下の5つが考えられます。
1つ目は「不起訴(ふきそ)」です。
「起訴(きそ)」というのは、裁判にかけるという意味ですが、不起訴処分になった場合、文字通り裁判には掛けられません。
前科もつかず、不起訴処分になった日に釈放されます。
想定される5つの処分の中では、Aさんにとって最も軽い処分と言えます。
2つ目は「略式裁判(りゃくしき さいばん)」です。
「略式請求(りゃくしき せいきゅう)」と言うこともあります。
「略式裁判」というのは、ざっくり言うと、書類だけの裁判を行って罰金刑に処せられる処分を言います。
テレビのニュースで見るような、公開の法廷で、Aさんが出頭して、ということもありません。
罰金刑も有罪判決ですので前科がつきます。
しかし、略式裁判になった時点で、ひとまず釈放となります。
刑務所に入るということもありません。
3つ目は「公判請求(こうはん せいきゅう)」(正式裁判)です。
正式裁判というのは、法律用語ではなく、弁護士石川が勝手に使っている用語です。
「略式裁判」が書類だけの裁判であるのに対し、「正式裁判」は、テレビのニュースで見るような公開の法廷で、Aさんが出頭して行われる裁判のことです。
後にも述べますが、公判請求されると、「保釈」等の手続を取らない限り、留置場や拘置場から出てくることはできません。
裁判が終わるまで身柄が拘束された状態が続くということです。
4つ目は「処分保留」です。
処分保留というのは、文字通り、勾留の最終日には、上記の1~3のどの処分にするか決められなかったという場合です。
「処分保留」となった場合も釈放されます。
ただ、次に述べる「再逮捕」以外の「処分保留」は、最終的に「不起訴処分」となることが多いように思います。
検察庁では、勾留最終日の「処分」を決定するためには、何段階かの決裁を必要としています。
他方で、検察官は、法律上、勾留期間(10日間+追加の10日間)が満了するまでには、Aさんを起訴するか、釈放するかを決めなければなりません。
想像しますに、不起訴処分を予定しているが、決裁が間に合わなかったという場合に、「処分保留」が利用されているのではないでしょうか。
5つ目は「再逮捕」です。
たとえば、Aさんが、オレオレ詐欺の出し子(ATMなどでお金を出してくる役割の人)を複数件やっていたとします。
Aさんは、Bさんという被害者を騙したということで逮捕され、勾留されました。
Aさんは、容疑を否認していますが、警察や検察が捜査を進めていくうちに、Aさんは、Bさんからだけでなく、Cさん、Dさんからもお金を騙した取っていたということが明らかになりました。
Aさんは、勾留の最終日を迎え、Bさんに関する事件について「処分保留」として留置場から一歩出ました。
「証拠が不十分で起訴できなかったのだろうか。」
Aさんはそう思いました。
しかし、次の瞬間、警察官が「Cさんに対する詐欺容疑で逮捕する。」と言い、Aさんは、「再逮捕」されてしまいました。
実際の場面を見たことが無いので、どこまで本当か分かりませんが、再逮捕の場合、留置場から一歩出て、Aさんを形式的に釈放したうえで、その場で別の案件で逮捕するという話を聞いたことがあります。
再逮捕されてしまうと、72時間+10日間(+追加の10日間)が、また1から始まります。
言ってしまえば、「ふりだしに戻る」状態です。
ただし、別の案件があれば、必ず再逮捕されるかというと、そうでもないようです。
再逮捕するかしないのか、どのような振り分けがあるのか、もちろん証拠の有無も影響するのでしょうが、弁護士としては非常に気になるところです。
「公判請求」後の勾留
公判請求されてしまった場合、その人は、刑事裁判にかけられることになります。
これまで、勾留は、10日間(1回だけ10日間延長可能)捕まったままの状態にする決定だとお話ししてきました。
この場合の「勾留」は、被疑者段階での「勾留」手続です。
被疑者は、公判請求されると、「被告人」という呼び名に変わります。
そして、「(被疑者)勾留」も「(被告人)勾留」という手続に切り替わります。
「(被告人)勾留」では、「保釈」等の手続を取らない限り、基本的に、裁判が終わるまで捕まったままの状態が続きます。
静岡(本庁)では、公判請求されてから判決が出るまで、どれほどスムーズに手続が進んだとしても、1月以上はかかります。
そのため、公判請求されてしまうと、「保釈」等の手続を取らない限り、その時点からさらに1月以上、捕まったままの状態が続いてしまうことになります。
次回は、公判請求された場合に、判決が出る前に一時的に釈放してもらう、「保釈」という手続についてお話しします。